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TCG バトル・ガーディアンズ  作者: あんころもちDX
第2章・全国大会編
29/66

BATTLE:016【中堅戦・枷を嵌められし魔術師】

 いよいよ中堅戦、これに勝てれば大将戦である。

 中堅戦の組み合せは、朽木サラサさんと園生リンナだ。

 イクサがリンナのバトルを見るのは、これが初めてである。

 一体どんな戦い方をするのか、イクサはこれから始まるバトルに息を飲む。



「「ダイス・セット!」」


 先攻は、サラサ。


「私のターン……ドロー……」


 えらく小さな声でターンが始まった。


「フォースチャージして、追加ドロー……。フォースを1枚使って……アタックガーディアン【ウィザード・ロンド】を召喚(サモン)……」


【ウィザード・ロンド】

SF【1】

GT【ノーマル/アタック】

Tr【ウィザード】

DG【0】

LP【1000】



〈ふふふ……〉


 黒いローブを身に纏った怪しい女性が3Dビジョンによって出現した。


「ウィザードトライブ……これも初めて見るトライブですね」


「うん、これも新弾で追加されたトライブだね」


「ということは……」


 ユキヒコはイクサが言いたいことを理解したのか、頷いた。


「あのトライブにも、バーストアビリティが備わっているのだろうね」


 バーストアビリティ……マテリアルカードをコストとして消費することで発動する能力。カイトのバトルを見て、その強力な能力はまさに脅威と言えるだろう。

 当のカイトは、先程の敗北でかなり落ち込んでいる。


「また負けた……チームに貢献できなかった……不甲斐ない……」


 そっとしておくことにしよう。イクサとナミは「あはは」と苦笑する。

 まだサラサのターンは終わっていない。


「ウィザード・ロンドのポテンシャルアビリティ、発動……」


【ウィザード・ロンド】

【ポテンシャルアビリティ】

【自】(このカードのアピアステップ時)

 ┗あなたは自分の山札の上からカードを5枚、マテリアルカードとしてこのカードの下に置く。



「デッキトップからカードを5枚、ロンドにマテリアルセット……ターンエンド…」


「リンナのターン、ドローなのだー」


 バーストアビリティのための準備を整えたサラサに対し、リンナは相変わらずのスローペースだ。


「フォースチャージして、追加ドロー、アタックガーディアン【プラント・シード】を召喚(サモン)なのだー」


【プラント・シード】

SF【0】

GT【ノーマル/アタック】

Tr【プラント】

DG【0】

LP【500】



「プラント・シードのポテンシャルアビリティを発動なのだー」


【プラント・シード】

【ポテンシャルアビリティ】

【起】(COST:手札1枚をジャンクゾーンに送る)

 ┗このターン、あなたはコストを支払うことで発動できる。そうしたら、このカードのLPを500リペアする。この効果は一度しか使えない。



「手札を1枚捨てるのだー」


【プラント・シード】

DG【0→-500】

LP【500→1000】


「そして、トライブアビリティ【植物の再生ヴェジタブル・リフォメーション】発動なのだー」


【プラント・シード】

【トライブアビリティ】

【自】(セットフェイズ開始時)

 ┗あなたは自分のジャンクゾーンに存在する【プラントトライブ】のガーディアンを1枚まで選択し、あなたの山札に戻す。そうしたら、あなたのアタックガーディアンのLPをX00リペアする。(Xはあなたの山札に戻したガーディアンのSF)



「リンナがジャンクゾーンに捨てたカードのSFは6だから、600回復なのだー」


【プラント・シード】

DG【-500→-1100】

LP【1000→1600】



「むふふーん」


 リンナはとてもご満悦だ。

 あっという間にライフは1600だ。

 リンナが使用するプラントトライブをユキヒコが解説する。


「リンナのトライブはプラントトライブ。アタックアビリティは弱く設定されているけど、破壊と再生によってライフを底上げして長期戦に持ち込む防御的なトライブ。スロースターターのリンナとは相性抜群のトライブだ」


「長期戦に持ち込む防御的なトライブ……」


 ユキヒコの言うように、確かにリンナのプラントトライブは防御的なトライブだ。先に根をあげた方から、負けるだろう。


「プラント・シードでバトルなのだー」


 リンナはサイコロを振った。

 サイコロの目は、4。


【プラント・シード】

【2】【4】【6】……相手のアタックガーディアンに100のダメージを与える。

【1】【3】【5】……相手のアタックガーディアンに150のダメージを与える。



「プラント・シード、攻撃するのだー」


 種子のような姿の少年が、ウィザード・ロンドを蹴りあげた。


〈とりゃあ!〉


〈くっ!〉


【ウィザード・ロンド】

DG【0→100】

LP【1000→900】


 開始早々、いきなりライフ差が700。


「私のターン……ドロー……フォースチャージして…追加ドロー」


 しかし、サラサは特に気にしていないようで、淡々と自分のターンを進める。


「フォースを1枚消費して……アシストガーディアン【ウィザード・エランド】を召喚(サモン)……」


【ウィザード・エランド】

SF【1】

GT【ノーマル/アシスト】

Tr【ウィザード】

DG【0】

LP【800】



「エランドの、アシストアビリティ発動……」


【ウィザード・エランド】

【アシストアビリティ】

【自】(このカードのアピアステップ時)

 ┗あなたのアタックゾーンに【ウィザードトライブ】のガーディアンがいるなら、あなたは自分の山札の上からカードを3枚、マテリアルカードとしてアタックガーディアンの下に置く。



「カードを3枚、ロンドにマテリアルセット……バトル」


 サラサが振ったサイコロの目は、2。



【ウィザード・ロンド】

【1】【5】【6】……相手の山札からカードを3枚、ジャンクゾーンに送る。

【2】【3】【4】……相手のアタックガーディアンに、300のダメージを与える。



 ウィザード・ロンドは杖を掲げ、プラント・シードに雷を落とす。


〈フンッ〉


〈うがぁぁ!!〉


【プラント・シード】

DG【-1100→-800】

LP【1600→1300】


「ターン、エンド……」


「リンナのターンなのだー、ドロー。フォースチャージして、追加ドローなのだー。フォースを1枚消費、アシストガーディアン【プラント・マニュア】を召喚(サモン)なのだー」



【プラント・マニュア】

SF【1】

GT【ノーマル/アシスト】

Tr【プラント】

DG【0】

LP【600】



「マニュアのアシストアビリティを発動するのだー」


【プラント・マニュア】

【アシストアビリティ】

【自】(セットフェイズ開始時)

 ┗このカードをジャンクゾーンに送る。そうしたら、あなたは自分の山札からカードを2枚ドローする。



「マニュアをジャンクゾーンに送って、2枚ドローするのだー」


 前のターンの手札1枚分の損失を補いつつ、ジャンクゾーンにマニュアが送られた。


「ジャンクゾーンにプラントトライブのカードが送られたということは……」


「ああ。トライブアビリティが発動するよ」


 イクサの言葉に、ユキヒコが頷く。


植物の再生ヴェジタブル・リフォメーション発動なのだー」


【プラント・シード】

【トライブアビリティ】

【自】(セットフェイズ開始時)

 ┗あなたは自分のジャンクゾーンに存在する【プラントトライブ】のガーディアンを1枚まで選択し、あなたの山札に戻す。そうしたら、あなたのアタックガーディアンのLPをX00リペアする。(Xはあなたの山札に戻したガーディアンのSF)



「マニュアを山札に戻して、シードのLPが100上がるのだー」


【プラント・シード】

DG【-800→-900】

LP【1300→1400】


「攻撃なのだー」


 リンナのサイコロの目は、3。


【プラント・シード】

【2】【4】【6】……相手のアタックガーディアンに100のダメージを与える。

【1】【3】【5】……相手のアタックガーディアンに150のダメージを与える。


〈はぁぁ!〉


〈うぐっ!〉



【ウィザード・ロンド】

DG【100→250】

LP【900→750】


「ターンエンドなのだー」


「私のターン、ドロー……。フォースチャージして、追加ドロー……」


 ドローした手札に加え、サラサはどのカードを出すか思案しているかのようだった。



◇◇◇◇◇



「諸星部長、あんなこと言ってよかったんスか?」


 エンジは控え席に横になりながら、サラサのバトルを見守りつつ、シンヤに尋ねた。


「お前がエヴォル・ドラゴンを出さなければ、もう少し自由にさせようと思ったがな」


 サラサが試合に出る前、シンヤはサラサに二つの枷を与えた。



〔いいか、朽木。試合中は次の二つを絶対に守れ。守れないのなら、無理矢理にでも試合を中断させる〕


〔………〕


〔一つは、守護龍のカードは絶対に出すな。もう一つは、バーストアビリティは一度しか使うな。いいな?〕




「あれじゃ、サラサちゃん何もできないじゃん部長」


「これは練習試合だ。お披露目会じゃないんだぞ。こちらが守護龍のカードを復数所持していることがバレても構わないが、効果の内容は絶対にバラしてはだめだ」


「すみませんですねぇ」


 エンジはケタケタ笑う。


「ちょっと阿久津! 笑い事じゃないでしょ?!」


 ヨウコにも怒られるが、エンジは尚も笑う。


「いやぁ、すみませんね琴原先輩。でも、これくらいの情報をくれてやってもいいんじゃないスか? 守護龍のカードが必ずしも勝利をもたらしてくれるとは限らないし」


「あんたねぇ、そういう問題じゃないでしょうが!」


「ほら、サラサちゃんの手が動きましたよ」


 ヨウコの小言から避けるために、エンジはサラサの方を指差した。

 サラサは二つの制限を踏まえた上でのプレイングが決まったようだ。


「フォースを2枚消費して……アタック…ガーディアン……【ウィザード・キャプチャー】を召喚(サモン)……」


【ウィザード・キャプチャー】

SF【2】

GT【ノーマル/アタック】

Tr【ウィザード】

DG【250】

LP【2000→1750】



「………」


 サラサはどこか迷いでもあるのか、苦々しい表情を浮かべている。


「アビリティは……発動させない……」


『えっ?!』


 イクサ達は目を見開いた。

 驚愕した。

 彼女の顔は不満一色だ。

 とても、アビリティを発動させないことに納得してるとは思えない。


「東條部長……これは一体…」


「恐らく、シンヤの方針なんだろうね」


「どういうことですか?」


「彼らは全国大会優勝を目指している。ここで自分達の手の内を晒すのは得策ではないと思ったのだろう。故に、今の朽木さんは本来の力を発揮できないのだと思う」


「それって……」


「ああ、バトルを本気で取り組んでいない……いや、取り組めないでいる。これは、カードマスターとしてあるまじき行為だ」


 ユキヒコの言葉に対し、シンヤは腕を組みながら淡々と答える。


「建前や礼儀、それを重んじるのはカードマスターとして当然だ。だが、常にそうであるべきではない。俺達が目指すのは、この戦いの未来(さき)にある栄光。建前や礼儀は、その時に見せればいい」


「シンヤ、キミは相変わらずだね」


「なんとでも言え。こちらは、遊びでカードゲームをやっているわけではないんでな」


「それはこちらも同じだよ。だからこそ、どんなバトルでも本気でぶつかるつもりだ」


「お前も、相変わらずというわけか」


「お互い様ってとこだね」


 シンヤとユキヒコは互いに笑い合う。

 一方で、試合中のサラサはやはり不満そうだ。

 手札をジトーっと見つめながら頬を膨らませている。


「バトル……」


 サラサはサイコロを振った。

 目の数は5。


【ウィザード・キャプチャー】

【2】【4】【5】……相手のアタックガーディアンに500のダメージを与える。

【1】【3】【6】……相手のアタックガーディアンに300のダメージを与える。



【プラント・シード】

DG【-900→-400】

LP【1400→900】


「ターン、エンド……」


「リンナのターンなのだー」


 リンナのターンだ。


「ドローして、フォースチャージ。さらにドローなのだー」


 口調自体は軽いが、リンナも表情はどこか苦しそうだ。

 恐らく、プレイに制限がかけられているサラサが原因だろう。

 リンナはカードゲームを純粋に楽しむ方の部類に入る人間だ。

 故に、相手が本気で取り組んでいないこの試合は、サラサだけでなく、リンナにとっても苦痛なのだろう。全くと言っていいほど楽しくないのだから。


「フォースを2枚消費して、アタックガーディアン【プラント・スプロート】を召喚(サモン)なのだー」


【プラント・スプロート】

SF【2】

GT【ノーマル/アタック】

Tr【プラント】

DG【-400】

LP【2000→2400】


「スプロートのポテンシャルアビリティを発動するのだー」


【プラント・スプロート】

【ポテンシャルアビリティ】

【起】(COST:手札1枚をジャンクゾーンに送る)

 ┗あなたのターン、コストを支払うことで発動できる。そうしたら、あなたの山札からカードを1枚、ドローする。



「手札を1枚捨てて、ドローなのだー。そして、植物の再生ヴェジタブル・リフォメーション!」



【プラント・スプロート】

【トライブアビリティ】

【自】(セットフェイズ開始時)

 ┗あなたは自分のジャンクゾーンに存在する【プラントトライブ】のカードを1枚選び、あなたの山札に戻す。そうしたら、あなたのアタックガーディアンのLPをXの値だけリペアする。(Xはあなたの山札に戻したカードのSF×300)



「リンナが山札に戻したカードは、SF【3】だから、900アップなのだー」


【プラント・スプロート】

DG【-400→-1300】

LP【2400→3300】


「バトルするのだー」


 サイコロの目は、4。


【プラント・スプロート】

【2】【5】【6】……相手の山札からカードを4枚、ジャンクゾーンに送る。

【1】【3】【4】……相手のアタックガーディアンに、500のダメージを与える。


【ウィザード・キャプチャー】

DG【250→750】

LP【1750→1250】


「ターンエンド……なのだー」


 リンナの声に元気がない。

 それどころか、顔が少しずつ歪んできている。


「マズイぞ」


 ユキヒコの声に焦りが混じる。


「何がですか?」


「あと7ターンぐらいに、リンナが爆発する」


「え……ば、爆発?!」


 イクサだけでなく、ナミも大いに驚く。


「ちょ、それどういう意味ですか?!」


 ナミの問いに、ユキヒコは曖昧な笑みを顔に貼り付けて言う。


「爆発時の強烈さは口で説明するより見た方が早いと思うよ、あはは……」


 その笑いに、力はなかった。



 アビリティを発動させないサラサと、アシストアビリティとトライブアビリティでライフを広げるリンナ。

 互いに苦しい表情を浮かべる二人の戦いは、見ていて楽しいものではない。

 そして、ユキヒコが言っていたリンナの7ターン目。



「……って、られるか……」


 リンナは肩を震わせながら、ボソボソと呟く。


「……お姉ちゃん、そうだね、って……られないよね……………っ!!」


 リンナの目が、豹変していた。

 いつもニコニコと笑顔を浮かべていた細目はどこへやら、目は見開かれて三白眼になり、口元は憎しみで歪んでいる。


「こんなバトル……やってられるかぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!」


 そのまま疑似3Dバトルテーブルを殴り付けた。


「あんた、ここからは“あたし”が相手してあげる。本気出さざるを得ないぐらいに飛ばすから、歯ぁ食いしばって覚悟しな!!」


 最早そこに、いつものリンナの姿はなかった。

 イクサとナミとカイトがあまりの変貌ぶりに固まっていると、ユキヒコは冷静な様子で解説する。


「リンナはね、怒りの臨界点が頂点に達した時……裏の顔を出す。あれはいわゆる“裏リンナ”だ……」


「し、鎮める方法は……?」


「怒りが収まるまでとことんに自由にさせる……かな。あの状態のリンナは、俺でさえ勝てた試しがない」


「「「えっ?!」」」


 三人は驚く。ユキヒコですら勝てない、それだけで裏リンナの強さがどれほどのものか、理解できるだろう。


「フォースを6枚消費して、アタックガーディアン【インセクティヴァラス・プラント】を召喚(サモン)だ!!」


【インセクティヴァラス・プラント】

SF【6】

GT【ノーマル/アタック】

Tr【プラント】

DG【-2450】

LP【6000→8450】


〈キシャアァァァァ!!〉


 なんともグロテスクな、まるで食中植物のようなガーディアンが出現した。

 さっきまでリンナが使っていた華やかなガーディアンとは、全く違う容貌だ。


「インセクティヴァラスのトライブアビリティ発動! 植物の再生ヴェジタブル・リフォメーション!!」


【インセクティヴァラス・プラント】

【トライブアビリティ】

【自】(セットフェイズ開始時)

 ┗この効果は、1ターンに一度しか発動できない。相手のアタックガーディアンを1枚選び、LPを半分にダウンする。このカードのLPを、ダウンした数値分リペアする。その後、あなたは自分の全ての手札をジャンクゾーンに送る。



 インセクティヴァラスの触手が相手のアタックガーディアンに伸ばされ、相手のLPを奪う。


〈キシャアァァァァ!!!〉


〈う……ぐあっ!!〉


【ウィザード・ライデン】

DG【1400→1400】

LP【4600→2300】


 ダウンするという効果は一般的に【ダウン効果】と呼ばれ、LPの数値のみを減少させるので、DGには影響しない。


【インセクティヴァラス・プラント】

DG【-2450→-4750】

LP【8450→10750】


「ライフ10750?!」


 今まで見たことがない驚異的なライフの数値に、イクサ達は目を剥く。

 裏リンナの激昂が辺りに響き渡る。


「こんな忌々しいバトル、さっさと終わらせてやる!!」


 裏リンナはサイコロを振った。

 サイコロの目は、6。


【インセクティヴァラス・プラント】

【1】【2】【3】……相手の手札を3枚選び、相手の山札に戻す。

【4】【5】【6】……相手のアタックガーディアンに、Xのダメージを与える。(XはこのカードのDGにマイナスをかけた値)



 インセクティヴァラスのDGは-4750。

 それにマイナスをかけた値は、4750だ。


「………」


 サラサは、どこか諦めた表情を浮かべて手札をテーブルの上に置いた。


「朽木。プリベントアビリティで防げ」


「っ?!」


 しかし、背後からの言葉に目を見開き、控え席のシンヤを見つめる。

 シンヤは再度無慈悲に告げる。


「防げ」


「……っ」


 サラサは再び手札を手に取り、カードをジャンクゾーンに送った。


【ウィザード・プリベンター】

【プリベントアビリティ】

【自】(相手がダメージ効果を発動した時)

 ┗手札のこのカードをジャンクゾーンに送り、あなたのガーディアンをこのカードのLPの値だけリペアする。


【ウィザード・ライデン】

DG【1400→-1600】

LP【2300→5300】


 インセクティヴァラスの攻撃がライデンを貫く。


【ウィザード・ライデン】

DG【-1600→3150】

LP【5300→550】



「チッ、ターンエンドだ」


「私の…ターン、ドロー……」


 サラサは淡々と、まるで事務作業のようにこなす。まるでロボットのようだ。


「フォースチャージ……追加ドロー………っ!」


 追加ドローしたカードを見てサラサの目が少し、見開いた。

 残りライフ550のピンチを跳ね返す逆転のカードを引いたのだろうか。

 サラサはシンヤの方を向く。



「………」


「………」


 しかし、シンヤは無言で首を横に振った。

 使ってはならない……ということだろう。

 サラサは溜め息を漏らすと、手札を全てテーブルの上に置き、


「ターン、エンド」


『なっ?!』


 そのまま、ターンを裏リンナに渡してしまった。

 これには、全員が驚いた。控え室にいるシンヤでさえも。


「なぜだ、朽木! 相手の手札は0枚なんだ、たとえ守護龍を使わずとも、このターンで決めることもできるはずだろう?!」


「もう…嫌……こんなの、私のバトルじゃない」


 その声には悲しさが含まれていた。

 一方の裏リンナは、肩を怒りによって震わす。


「……ざけんじゃねぇ……ざけんな!」


 そしてサラサを睨む。


「何もしないでターンを終わらせるなら、なんであの時プリベントアビリティを使った?! 勝つ意欲が無い奴の最後の悪あがきってか? 足掻くなら最後の最後まで足掻けよ!!」


「………。ターン、エンド……」


 裏リンナの言葉に対し、サラサはあくまでターンエンドの宣言を譲らない。


「……ハッ、そうかよ、なら……あくまでそんなバトルをするんだったら見せてやるよ。あたしの本気ってやつをよ!!」


 裏リンナのターンとなり、勢いよくドローする。


「あたしのターン、ドロー! フォースチャージして、追加ドロー!!」


 フォースを7枚裏返した。


「丁度いい。リンナの時じゃ絶対に見られない、あたしのとっておきのカードを見せてやる! フォースを7枚消費して、アタックガーディアン【守護龍 プラント・ドラゴン】を召喚(サモン)!!」


【守護龍 プラント・ドラゴン】

SF【7】

GT【ノーマル/アタック】

Tr【プラント】

DG【-4750】

LP【7000→11750】


「しゅ、守護龍のカード……」


 リンナも守護龍のカードを持っていたことに対して、イクサは思わず手を握る。


「東條部長、これって……」


「表のリンナ自身は、自分が守護龍の持ち主とは気づいていない」


「え?」


「あのカードを使えるのは、あくまでも裏人格の時だけだ。もっと正確に言えば、守護龍のカードに選ばれたのは裏の方で、表の方じゃない」


「で、でも……デッキ構築の時には流石に気づくんじゃ……」


「いや、気づかない。なぜなら、デッキ構築は全て裏の方がやっているから」


「え……」


 絶句するイクサだったが、言われてみれば、インセクティヴァラスのようなカードがデッキに内蔵されている時点で、表の方のリンナがデッキ構築をしているとは到底思えない。


「プラント・ドラゴンのトライブアビリティ発動!! 植物の再生ヴェジタブル・リフォメーション!!」


【守護龍 プラント・ドラゴン】

【トライブアビリティ】

【起】(COST:フォースを5枚まで選択してジャンクゾーンに送る)

 ┗このターン、あなたはコストを支払うことで発動できる。そうしたら、このカードのLPをXリペアする。(Xの数値は、この効果でジャンクゾーンに送ったフォースの枚数×500)



「私はチャージゾーンのカードを5枚選択して、ジャンクゾーンに捨てる。これでプラント・ドラゴンのLPはさらに2500アップだ!!」


【守護龍 プラント・ドラゴン】

DG【-4750→-7250】

LP【11750→14250】


「サイコロを振ってバトルだ!!」


 裏リンナのサイコロの目は、6。


【守護龍 プラント・ドラゴン】

【2】【4】【6】……このカードのLPを半分にダウンする。ダウンした数値分のダメージを相手のアタックガーディアンに与える。

【1】【3】【5】……このカードのLPを半分にダウンする。あなたはフィールド上のガーディアンを1体まで選択し、選択したガーディアンのLPをダウンした数値分だけリペアする。


「プラント・ドラゴンの攻撃を喰らいやがれ!!」


【守護龍 プラント・ドラゴン】

DG【-7250→-7250】

LP【14250→7125】


 ウィザード・ライデンに、7125のダメージが与えられた。


【ウィザード・ライデン】

DG【3150→10275】

LP【550→0】


 勝負が、着いた。




「……あれ? なんか知らない間にバトルが終わってたのだー」


 表の人格に戻ったらしいリンナは、辺りをキョロキョロしながらバトルが終了していたことに戸惑いながら慌てていた。




◇◇◇◇◇



――パンッ


 シンヤは、サラサの頬をぶった。


「朽木。なぜ、途中で勝負を投げた?」


「………」


「自分のプレイスタイルを制限されたからか?」


「………」



「シンヤ、あんたねぇ」


「はーい、琴原先輩ちょっとストップー」


 二人の間にヨウコが割って入って止めようとしているが、エンジがそれを止める。


「ちょっと、阿久津!」


「琴原先輩、部長には部長なりの考えがあるんスよ、きっと」


「で、でも……」


「いいからいいから。まあ、見守りましょうよ」




「どうなんだ、朽木?」


「……あれも、だめ。これも、だめ。そんなことされたら、勝負する気が………無くなる」


「バカか貴様は!!」


「………」


 シンヤの言葉に、サラサはビクッと肩を震わす。


「プレイを制限された? ダメ出しされた? 甘えるな! どんな時でも自分のプレイスタイルを保てると思うな! 全国大会の試合中は、もっとプレイスタイルが制限されると思え! 多くのギャラリーが、俺達のプレイを観戦する。俺達のプレイスタイルが、そのまま学校の評価に繋がる。下手なプレイングは許されない、ミスは許されないんだ!! それこそ、時には自分のプレイスタイルを観客に否定されるほどだ!!」


 シンヤはサラサの胸元を掴む。


「俺がお前に与えた枷はたった2つ。だが、本番ではその10倍の枷がお前を縛ると思え。そして、無様なゲームをするな!! 俺達は、学校の看板を背負っているんだぞ!!」


「………ごめんなさい」


「……分かればいい」


 一段落着いたところで、エンジが割って入る。


「はいはい。シリアスムードはここまで。まあ、いいじゃないスか部長。こちらも、相手の手の内が知れたことだし」


「どうだろうな。あれはランダムで起こるイベントのようなもの。あまり参考にはならない」


「つーことは、やっぱり本命は………」


「聖野イクサ……奴のトライブはまだまだ未知数だ。それを、次の試合で全て暴く」


「なるほどねぇ。あくまでターゲットは聖野イクサ。他はおまけ程度ってとこッスかね」


「まあな。では、行くとしよう」



◇◇◇◇◇



 いよいよ大将戦。ここまで一勝一敗の同点。

 次で勝てれば、チームとしてはイクサ達の勝利である。



「久しぶりだな、聖野イクサ」


 イクサはシンヤと対峙する。


「また戦うとは、思いませんでしたけど」


「そうだな、それは俺も同じだ」


 互いに試合前の握手を交わそうとした次の瞬間、




「ちょっっっっと、待っった――――っ!!!」


『っ?!』


 なにやら可愛らしい少女の声が体育館に響いた。


「ち、稚推!?」


 シンヤは驚きながら、声の方向を見た。

 イクサも釣られて見ると、そこには……


「あ、あなたは……」


「お昼ぶりだね、イクサくん。ちゃんと言った通りだったでしょ?」


 そこには、イクサがこの学校に来る前に、ナンパ男二人から助けた少女がいた。

 シンヤは少女に駆け寄る。


「稚推、お前今までどこに行って――」


「まあまあそんな堅いことは無しで。まだバトル始まってないんだよね?」


「あ、ああ……」


 あのシンヤでさえ、少女にはたじたじだった。


「あ、あの、シンヤ……さん、彼女は一体……」


 イクサが尋ねると、シンヤは頭を掻きながら言う。


「あ、ああ、…うん…。改めて紹介する。こいつは『稚推 アカネ』。うちの部の副部長。因みにこんな身なりだが、れっきとした“男”だ」


「え゛……」


 イクサは思わず固まった。

 とても、男に見えない可憐な容姿をしていたからだ。

 アカネは、イクサに向かって微笑んで言う。



「さあ、イクサくん。ボクとバトルしようよ」

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