BATTLE:019【神速召喚・装着転成】
翌日、事前告知無しの特殊パックが各カードショップで発売され、情報をめざとく聞き付けた数多くのカードマスター達がショップに押し寄せていた。
イクサとカイトが訪れたカードショップ【カードタウン】においても、それは同じだった。
「こりゃあ、すげえなイクサ」
「うん……。まさかこんなに人が殺到するなんて」
イクサは辺りを見渡す。
まるで血に飢えた獣のように、たくさんのカードゲーマーが群がっている光景に、思わず後退ってしまう。
「サイドデッキ用のカードのためにあんなに買い込むなんて……。サイドデッキには8枚しか入れられないって言うのに」
「いやいや、それは違うぞ」
イクサの言葉をカイトは即座に否定する。
「今回のパック構成は1パックにつきカードは5枚編成で入ってる。5枚中4枚はメインデッキ用のカード、残る1枚がサイドデッキ用の特殊ガーディアンカードだ。あそこでたくさん買い込んでる奴らは、むしろメインデッキ用のカードがお目当てなのさ。しかも今回のパックは販売場所が限定されてるんだ、当然、買えるだけ買うだろうさ」
「なるほど……」
「まあ、どっちにしろ戦略の幅がかなり広がるんだ。全国大会予選を勝ち抜くためにも、少しでも周りの奴らと差を着けたいだろうし」
「確かにね……」
イクサが初めてカイトとカードバトルをした店【カードタウン】。
現在、相変わらず頼りなさそうな容貌の前田が忙しそうに切り盛りをしている。
「店長! 新パックをくれ!!」
「俺10パック!!」
「俺は20パックな!!」
「ま、待って下さい皆さん! 順番! 順番を守って下さい!! 大量に入荷してますからぁ〜!!」
案の定、新パックを求めて襲いかかるカードマスターの群れに埋もれていた。
埋もれながらも、必死な形相でパックが詰まったボックスを死守している。
とてもあの群れの中に飛び込もうとは思えない。
「……カイト。別のショップに行かない?」
「いや、他のショップで販売されてるか微妙だし、仮に売ってたとしても、ここと同じだろ……」
「……そうだね」
イクサ達は微妙な表情を浮かべながら目の前の惨状を見つめる。
俺が俺がと群がるカードマスターの群れに加わってパックを勝ち取るほど、度胸があるわけではない。むしろ無い。
「どうする、カイト?」
「どうしようか、イクサ?」
互いに顔を見合わせて苦笑いを漏らす。
すると、
「あ、ああ! そこにいるのはもしかして、カイトくんとイクサくんかい?! おーい!!」
前田らしき人物の手が、まるで助けを求めているかのように群れの中から飛び出してイクサ達の方を向いている。手に目でも付いているのだろうか。
「カイト、呼ばれてるよ」
「お前もだろ」
「いや、俺の知り合いに“手”はいないよ」
「奇遇だな、俺もだ」
「じゃあ、帰ろうか」
「だな」
イクサとカイトは互いに頷き合うとカードタウンに背を向ける。
「ま、待ってくださいよ、二人とも!! た、助けて下さい! し、死んじゃう! カードに殺されちゃいますぅ!!」
「「カードショップの店長なら、最高の死に方じゃないですか」」
「ちょ、お願いします助けてー! シングルの値段、なんでも半額にしますから! なんだったら二人に1枚ずつ無料でカードをプレゼントだってしますから!!」
前田の悲痛な叫びに、カイトの耳がピクッと動き足が止まった。
イクサは嫌な予感を感知する。
「……なあ、イクサ。人助けって尊いと思わないか?」
「確かに尊いとは思うけど、数秒前まで帰ろうとしてた奴が言う言葉じゃないね」
「人助け、無償の愛、素晴らしい!」
「無償ではないよね」
「じゃあ早速、前田店長を助けに行くぞーイクサ!」
「って、ちょっと!?」
カイトはイクサの腕を掴むとそのまま群れの中に突っ込み、「はい、通してくださいねー、すみませんねー」と言いながら前田の元まで到達する。
グッドスマイルを浮かべるカイトと、人混みに揉まれてげんなりしているイクサ。
そんな二人の様子に、前田は思わず苦笑してしまう。
カイトは販売カウンターのレジを2つ起動させる。
「じゃあ、前田店長。こっちは俺達で客捌くんで」
「ありがとうね、カイトくん」
感謝の言葉を向ける前田に対し、カイトはサムズアップをする。
「いえいえ! んじゃ、イクサ! はりきって行くぞ!!」
「やっぱり俺もやるの?」
「当たり前だろうが!」
そのままカイトは客に顔を向けて「はいはい10パックね!」と軽快に対応を始めた。恐らく、何度か前田の手伝いをしたことがあるのだろう。動作が手慣れている。
一方で、イクサは一度もアルバイトをしたことがないため、レジ打ちもたどたどしい。客も、イクサより前田とカイトの方へ流れている。
「おい、イクサ! ちゃんと真面目にやれ!」
「無茶言うな!!」
カイトに急かされ、涙目になりながらも懸命に客を捌いていくイクサ。レジの打ち方は、まさにパソコン初心者のキーボードの打ち方そのものである。
「え、えーと、消費税込みで、えーと……」
「イクサ! お前あれだ! レジ打ち中断して看板持って客を2列に整列させろ!!」
「……はい」
イクサはカイトの指示通り、早々にレジ打ちを切り上げて、【2列にお並び下さい】と書かれた看板を手に持ち、「2列で並んでくださーい」と棒読みで無秩序極まり無いカードゲーマー達を整列させていく。
だが、そう順調に行くはずもなく。
「おい! 今お前抜かしただろ!!」
「ハァ? 難癖つけんなよ!」
中には順番で争う者達が現れる。
そんな者達に対して、カイトはイクサにジェスチャーで「なんとかしろ」と伝える。
イクサもカイトにジェスチャーを送る。「どうしろと?」と。
カイトは立ち上がり、カウンターに【ただいま休止中です。隣のカウンターをご利用下さい】の立て札をかけ、争っている二人組に駆け寄る。
「はーい、そこのお二人さん! 口論するならカードバトルで白黒着けようね!!」
「いや、カイト。さすがにそれは……」
「「望むところだ!」」
「有りなの?!」
なんというバトル脳、イクサは目を見開いて呆気に取られた。
カイトはそんな様子のイクサに声をかける。
「まだ長蛇の列で待ち時間はたくさんあるから良い暇潰しになるし、こういう連中にはシンプルな方が話が通じやすいんだよ」
「そ、そういうものなの……?」
「ああ」
それだけ言うと、「じゃあな」と言ってレジカウンターに戻ってしまった。
1つの喧騒がカイトの手によって治まったものの、これはまだほんの序ノ口にしか過ぎなかった。
「順番まだかよ!」
「いい加減、退屈なんですけどー!」
「前の奴ら早く買え!」
待ち時間のあまりの退屈さに不満が爆発した者達への対応に追われることになった。
客を二列に誘導しつつ、退屈を紛らわすために、暇つぶしのためのカードバトルをいくつも兼任する。
「カオス・ナイトのバーストアビリティ発動!」
「ま、負けた……」
「カオス・エンペラー・ロードのトライブアビリティ発動! 魂の継承!!」
「なにそのトライブ!?」
一人また一人とバトルを繰り返す内、
「おいおい、なんかあっちで面白いトライブがバトルをしてるらしいぜ!」
というような口コミが広まり、カードタウンはイクサを中心に一種のお祭り状態となっていた。
「まさかカードタウンにこんなにお客さんが来てくれるなんて、開店以来初めてです! うぅ、感動して涙が……」
「ったく、イクサの奴だけずりぃな。俺だってバトルしたいってのに!」
前田の感極まった声とカイトの不満気な声が重なる。
前田はカイトに声をかける。
「よろしかったらカイトくんもどうですか? 買いに来たお客さんは大分捌けましたし、あとは僕だけでも十分対応できますから」
「あ、そうっスか? なら遠慮なく!」
前田の言葉を聞いたカイトは喜々としてカードバトルの群れの中に飛び込んだ。
集団の中心辺りから聞こえてくる「次は俺が相手だ!」というカイトの元気な声、その声に反応して勝負を受けるカードゲーマー達。
全員が楽しそうにカードバトルをしているその光景を、前田はまるで眩しいものを見るかのように目を細める。
「尊い時代になったものです」
幸せに満ちた喧騒。
だが、それを邪魔しようとする者が、現れるのだった。
「爺ぃ、止めてくれ」
「かしこまりました」
黒い大型リムジンが止まり、運転を務めていた執事らしき人物が後部座席のドアを開ける。
「坊っちゃま。次の習い事も控えております。あまり熱中せず、くれぐれもお忘れずに」
「分かってるよ、爺ぃ。ちょっとした休憩時間さ」
でっぷりと太ったオカッパヘアーの少年はニヤリと笑いながら、お祭り騒ぎのカードタウンに足を運ぶ。
「よっしゃ、勝った!」
「くっそー!」
少年はまず、身近でカードバトルに興じていた青年達二人に声をかける。
「やあ、キミたちぃ〜」
「ん? なんだお前……」
「僕もバトル・ガーディアンズをやってるんだけどさぁ。今のバトル、どっちが勝ったの? できればどういうカードを使ってるのか、デッキを見せてほしいんだけど」
「もちろん、勝ったのは俺だ! 見ろ、このカード! 特殊パックのカードのおかげで勝てたんだぜ!?」
「へえ、これは凄い。事前告知無しのパック収録のレアカードじゃないか………欲しいねぇ」
少年は青年からデッキを受け取り、カードを見る。
そして、鼻で笑う。
「あー、でもダメだねこのデッキ。ひどい、ひどすぎるよ。さっきのレアカードを除いたら、後に残るのはこんなクズカードばかりで構成されたクズデッキだっただなんて……拍子抜けだなぁ」
「な、なんだと?!」
「ん〜? もしかしてキミ、頭だけじゃなく耳も悪いのかい? なら、僕は親切だからもう一度言ってあげるよ。キミのデッキはね、クズカードばかりで構成されたクズデッキなんだよ! あー、このレアカードが可哀想だよ、こんなデッキじゃとても真価を発揮できやしない。僕なら十分使いこなせるのに。……だから、このカード、僕にちょうだいよ」
「はあ!?」
青年は少年に渡していたデッキとカードを慌てて手元に戻す。
「てめえ、結局はただの追剥か!」
「違う違う。僕はただ悲しいのさぁ。使い手を選べないカードが。そして、身の丈に合わないカードを使ってる宝の持ち腐れのキミが」
少年はクスクスと笑う。
「クズは大人しくクズカードで構成されたクズデッキで同じクズと仲良く戯れてろっての。つーか、今後一切レアカードに触れるな、価値が下がる」
「て、てめえ……言わせておけばよくも!!」
青年だけでなく、少年の失礼な物言いを聞いてた周りのカードゲーマーも少年に対して敵意を向けて睨みつける。
だが、そんな状況においても、少年のニタニタした薄気味悪い笑顔は剥がれない。まるで、正義はこちらにある、とでも言いたげだ。
「可哀想な人達。やっぱり腐った蜜柑の隣は全部腐るんだね。……ククッ、そんなに悔しいならさ、僕とバトルしてみる?」
「あぁ?」
「相変わらず理解力のない頭だねぇ。クズマスターを撤回してほしいなら実力で示せって言ってるんだよ。まあ、そんなデッキじゃ結果は見えてるけどねぇ」
「っ! …上等じゃねえかよ。吠え面かくなよ、行くぜ皆!!」
『おう!』
「それはこっちのセリフだよ、群れることしか能がないクズマスター達さん」
少年は懐からデッキを取り出し、構えた。
◇◇◇◇◇
「……ふぅ、疲れたぁ」
イクサは店内のテーブルに頭をつけてぐったりとしていた。
あれ以降、数えきれないほどのカードマスター達とのカードバトルによって、イクサはかなり疲労していた。
因みに、カイトは昼間休憩で現在、昼食を摂りに行っており、店内にはいない。
「う〜、なんか体が重い……」
ぐったりとしているイクサ。かつてないほどに、まるで重荷でも取り付けられたように全身が重く、凄まじいダル気に覆われる。
――ガヤガヤ――
――ガヤガヤ――
――ガヤガヤ――
「おや?」
売り上げをパソコンに入力していた前田は、外が突然騒ぎだしたことに違和感を感じた。
「一体、どうしたんでしょうか……。お疲れのところすみませんが、イクサくん」
「はーい?」
「少し外の様子を見て来てもらえますか? 僕は今ちょっと手が離せないので」
「……分かり、ました」
イクサは「よっこらしょ」と言って立ち上がり、店内から外に出ようとする。
すると、前田が「あ、ちょっと待って下さい」と言ってイクサを呼び止め、パックを投げ渡した。
「これって……」
「はい、特殊パックです。なんと製造番号は77777。きっと良いカードが入ってますよ」
「あ、ありがとうございます」
イクサは早速、パックを開封する。
「……あ」
カードを見る。ノーマル4枚とレア1枚の構成。
そしてイクサの目に止まったのが、レアリティの高いカード。
【カオス・アームド・ブレイヴ】
そう、書かれていた。
「このカードは……」
「ああ、アームドガーディアンですね。クロスガーディアンのパーツカードです」
前田はイクサの背後からカードを覗いてそう言った。
イクサは注意深くカードテキストを読む。
クロスガーディアンを呼び出すためのアームドアビリティを持ったガーディアン。
イクサは早速デッキホルダーを開いてデッキに組み込む。
そして、デッキホルダー内のサイドデッキ用のスペースに収納されていた名無しのカードに目を向ける。
(アームドガーディアンなら、もしかしたら、このカードに力を与えてくれるかもしれない)
デッキホルダーをポケットに入れて、肝心の喧騒に視線を向けると、ある1つのテーブルを中心に人集りができていた。
「一体、なんの騒ぎなんだ?」
イクサは早速様子を見に行くことにした。
「さてさて、これでトドメだよ、クズマスターくん?」
「こ、こんなはずじゃ……お前が、あのカードを奪わなければ……!!」
「そんなの知ったことじゃないね。ちゃんと対策を練ってないキミが悪いよ。はい、バトルフェイズ」
「くっ……!!」
イクサが到着する頃にちょうどバトルが終わったらしい。
周りを見渡すと、ガックリと項垂れているカードゲーマーの姿が複数見受けられる。どうやら全員、少年に敗北したようだ。
一方、よほど悔しい負け方をしたのか、相手をしていた青年は拳を握り締めてテーブルを叩く。
そんな青年に対し、少年はニヤニヤしながら青年に言う。
「ん〜? 誰に吠え面かくなってぇ? どっからどう見ても、吠え面をかいてるのはキミじゃないかなぁ?」
「くっ……」
「あぁ、だっさいだっさい。やっぱり僕の目に狂いはなかったねぇ、クズマスターさん?」
「………」
「さあ、ほら」
少年は青年に手を差し出す。
青年はその手を忌々しそうに睨む。
「出しなよ、キミのレアカード。大丈夫、安心しなよ。少なくとも、キミよりかは使いこなしてあげるからさ」
「……っ」
何があったのか、イクサは知らない。
だが、一方的な相手への侮辱を許すわけにはいかない。その上、勝利を理由にカードを要求するとは言語道断だ。
イクサは人の群れをかき分け、少年の前に立つ。
「ちょっと、キミ」
「ん? なんだ、キミは。あ、もしかしてまた挑戦者? 懲りないねぇ、キミ達も」
「挑戦者じゃない。ただ、キミの態度は明らかにカードマスターとしてマナー違反だから……」
「ああ、もしかしてそれ、確か家畜の言葉で言うところの【偽善乙!】ってやつかい? 注意するために、わざわざ関係ないのにしゃしゃり出てきちゃって。言っておくけど、これは合意の上だから」
少年は「あーあ」と言いながら屈伸をする。
「いい暇潰しになるかと思ったけど、とんだ誤算だよ。ただの時間の浪費だったね、全く」
そして、イクサに対して嘲笑するかのような表情を浮かべる。
なぜなら、イクサの顔には少年への強い嫌悪感が滲み出ていたからだ。
「で、キミ。その表情だと何か言いたいようだけどさぁ、じゃあ僕と勝負しない? 暇潰しに」
「勝負?」
「そう。僕、自分より弱い奴の言うこと聞く気ないんだよねぇ。だから、どうしても僕に文句があるっていうならさぁ、結果で僕を捻じ伏せなよ。まあ、出来ればの話だけどね」
「……」
イクサは思う。この少年の内側から溢れ出る傲慢さ。それは、敗者たちの惨状を見れば分かる通り、カードバトルにおける裏打ちされた強い自信。
この手の人間への対処法は、決してわざわざ相手の土俵に立たず、客観的な意見を述べることだ。
イクサも頭の中では分かっている。分かってはいるのだが。
視界の端に泣いているカードマスター達が映る。
カードを賭けた合意の上でのバトルに負けたのだ。自業自得であると言えるだろう。
だが、それでも、譲れないモノがある。他者を一方的に見下して『クズ』と称し、カードとデッキに対しても同様に『クズ』と罵る。
この少年には欠落している。自分が負ける可能性を。自分が見下した『クズ』と同じ立場になる可能性を。
万が一にも、欠片すら、抱いていない。
そしていくらその可能性を説いても、この少年は決して理解しない。
なぜなら、負けたことがないのだから。勝つことは、息を吸うことと同じなのだから。失うことを、考えてなどいない。
「……ねえ」
「ん?」
ならば、身を以って痛感させるしかない。敗北を知らなければきっと、まともな話し合いなど不可能だろう。
勿論、イクサ自身も勝てる明確な見込みがあるわけではなく、ただ、『こんな人間にだけは負けたくない』という、意地のようなものに過ぎない。
その思いが、イクサをバトルに駆り立てる。
「そんなに言うなら、キミの言う通り、バトルするよ。でも、俺が勝ったら、巻き上げたカードを皆に全て返した上で謝れ」
イクサの言葉に、少年は腹を抱えて笑いだした。
「僕が、謝る? ぷっ、あははは! ありえない、ありえない。だって、結果は見えてるからね!!」
「結果なら俺にも見えてるよ。キミの惨めな姿が」
「はっ! そんなの本当にありえないから! それはただの妄想だよ!!」
「そう? 俺からすれば、キミの言葉の方が、ただの妄想だ。勝利は、バトルして初めて決まるんだ。始まる前から決められている勝利なんて、それこそ幻想だ!」
「幻想ねぇ……。まあ、いいや。じゃあバトルを通して教えてあげるよ。僕の言葉は妄想でもなければ幻想でもない。明確な現実だってことをね」
イクサと少年は互いに対峙する。
そこでふと気づく。少年がカードバトルを行なっていたのは、なんと3Dバトルテーブルだったのだ。
「え、そんな……どうしてここに3Dバトルテーブルが……」
「ん? ああ、これだよ、これ」
少年は懐から端末のようなものを取り出した。
「孤高グループが開発中のバトルモバイル。具体的な仕組みは知らないけど、これを起動すれば、どんな場所でも3Dバトルテーブルが出現するのさ」
少年がバトルモバイルの電源を切ると、3Dバトルテーブルは瞬く間に消滅し、再度電源を点けると、再び出現した。
「じゃあ、先攻と後攻を決めようか。僕も暇じゃないからね」
「……」
少年の提案に、イクサは黙って頷く。
先攻と後攻を決めるのは至ってシンプルだ。
互いのサイコロを同時に振り、出た目が大きかったプレイヤーが先攻と後攻を決められる。
出た目が同じだった場合、もう一度サイコロを振る。
イクサと少年は、同時にサイコロを振る。
イクサ:3
少年:5
「じゃあ、先攻はいただくよ」
「じゃあ、俺は後攻だね」
イクサはデッキから、【カオス・ベビーナイト】のカードを手元にキープしておく。
そして、互いのデッキをシャッフルし、メインデッキゾーンにデッキを置く。 そしてメインデッキからカードを4枚ドローし、手札入れ換えを行う。
手元にキープしておいた1枚と合わせて、手札5枚が揃った。
「僕は、サイドデッキも使わせてもらうよ」
「……サイドデッキ」
少年の言葉を聞いたイクサは、サイドデッキゾーンに目を向け、デッキホルダーから名無しのカードをサイドデッキゾーンに裏状態で置いた。
「俺も、サイドデッキを使わせてもらう」
「フーン。まあいいよ。じゃあ、始めるとしようか。キミの惨めな敗北を飾るバトルを!」
「……どうだろうね」
「「ダイス・セット!!」」
「僕のターン、メインデッキからドロー! フォースチャージして、さらに追加ドロー!」
少年は手札にカードを加え、場にカードを出す。
「フォースを1枚消費して、【ミリオネア・コモン】を召喚!」
【ミリオネア・コモン】
SF【1】
GT【ノーマル/アタック】
Tr【ミリオネア】
DG【0】
LP【1000】
「これでターンエンド」
「俺のターン、メインデッキからドロー! フォースチャージして、追加ドロー!!」
イクサは手札のカードを見る。
手札交換によって整った手札、そこからバトルの大まかな方針が決まった。
「俺は手札のカオス・ベビーナイトのポテンシャルアビリティを発動する!」
【カオス・ベビーナイト】
【ポテンシャルアビリティ】
【永】
┗相手フィールド上のアタックゾーンにガーディアンカードがあるなら、このカードはSF【0】として扱う。
「ベビーナイトをノーコストで召喚!!」
【カオス・ベビーナイト】
SF【1】
GT【ノーマル/アタック】
Tr【カオス】
DG【0】
LP【1500】
「へぇ、珍しいトライブのカードだねぇ!」
少年は目を輝かせて、カオストライブのカードを見つめている。
「うーん、決めた! 僕が勝ったらそのデッキ頂戴!!」
「勝負に賭け事を持ち込む気はないよ、俺は」
「えー、そんなの知らない! この僕が欲しいと言っているんだから頂戴!!」
「……フォースを1枚消費して、アシストガーディアン【カオス・チャージャー】を召喚!!」
イクサは少年の世迷事をスルーし、ゲームを進行する。
【カオス・チャージャー】
SF【1】
GT【ノーマル/アシスト】
Tr【カオス】
DG【0】
LP【1000】
「くくく……」
少年は小さく笑う。不気味だ。
イクサは眉間に皺を寄せる。
「……何がおかしいの?」
「……キミがいくら拒んでもね、そのデッキのカードは僕のモノだ!! ミリオネア・コモンのトライブアビリティ発動!!」
「っ?!」
【ミリオネア・コモン】
【トライブアビリティ】
【自】(相手のアシストガーディアンのアピアステップ時)
┗相手が召喚したアシストガーディアンを、あなたのフィールドのアシストゾーンに召喚する。そのガーディアンがあなたのアシストゾーンに存在する限り、あなたはそのガーディアンの所有権を得る。
「なっ?!」
「これがミリオネアトライブが有するトライブアビリティ【買収洗脳】!!」
ミリオネア・コモンを両腕を触手のように伸ばしてカオス・チャージャーを拘束して捕獲する。
〈つっかまえ〜たっ!!〉
〈なっ、ぐっ!? は、放せ!!〉
カオス・チャージャーが、そのまま少年のアシストゾーンに召喚され、奪われてしまった。
「俺の、カオス・チャージャーが……」
「もうキミのじゃないよ、これは僕のだ!!」
「くっ……!!」
厄介な能力である。
本来、イクサが受けるはずだったアシストアビリティの恩恵が、そのまま少年に譲渡されたわけだ。
「へぇー。このカオス・チャージャーって便利だねぇ。まるで補給部隊だ」
「……俺は、これでターンエンドだ」
「フヒヒ、僕のターン。メインデッキからドロー。フォースチャージして、追加ドロー!」
少年は笑いながら、カードを見つめる。
「フォースを2つ消費して、【ミリオネア・クロッド】を召喚!」
【ミリオネア・クロッド】
SF【2】
GT【ノーマル/アタック】
Tr【ミリオネア】
DG【0】
LP【2000】
「じゃあ、カオス・チャージャーの効果を発動させてもらうよぉ!」
ミリオネア・クロッドはカオス・チャージャーにビームのようなものを放つ。
ビームを浴びたカオス・チャージャーは悲鳴をあげる。
〈ぐああぁぁぁぁ!!〉
〈ほ〜らほら、さっさと能力を使いなよ〉
やがてカオス・チャージャーの悲鳴が収まると、その目は虚ろに濁っていた。
ミリオネア・クロッドは笑う。
〈洗脳完了〜〉
【カオス・チャージャー】
【アシストアビリティ】
【永】
┗あなたのターンのバトルフェイズ開始時に発生するフォースの消費は0になる。
「それじゃあ、サイコロを振るよ」
少年が振ったサイコロの目は【4】。
【ミリオネア・クロッド】
【2】【4】【6】……相手のアタックガーディアンに500ダメージを与える。
【1】【3】【5】……相手のガーディアン1体に300ダメージを与える。
ミリオネア・クロッドの攻撃が、ベビーナイトを貫く。
ベビーナイトに500のダメージが与えられた。
〈どうだい、仲間の力で傷つく気持ちは!!〉
〈貴様、よくも!!〉
【カオス・ベビーナイト】
DG【0→500】
LP【1500→1000】
「さあ、僕はこれでターンエンドだよぉ」
「俺のターン、メインデッキからドロー!」
ミリオネアトライブのトライブアビリティは、相手のアシストガーディアンを奪う能力。
迂闊にアシストガーディアンを召喚すれば、逆にこちらの首が絞められるだろう。
「フォースチャージして、追加ドロー!」
とにかく、今は耐えるしかない。
イクサはそう思い、カードを選択する。
「フォースを2枚消費して、アタックガーディアン【カオス・グロウ・エグゼ】を召喚!!」
【カオス・グロウ・エグゼ】
SF【2】
GT【ノーマル/アタック】
Tr【カオス】
DG【500】
LP【2500→2000】
「カオス・グロウ・エグゼは、召喚された時にポテンシャルアビリティを発動する!」
【カオス・グロウ・エグゼ】
【ポテンシャルアビリティ】
【自】(このカードのアピアステップ時)
┗あなたは自分の手札からカードを1枚選び、このカードの下にアンダーカードとして置くことができる。
「俺は、SF【4】のアタックガーディアン【カオス・ピュープル・ナイト】を選択する」
ピュープルを選択し、グロウの下にアンダーカードとして置いた。
「グロウの下にピュープルが置かれたことで、魂の継承発動!」
【カオス・グロウ・エグゼ】
【トライブアビリティ】
【永】
┗【カオストライブ】のガーディアンを召喚した時、前のガーディアンはアピアステップ時にアンダーカードとなり、このガーディアンの下に置かれる。このガーディアンは、アンダーカードの効果を全て受け継ぐ。
ピュープルの能力がグロウに受け継がれる。
「さらに、アンダーカードとして置かれたことで、ピュープルの効果発動!」
【カオス・ピュープル・ナイト】
【ポテンシャルアビリティ】
【起】(COST:手札からカードを2枚選択して山札に戻してシャッフルする)
┗この効果は1ターンに一度、このカードが【カオストライブ】の下に置かれている場合にのみコストを支払うことで発動できる。あなたは自分の山札から【カオス・巫女・ナイト】を1枚まで探し、あなたの手札に加える。その後、あなたは自分の山札をシャッフルする。
「効果により、手札を2枚メインデッキに戻して代わりに巫女ナイトを手札に1枚加える!」
カオス・巫女・ナイトのカードがイクサの手札に加わった。しかし、ミリオネアトライブ相手ではこの効果もうまく作用はしないだろう。
一刻も早く能力を集めなくてならないだろう。
イクサがそう思案していると、少年はさらに目を輝かせていた。
「なになに?! なんなのそのトライブアビリティ?! 全然見たことないよ?! おもしろーい!! いいなー、益々欲しくなったよ!!」
「………。俺は、これでターンエンド」
「僕のターン。サイドデッキからドロー! そしてフォースチャージ! 追加ドロー!!」
少年はサイドデッキからカードをドローし、フォースチャージして追加ドローを行う。
少年は「くひひ」と笑いを溢し、イクサの手札を見つめる。
「さっきのトライブアビリティ、もしかしてアシストガーディアン同士でもできちゃったりすんの?」
「さあね」
こっちの情報を下手に渡すわけにはいかない。イクサはカオストライブの特性について言及しない。
「じゃあ、確かめてみよう!」
「え?!」
「フォースを3枚消費して、アタックガーディアン【ミリオネア・アップスタート】を召喚!!」
【ミリオネア・アップスタート】
SF【3】
GT【ノーマル/アタック】
Tr【ミリオネア】
DG【0】
LP【3000】
「アップスタートのトライブアビリティ発動! 買収洗脳!!」
【ミリオネア・アップスタート】
【トライブアビリティ】
【自】(セットフェイズ開始時)
┗この効果は、1ターンに一度のみ発動できる。相手は自分の手札を全て公開する。あなたは、相手が公開した手札の中から【GT】が【ノーマル/アシスト】のガーディアンカードを1枚まで選び、あなたのフィールドのアシストゾーンにフォースを消費しないで召喚する。そのガーディアンがあなたのアシストゾーンに存在する限り、あなたはそのガーディアンの所有権を得る。
「さっき、何かカードを手札に加えてたよね?」
「……っ!」
「さあ、お前の手札を僕に見せろ!!」
イクサは、渋々手札のカードを見せる。
「んーと、……あったあった、このカード。うわぁ、このカードのイラスト可愛い! アップスタート、取っちゃえ!!」
ミリオネア・アップスタートは腕を触手のように伸ばし、カオス・巫女・ナイトのカードをイクサの手札から捕獲し、アシストゾーンに召喚する。
「っ、巫女ナイト!!」
イクサの悲痛な叫び声に、少年はニヤニヤ笑う。。
「残念でしたぁ〜。このカードはもう僕のものですぅ! ノーコストで【カオス・巫女・ナイト】を召喚!」
【カオス・巫女・ナイト】
SF【2】
GT【ノーマル/アシスト】
Tr【カオス】
DG【0】
LP【1700】
そして当然、チャージャーの能力が、巫女ナイトに受け継がれる。
「フフッ、やっぱりね! 魂の継承発動だよ! あはは!!」
「くっ……!!」
その時だ。
「……――っ!!」
唐突に、激しい目眩がイクサを襲った。
別に疲労が蓄積されていたわけでもないのに、だ。
なぜか、目の前が霞む。
しっかりしなくては。イクサは気を引き締める。
少年はイクサの異変に気づいていないようで、プレイを進める。
「チャージャーの効果で、このターンのバトルフェイズで発生するフォースの消費は0。ダイスステップに移行するよ」
少年はサイコロを振った。
サイコロの目は、4。
【ミリオネア・アップスタート】
【1】【2】【3】……相手の山札からカードを5枚、ジャンクゾーンに送る。
【4】【5】【6】……相手のアタックガーディアンに500のダメージを与える。
「アップスタートの攻撃だ!!」
「くっ!!」
【カオス・グロウ・エグゼ】
DG【500→1000】
LP【2000→1500】
「これで、ターンエンドだよ」
「俺のターン、メインデッキからドロー! フォースチャージして、さらに追加ドロー!!」
カオス・巫女・ナイトが相手の手中に落ちてしまった。
イクサがデッキの中で数多くある信頼するカードの1枚であるため、イクサの精神的ダメージは大きい。
一体どうすればいい。一体どうすれば……。
そう思案している時だった。
――…………さい――
「えっ……?」
――今、カオス・巫女・ナイトの声が聞こえたような……?
イクサは少年のアシストゾーンに3Dビジョンで召喚されているカオス・巫女・ナイトに視線を移す。
カオス・巫女・ナイトは目が虚ろだが、それでも、顔をイクサに向け、手を伸ばす。
――私に攻撃、して下さい!!――
「っ?!」
はっきりと、イクサの脳内に聞こえた。
その言葉によって、イクサは一気に行動に出る。
「俺はフォースを3枚消費して、アタックガーディアン【カオス・セイバー】を召喚!」
【カオス・セイバー】
SF【3】
GT【ノーマル/アタック】
Tr【カオス】
DG【1000】
LP【3500→2500】
カオス・セイバーに仲間の能力が受け継がれる。
「魂の継承! そして、セイバーのポテンシャルアビリティ発動!」
【カオス・セイバー】
【ポテンシャルアビリティ】
【起】(COST:手札を2枚選択してジャンクゾーンに送る)
┗あなたのターン、コストを支払うことで発動できる。そうしたら、あなたは自分のチャージゾーンの裏状態のフォースを1枚選択して表状態にする。
「よって、手札を2枚捨てて、フォースを1枚回復する」
これで、バトルフェイズを行うことができる。
「ダイスステップ!」
サイコロを振る。
〈くっ、早く巫女ナイト様をお救いしなければ!!〉
〈カオス・セイバー、私を、攻撃しなさい……〉
消えゆく自我をなんとか繋ぎ止めながら、カオス・巫女・ナイトはカオス・セイバーに言う。
その言葉に、カオス・セイバーは少なからず動揺する。
〈し、しかし巫女ナイト様!〉
〈いいから、早く……攻撃を!!〉
イクサのサイコロの目は、3。
【カオス・セイバー】
【1】……相手のアタックガーディアンに400のダメージを与える。
【2】……相手の山札からカードを5枚、ジャンクゾーンに送る。
【3】……相手のアタックガーディアンにXダメージを与える。(Xの値はあなたのジャンクゾーンのカードの一番上のSF×400)
【4】……相手の山札からカードを10枚、ジャンクゾーンに送る。
「俺のジャンクゾーンの一番上のカードはSF【5】! よって、2000のダメージを与える!!」
「へー2000ダメージ。でもねぇ! 巫女ナイトのカウンターアビリティを発動させてもらうよぉ!」
【カオス・巫女・ナイト】
【カウンターアビリティ】
【自】(カウンターステップ時)
┗1ターンに一度、自分のアタックガーディアンに与えられるダメージ効果をこのカードに変更できる。ただし、ダメージ効果の対象がこのカードである場合、この効果は発動できない。
「これで、攻撃対象を巫女ナイトに変更! 仲良く仲間同士で殺し合いなぁ!!」
「お前…っ!!」
イクサの頭に、少年に対する怒りが駆け巡る。
「俺の仲間達を弄ぶお前だけは、絶対に……許さない!」
ミリオネアトライブのトライブアビリティにより、イクサのガーディアンは少年のアシストゾーンに存在する限り、所有権は少年に移る。
よって、アシストゾーンから離れた瞬間……ジャンクゾーンでは、所有権はイクサに戻る。
「巫女ナイトに受け継がれたカオス・チャージャーのポテンシャルアビリティ発動!!」
【カオス・チャージャー】
【ポテンシャルアビリティ】
【自】(このカードがジャンクゾーンに送られた時)
┗あなたは自分の山札から【カオストライブ】のカードを2枚選び、表状態でチャージゾーンに置く。
「デッキのカードを2枚チャージゾーンに置き、巫女ナイトのアシストアビリティ発動する!!」
【カオス・巫女・ナイト】
【アシストアビリティ】
【自】(このカードがアシストゾーンからジャンクゾーンに送られた時)
┗この効果は、あなたのチャージゾーンのフォースが5枚以上なら発動できる。フォースを2枚消費し、あなたの山札から【カオス・ナイト】をフォースを消費せずに召喚する。
「暗黒を斬り裂く混沌の剣で、あらゆる悪に裁きの一撃を! 降誕せよ、カオス・ナイト!!」
【カオス・ナイト】
SF【5】
GT【ノーマル/アタック】
Tr【カオス】
DG【1000】
LP【6000→5000】
「巫女ナイトの効果で召喚された事により、ポテンシャルアビリティが発動する!」
召喚されたカオス・ナイトの黒き剣に光が宿る。
【カオス・ナイト】
【ポテンシャルアビリティ】
【自】(このカードが【カオス・巫女・ナイト】の効果によって召喚された時)
┗相手のガーディアンを1体まで選択し、2000のダメージを与える。
「アップスタートにダメージを与える!!」
カオス・ナイトはミリオネア・アップスタートに対して剣を構える。
〈アップスタート、貴様……よくもチャージャーと巫女ナイトを!! この一撃は彼らの痛みと知れ!!〉
そのまま斬り裂いた。
〈ぐはぁ!!〉
【ミリオネア・アップスタート】
DG【0→2000】
LP【3000→1000】
〈くくく……くけけ〉
切り裂かれた傷口を押さえながら、ミリオネア・アップスタートはただただ笑う。
〈この瞬間、この瞬間だぁ……。お前、もうおしまいさ!!〉
あぎゃぎゃぎゃ、と笑うミリオネア・アップスタートに呼応するかのように、少年は手札のカードを掲げる。
「お前がSF【5】以上のガーディアンを召喚した時、このカードは召喚される……」
小さく笑いながら、アタックゾーンに叩き付けるかのようにカードを置き、ガーディアンを召喚する。
「これが、最新弾で追加された新カード! 神速召喚!!」
【神速豪金 ミリオネア・ストロングクラン】
SF【5】
GT【スピード/アタック】
Tr【ミリオネア】
DG【2000】
LP【6000→4000】
【神速豪金 ミリオネア・ストロングクラン】
【サモンコンディション】
┗相手がSF【5】以上のガーディアンを召喚した時に、手札またはサイドデッキからフォースを消費せずに召喚できる。
「そして僕は、ストロングクランの召喚時の効果を発動する!」
【神速豪金 ミリオネア・ストロングクラン】
【ポテンシャルアビリティ】
【自】(このカードのアピアステップ時)
┗あなたは相手のガーディアンを1枚まで選んで弱体化させる。その後、相手は自分の山札からカードを2枚ドローする。
「僕が選ぶのは、もちろんカオス・ナイト!!」
【カオス・ナイト】
【弱体化】
「くっ……!!」
マズイ。
これでは次のターン、とてもじゃないが耐えられないだろう。
「さあ、2枚ドローしなよ。可哀想なキミへの、最初で最後の施しだよ」
「……」
イクサはカードを2枚ドローする。
今のイクサの手札に、次の少年のターンを凌げる防御的なカードは無い。
全ては、この引きにかかっている。
――ドクンッ
すると、カードから鼓動のようなものが伝わってきた。
ドローした2枚のカードを見て、イクサは驚愕した。
この2枚のカードなら、もしかしたら勝てるかもしれない。
そう思えるほどに。
「おい」
「ん?」
イクサは少年に声をかけた。
「お前のその油断が、お前自身を敗北に突き落とすことになる!」
「フンッ、なんだそんなことか。無い無い。もう僕の勝ちは決定したからね!」
「そうとも限らないよ」
「……?」
「俺は、お前がドローさせてくれたこの2枚で、お前に勝利してみせる!!」
「たかが2枚で何ができるってんだよ! もう諦めろよ!!」
「諦めるわけないだろうが! 俺の仲間たちを侮辱したことを、後悔させてやる。俺はこれでターンエンド!」
「くっ、僕のターン…メインデッキからドロー! フォースチャージしてドロー!!」
少年はサイコロを振る。
「これで終わりだぁぁぁ!!」
サイコロの目は、2。
【神速豪金 ミリオネア・ストロングクラン】
【2】【4】【6】……相手のアタックガーディアンにXダメージを与える。(Xは、あなたのジャンクゾーンに存在する【ミリオネアトライブ】のガーディアンカードの枚数×1000)
「僕のジャンクゾーンには、ガーディアンが3枚ある! つまりは3000ダメージ……。でも、カオス・ナイトは弱体化しているから、6000ダメージだぁぁ! これで終わり、お前の負けだ!!」
「言ったはずだ、俺はこの2枚でお前に勝つと。まずは布石の1枚目。手札からプリベントアビリティ発動!!」
「えっ?!」
【カオス・ガードウイング】
【プリベントアビリティ】
【自】(相手がダメージ効果を発動した時)
┗手札のこのカードをジャンクゾーンに送り、あなたのガーディアンをこのカードのLPの値だけリペアする。
【カオス・ナイト】
DG【1000→-2000】
LP【5000→8000】
ミリオネア・ストロングクランの攻撃が、カオス・ナイトにヒットする。
【カオス・ナイト】
DG【-2000→4000】
LP【8000→2000】
「ぐぐぅ! 仕留めそこなったか!! でも、僕だって次を凌げれば……っ!!」
「お前のターンは来ない、永遠にな!」
「なんなんだよ……なんなんだよお前! なんでそんなに強気でいられるんだ! どうして…どうして!!」
「それは、負けられない意地があるからだ!」
「意…地…?」
「一度も負けたことがないお前には分からないだろう。敗北の苦しみを知る敗者の心を。だからこそ、敗者を踏みにじり、カードを蹂躙するお前のような奴にだけは、俺は負けない! 今は、それだけあれば十分だ! 俺のターン……」
イクサがメインデッキに手を伸ばそうとすると、突如サイドデッキゾーンに置かれていた名無しのカードが光り輝いた。
「こ、これは……」
イクサはカードに吸い寄せられるかのように手を伸ばす。
「俺のターン。サイドデッキからドロー!!」
名無しのカードに、カードイラストとカードテキストが刻まれる。
これこそが、イクサが手に入れた新たな力。
「フォースチャージし、追加ドロー。これが勝利のための布石の2枚目、お前がドローさせてくれたカードだ。俺は手札からアームドガーディアン【カオス・アームド・ブレイヴ】を召喚!!」
【カオス・アームド・ブレイヴ】
SF【0】
GT【アームド/アシスト】
Tr【カオス】
DG【0】
LP【100】
「ははっ、何かと思えばアームドガーディアン? バカめ! また奪ってやるよぉ!!」
「無理だな。ブレイヴのアシストアビリティ発動!!」
【カオス・アームド・ブレイヴ】
【アシストアビリティ】
【永】
┗このカードは【カオストライブ】以外のカード効果を受けない。
「なっ?!」
「この効果がある限り、ブレイヴはお前に奪われはしない! アームドアビリティ発動!!」
「アームドアビリティ……ってことは?!」
【カオス・アームド・ブレイヴ】
【アームドアビリティ】
【起】(COST:このカードをアンダーカードとしてアタックガーディアンの下に置く)
┗あなたのアタックゾーンに【カオストライブ】のカードが存在する場合に発動できる。そのカードを素体とし、手札から【ブレイヴ】と名の付くクロスガーディアンをフォースを消費せずに召喚する。
「俺は、アタックゾーンの【カオス・ナイト】とアシストゾーンの【カオス・アームド・ブレイヴ】で、装着転成!! 混沌騎士が勇気を秘めし鎧を纏う時、新たな希望が生まれる! 爆誕せよ、【装着騎士 カオス・ナイト・ブレイヴ】!!」
カオス・ナイトに、勇気の鎧であるカオス・アームド・ブレイヴが装着される。
【装着騎士 カオス・ナイト・ブレイヴ】
SF【6】
GT【クロス/アタック】
Tr【カオス】
DG【4000】
LP【7500→3500】
【サモンコンディション】
┗このカードはフォースを消費して手札から召喚できない。【カオス・ナイト】と名の付くカードを素体とし、【カオス・アームド・ブレイヴ】のアームドアビリティの効果でのみ、手札からフォースを消費せずに召喚できる。素体となったカードはこのカードのアンダーカードとなる。
【ポテンシャルアビリティ】
【永】
┗このカードがあなたのアタックゾーンに存在する限り、あなたは自分のターンのエンドフェイズ時に、あなたのフォースを全て裏状態にしなければならない。
「ナイト・ブレイヴのトライブアビリティ発動! 魂の継承!!」
【装着騎士 カオス・ナイト・ブレイヴ】
【トライブアビリティ】
【永】
┗このカードは、全てのアンダーカードの能力を受け継ぐ。
【自】(セットフェイズ終了時)
┗このターンのダイスステップをスキップし、フォースを消費しないでバトルフェイズに移行する。相手のアタックガーディアンにXダメージを与える。(Xは、このカードの下に置かれたカードの枚数とあなたのチャージゾーンに表向きで存在するカードの枚数の合計×500)
「ナイト・ブレイヴの下に置かれた仲間の数は7枚、表状態のフォースの枚数は6枚。よって、ミリオネア・ストロングクランに6500のダメージを与える!!」
「そ…そんな……バカな……!!!」
【神速豪金 ミリオネア・ストロングクラン】
DG【2000→8500】
LP【4000→0】
攻撃は命中。
勝負が、決まった。
「くそ…くそ…くそくそくそくそくそくそくそ!!!!」
少年は俯き、まるで呪詛のように唱える。
さすがのイクサも少年の様子がおかしいと思い、声をかける。
「だ、大丈夫……?」
「……んだよ」
少年はイクサを見上げて睨む。
「お前も、僕をバカにするんだな! そうやって僕をバカにするんだ!! くそっ!! これでいい気になるなよ、バァァカ!!!」
「え……?」
そのまま端末の電源を落として3Dバトルテーブルを消すと、少年はその場から飛び出した。辺りには、少年が巻き上げたレアカードが散らばっている。
逃げていく少年を見送り、イクサはただただ呆然としていた。
「爺ぃ、早く車を出してくれ!」
「左様ですか。では、次の習い事へ」
「違う! 家だ!! 今日の習い事は全部キャンセルだ!!」
「ですが、それでは旦那様が……」
「パパだって分かってくれるさ! 一族のプライドが傷つけられたんだから!!」
「はぁ……左様で。承知しました、ではこれから自宅に向かいます。……鹿羽フゴウぼっちゃま」
◇◇◇◇◇◇
「っ……?!」
あの少年とのバトルが終わった後、イクサは突如として身体中を襲う激しい痛みに苛まれていた。
「な、なんだ…。い、痛い……。なんなんだ……この痛みは……うぐぁ!!」
「お、おいイクサ?! 大丈夫か!?」
昼食休憩から戻ってきたカイトはイクサに駆け寄り、急いで携帯で救急車を呼ぼうとする。
「カイト……。救急車を呼ぶほどのことじゃないよ…」
「だ、だけど!」
「……ごめん、カイト。ちょっと、先に家に帰るね」
「んなこと気にするなよ! もうすぐ全国大会予選なんだ!! 一人でも欠けたら出場できないんだし、身体は大切にしないと!!」
「……ありがとう」
頭を下げたイクサに、カイトはパックを渡してきた。
「ほら、これお前の分! しっかり休めよ!」
「う、うん……。じゃあ、また明日」
「……おう」
パックを受け取り、イクサはカイトに背を向け、帰宅するために歩く。
正直、その表情はとてもキツそうだ。
(一体……なんなんだ…これ)
◇◇◇◇◇
「う……ぐぅ!!」
帰宅したイクサはそのまま自室のベットに横になり、全身の痛みに呻く。
思えば、少年とのバトル中も唐突な目眩があった。
(それと関係があるのか?)
「うっ……げほっ!!」
咳をし、口元を手で押さえると、手に何か生暖かい液体がべっとりとかかった。
恐る恐る見てみると、
「っ!?」
大量の、赤い血だった。
するとどうだろう。
あれほど全身を苛んでいた痛みがフッと消えた。
「痛みは無くなった……けど、これって……」
この血は、紛れもないイクサの血だ。
咳とともに出た、吐血。
痛みが収まったとはいえ、異常すぎる現象にイクサは困惑する。
――マスター……――
巫女ナイトの声が脳内に響いた。
「……巫女ナイト?」
――マスター、貴方は今日……何回戦いましたか?――
「え……?」
巫女ナイトの声が暗い。
どういうことなのだろうか。
イクサは戸惑いながらも、正直に答える。
「10回ほどだけど……。それがどうかした?」
――……もうすぐ全国大会なので、マスターに言っておきます。その時になってからじゃ、手遅れになると思うから――
「て、手遅れって……」
――マスター。これからは、1日に行うバトル回数は4回までにしてください。それ以上やると……死にます――
「っ?!」
イクサは驚愕し、手をべっとりと濡らした己の血を見る。
「な、なに、それ……なんで!?」
――言ったはずです。私達は呪われたトライブだと。私達の呪いは、カオスの力を使用する度に所有者の命を削ることなんです――
「え……」
――全国大会ともなれば、1日に何回もバトルが行われるでしょう。ですからマスター、どうかこの4回という回数を、胆に命じて下さい。……本当に、ごめんなさい……――
「………」
それ以降、巫女ナイトの声が聞こえてくることはなかった。
(4回以上、戦ったら…俺は……死ぬ?)
――「存在するだけで滅びを呼ぶ、呪われたトライブなのだよ、それは」――
あの時に聞いたタカミネの言葉が、イクサの頭に重くのしかかった気がした。
――(そして、生半可な気持ちでカオスに触れた者には……災いが起こる)――
カードイラストのカオス・巫女・ナイトの表情が、少し悲しげに変化した。
―――◇◇◇◇
「あ…ああああああっっ!!!」
少年……鹿羽フゴウは両手で顔を覆い、床を転げ回っていた。
「ど、どうしたのですか坊っちゃま!?」
メイドが慌てて駆け寄る。
「顔が! 顔が熱い!! 熱いぃぃぃ!!」
「ひっ!?」
メイドは見てしまった。
焼き爛れて、ドロドロになってしまった恐ろしいフゴウの顔を。
「だ、誰か救急車を!! 誰かぁぁ!」
「騒ぐな」
取り乱すメイドのそばに現れたのは、イクサ達が通う学園の生徒会長・鹿羽フジミだった。
「で、ですがフジミ様! フゴウ坊っちゃまが!!」
「フンッ、良い気味じゃないか。お前だって、こいつの我が儘には辟易していただろ?」
「そ、それは……」
「だったら楽しんで見ていればいい。これの兄である俺が許そう」
「で、ですが!!」
「どうやら弟は何かしらの報いを受けたようだ。お前はもう下がれ。あとは俺がやる」
「……かしこまりました」
メイドが去るのを横目で確認すると、フジミはフゴウに手鏡を渡す。
「フゴウ、それでお前の顔を見てみろ。最早、顔とは呼べないがな」
「うあああああ!!」
フゴウはフジミから手渡された手鏡に映る自身の顔を見て、悲鳴をあげた。
肉はドロドロに溶け、筋肉の筋が露出し、目からは血の涙が滴り落ちていた。
「兄さん! 兄さん助けてよ!!」
「助けてやってもいいが、その代わり……今日、なにがあったか言え」
「ぴ、ピアノとバイオリンの習い事を終えて、カードショップでカードバトルをして、カオストライブっていう珍しいトライブのカードを持つカードマスターに……負けた」
「なにっ!?」
カオストライブ…というワードを聞いたフジミは小さく笑った。
「……ほぅ、そうか。なるほどな。フゴウ、よくやった」
「じゃ、じゃあ!!」
「自分の力でどうにかするんだな、この愚弟が」
「そ、そんな!!?」
「助けてやってもいいとは言ったが、助けるとは言ってないぞ。これまで通り、お前お得意の我が儘でどうにかすればいいじゃないか。まあ、そんな顔じゃ皆怯えてお前から逃げるだろうがな」
「ま、待ってよ兄さん!!」
「鹿羽一族にとって、お前はオマケに過ぎない。恨むんなら、お前を先に生まなかった母を恨むんだな」
「兄さん! 兄さん!!」
「俺を兄と呼ぶな、豚が!!」
「っ?! にい…さん……」
必死に兄に助けを呼ぶフゴウを、フジミは残酷にも切り捨てた。
腹を蹴り飛ばされフゴウは地面に蹲る。
自分を置いて立ち去るフジミの後ろ姿を、血と涙が混ざって歪む目で見つめる。
しかし次の瞬間、フゴウの中で激しい憎悪が生まれる。ただしそれは、フジミに対してのものではない。
(あいつに負けたから……僕がこんな目に…許さない……許さないぞ、カオストライブ使い!!)
フゴウがイクサに対する憎しみに支配されている中、フジミは自室にて新たな計画を練っていた。
「フゴウのミリオネアトライブは相手のカードを奪う種族。……ならばあれは、カオストライブに触れた者の末路、か」
ニヤリと笑う。
「わざわざ俺が手を下すまでもなく、聖野イクサは自滅する。なら、あとは……」
とある書類を鞄から取り出し、用紙にペンを走らせる。
「お前らの夢を、食い尽してやるよ……全部」
【次回予告】
学園に全国大会予選出場の申請をした俺達カードバトル部。
しかし、俺達とほぼ同時に申請をした集団があるらしい。
その相手は、なんと生徒会!?
出場の申請を賭けて、東條部長と鹿羽会長が戦う!!
次回、【出場の行方! 東條ユキヒコVS鹿羽フジミ 前編】




