BATTLE:011【ワールド・バトル・ボード】
ついに、全国大会編スタートです!
「カオス・ドラゴンの攻撃!」
「なんの、カウンターカード発動!!」
イクサとカイトは連日、カードバトル部でカードバトルを繰り広げていた。
全国大会まで、あと1週間。
それまで、彼らは自分の欠点を埋めるべくデッキを改良しては試運転のためにひたすら戦っていたのだった。
「今度はこっちの攻撃だ! ディヴァイン・ナイト!!」
「巫女ナイトのカウンターアビリティを発動! 攻撃対象を巫女ナイトに変更!」
「防がれたか……」
「まだまだ詰めが甘いよ、カイト!」
「くっそ! 見落としてた!!」
カイトは悔しそうな声をあげると、不意に「へへっ」と笑う。
それに対して、イクサは首を傾げる。
「どうしたの、カイト?」
「いや、イクサはホント、羨ましいくらいに強くなったよなって思ってさ」
「そ、そうかな?」
やっぱりカードバトルは楽しい。
打倒全国大会と意気込む一方で、二人はそんなことを思っていた。
「バトルフェイズ! カオス・ドラゴンの攻撃!」
「くっ、防げねえ……。負けた……」
「やったぁ!」
これで、互いに3勝3敗。
二人がバトルをしている中、副部長であるリンナは相変わらずソファーで寝ており、部長であるユキヒコとイクサの幼馴染みであるナミは諸事情で欠席である。
カードバトルを終えたイクサとカイトは、再び互いのデッキ構築を見直す。
「うーん、もう少しSF【3】のカードを減らすか……バランス的に」
「ねえカイト。カウンターカードはやっぱり少ない方がいいの?」
「まあ、使える状況は限られるし。普通は3種類……最高で9枚くらいが丁度いいんだよ。部長の場合はブリザードトライブの特性的に多めに入れてるだけであって」
「なるほどなぁ」
さすがはカイト。経験豊富のため、イクサに的確なアドバイスを与えてくれる。
「さーて……。いよいよこれを開ける時が来たか!!」
そう言って、カイトは鞄から四角い袋のようなものを取り出した。
「……なにそれ?」
イクサは首を傾げてカイトに尋ねる。
「これはバトルパック。つまり、デッキ強化パックだ」
「デッキ強化パック?」
「そうだ。バトル・ガーディアンズは、大体3ヶ月に1回のペースでデッキ強化パック――バトルパックが発売されるんだ。まあ、見てろって」
そう言うと、カイトはバトルパックを開けた。
「おっ、新しいディヴァイントライブのカードが当たったぜ!!」
パックの中には、5枚のカードが入っていた。
「ん? カードが入ってるの?」
「そうだ。新しいバトルパックには、新しいカードが封入されている。これをデッキに投入することでデッキを強化できるんだ。まあ、裏を返せば、新しいパックが発売される度に他のライバル達のデッキも強化されてるってことだな。だから、パックは定期的に買った方がいいぜ」
「ふーん……。あ、入ってるカードのトライブはバラバラなんだね」
「そりゃあ、そうさ。カードマスターが欲しがってるトライブのカードが簡単に手に入ったら、会社側は儲からないじゃん」
「ブラックなことを言わないでよ……」
「あっはっはっ。でもさ、たとえ自分のトライブが手に入らないで、こうして他のトライブが手に入ったとしても、それなりにメリットはあるんだぜ」
「メリット?」
「そうさ。例えば、このバトルパックで新しく追加されたこの【メタルトライブ】のカード。このカードは当然、メタルトライブ使いのデッキを強化するわけだが、このカードを手に入れた俺はこれを研究して対策を練ることができる。事前にな」
「っ! なるほど、手に入るトライブのカードが多ければ多いほど、相手の新しい戦略にも即座に対応できるってことか!!」
「そういうこと。対策以外の理由だと、より自分に合ったトライブと出会える可能性もあったりする。ディヴァイン使いの俺にとって、もしかしたらもっと自分に合うトライブがあるかもしれない。バトルパックは、色んな自分の可能性を引き出してくれるのさ」
「へぇ、バトルパックか……。バトルパックって、この種類以外にもあるの?」
「あるぜぇ。これはバトルパックvolume.8。最新パックだ」
「意外と少ないんだね」
「まあ、バトル・ガーディアンズが日本に普及したのは今から2年前だからな。孤高グループは最初、国内じゃなく国外での商業展開に力を入れてたから、海外では10年前から普及してるぜ」
「へえ、じゃあ比較的に最近のカードゲームだったのか……」
「そうそう。でも2年でまさかの急成長。そういうのも、話題になってたな」
「ふーん。あ、そういえばバトルパックってどこで売ってんの?」
「そりゃあ勿論、カードショップさ。一部のコンビニでも販売されてるけどな。……あ、そうだ!」
カイトがポンッと手を叩く。
「そういや、隣町のカードショップがリニューアルしたらしくて、内装も激変したらしいから今から行かないか?!」
「まあ、今日は土曜で授業はもう午前中で終わったからな。行ってみようかな」
「よーし、そうと決まれば!!」
カイトはそのままソファで寝ているリンナを起こしに行ってしまった。
「副部長! ちょっと遠出するんですけど、副部長もどうですか?」
「むにゅう……おぅ、行くのだー………ふみゅう」
目を擦りながら、リンナは「にゃはは」と笑いながら鞄を手に取った。寝起きのため、若干歩き方が危なっかしいが。
「リンナ副部長、眠いなら無理について来なくても……」
「置いてけぼりは許さないのだー!」
イクサの言葉にリンナは首を横に振る。
まあ本人がいいなら……別にいっか。
イクサはそう思いながら、二人と共にリニューアルしたというカードショップに向かったのだった。
余談だが、イクサがリンナのことを『リンナ副部長』と呼んでいるのは、『園生副部長』と呼んだ際に「リンナはリンナなのだ! だからリンナって呼んでくれなきゃ嫌なのだー!」と駄々をこねられたからだ。
☆☆☆
隣町、と言っても、学園からは電車で30分もかかる。
そしてやはり土曜日。休日を満喫している大人や、帰りにゲーセンに寄ろうとしている学生の姿も見受けられる。イクサ達もその内の一部であるが。
「おっ、着いたぜ。ここここ」
よって、到着までに一時間ほどかかってしまった。
カイトは親指で店を指差す。
【カードショップ ジェネラル】
「ここが……」
「おー、リニューアルしてて綺麗なのだー。ウキウキルンルン、なのだー」
リンナの頭からお花が数本飛んでいるのが見える。……幻影だろう、おそらく。
「よーし、俺一番乗り〜!」
子供かお前は。そう呆れるイクサ。
「ったく、カイトの奴……」
「私が二番乗りなのだー!」
カイトに続いてカードショップに突撃するリンナを見ながら、イクサは「あれぇ?」と声を漏らす。
(この人、二年生だよな? なんで行動がカイトと同レベ?)
こういうのは、楽しんだ者勝ちなのである。
イクサは周囲の目を気にしながら小声で言いながら入店する。
「え、えと……さ、三番乗り……?」
内装は流石リニューアル……と言ったところか。
新規パック広告のポスターやバトルテーブルなどの色々な設備が整っている。
「わあ! このカード欲しいぃ!!」
声がした方を見てみると、カイトはガラスケースの中のカードに釘付けになっていた。
イクサはカイトの隣に立つ。
「『欲しい』ってお前……それは展示用でしょ?」
「は? これも売り物だぞ?」
「え、そうなの?」
イクサは展示用だと思っていたカードを見てみると、確かに値札がついたスリーブにカードが収容されている。
「これって……」
「所謂『単品買い』だよ」
「単品買い?」
「ああ。パックを買っても、必ずしも欲しいカードが手に入るとは限らないだろ? 場合によっては、千円、二千円かけても手に入らない時は手に入らないもんだ。だったら、こうやって単品で買った方が得な場合もある。パックで当てるか単品で買うかは、あくまで個人の自由だ」
「へー……」
カイトからの説明を受けた後、イクサは不意にリンナの行方が気になった。
リンナはマイペースな性格のため、放っておくとすぐどこかに行ってしまうからだ。
「お花畑、成功なのだー」
すると、リンナの声が聞こえてきた。
なにやらゲーム台の画面を見ながらポワポワしていた。そう、ポワポワ。
「リンナ副部長、どうしたんですか?」
「大阪の人に勝って、お花畑が満開なのだー」
「……はい?」
全くもって意味が分からない。
イクサがリンナの言葉に戸惑っていると、カイトがゲーム台に触れる。
「おお、『ワールド・バトル・ボード』がついにここでも実装されたのか!」
カイトの言葉にイクサは首を傾げた。リンナの迷言については、とりあえず今はスルーしておく。
「わ、ワールド・バトル・ボード?」
「おう。イクサ、お前はゲーセンとか行く?」
「いや、あんまり」
「あー、それだとちょっと説明が難しいか。ま、じゃあ見せながら説明するよ」
カイトはそう言うと、財布から100円玉を取り出して、コインの投入口に入れた。
【ウェルカム・トゥ・ワールド・バトル・ボード!!】
なにやら、画面にシステムメッセージが映し出された。
【あなたは初見プレイヤーですか?】
・【はい】 ←
・【いいえ】
「初見プレイヤー?」
「つまり、ワールド・バトル・ボードで遊んだことがあるかどうかってことだよ。初見プレイヤーは初めての人な」
「カイトは初見プレイヤーなのか?」
「いや、アキバのゲーセンで一度やったことがある。じゃーん」
カイトは更にカードを取り出した。
「なにそれ? ……バトル・ライセンスカード?」
「ああ。【はい】を選択すると、まず初めにこのライセンスカードが発行されるんだ」
「なんのために?」
「そりゃあ、勿論。戦績をこのカードに登録するためさ。じゃあ、俺は経験者だから、【いいえ】を選択するぞ」
【ライセンスカードをカード挿入口にセットしてください】
新しいシステムメッセージが現れた。
「はーい、ライセンスカードをセットするぜ」
【ようこそ、カイト様。バトルエリアを選択して下さい】
「バトルエリア?」
「そう。ワールド・バトル・ボードはその名の通り、全世界のカードマスターとバトルができる夢の機械なのさ!」
「ぜ、全世界のカードマスターと……?」
「そういうこと。バトルエリアってのは、カードマスターが住んでいる地域のこと。副部長は大阪のカードマスターと戦って、勝ったってことですよね?」
「そうなのだー」
イクサは先ほどのリンナの言葉に納得した。
カイトはそのままワールド・バトル・ボードを操作していく。
「じゃあ、早速俺も戦うとするかね。バトルエリアは、東京で決定だ!」
【バトルエリア・トウキョウ】
カイトは台の上にデッキを乗せた。
デッキが光に包まれていく。
「カイト、もしかしてこれも……」
「ああ、3Dバトルシステムと同じ系統のシステムが転用されてる。ただし、ガーディアンは3D投影されずに、この画面に映し出されるがな」
【鬼塚 キシン
【オーガトライブ】
VS
【戦宮 カイト】
【ディヴァイントライブ】
【ダイス・セット!!】
画面の向こうで、トウキョウを舞台にガーディアン達の戦いが始まった……。
20分後……。
「上位ランカー相手に勝てるわきゃねぇだろうがぁ!!」
カイトは惨敗して泣いている。
カイトが戦っている間、イクサはカードショップ内に置かれていたワールド・バトル・ボードに関するパンフレットを読んでいた。
どうやら、プレイヤーは勝ち星の数に応じてSからFまでのランクが割り振られるらしく、カイトはD、相手の鬼塚キシンはBだったのようなのだ。
「カイト………ドンマイ」
「イクサぁ! 仇を討ってくれぇ!!」
「え……?」
「た〜の〜む〜よぉ!!」
「な、なんで俺が……」
泣き付いてくるカイトの顔を押し返すイクサ。
「ん〜。鬼塚…鬼塚……あっ……なのだー」
すると、物思いに耽っていたリンナが何かを思い出したらしく、二人に言う。
「鬼塚キシンと言えば、毎年全国大会に出場している強豪校【阿久麻学園】の先鋒なのだー」
「え、マジっすか?!」
カイトが目を剥く。
道理で強いわけである。
「カイト。リベンジなら、全国大会でしたらどう?」
イクサがそう提案すると、カイトの両目がメラメラと燃える。
あ、比喩表現だからね?
「おう! この借り、きっちり返してやるぜ!!」
「んじゃあ、俺もやってみようかな」
100円玉を投入口に入れ、初見プレイヤーの所で【はい】と選択する。
【名前を入力して下さい】
【_________】
特に偽名を使う理由も無いため、普通に本名を入力する。
【聖野_イクサ___】
これでOK。
【カードを発行します。暫くお待ちください】
数分後、カードの挿入口からライセンスカードが出てきた。
【ライセンスカードの内容をご確認ください。確認が終わりましたら、再びカードをセットしてください。編集する場合は、編集ボタンを押してください】
イクサは発行されたライセンスカードを手に取る。
カード内容を見るに、編集する必要はなさそうである。
ライセンスカードを挿入口にセットし、次の画面に進む。
【これでよろしいですか? よろしければ、【OK】を選択してください】
イクサは【OK】を選択する。
【登録ありがとうございます、イクサ様。では、バトルエリアを選択して下さい】
「じゃあ、地元で神奈川かな」
神奈川エリアを選択。早速、相手が決まったようだ。
【早乙女 ナミ】
【アイドルトライブ】
VS
【聖野 イクサ】
【カオストライブ】
「…………は?」
☆☆☆
同時刻・カードセンター
「あれ? 東條部長」
「どうしたんだい、早乙女さん?」
「なんかイクサと戦うことになりました」
「ん? ……へぇ、これは面白い。ちょうどいい、君の新しいデッキを試してみたらどうだい?」
「あ、そうですね! 東條部長が指導してくれたんです。イクサなんて、華麗に優雅にチョチョイノチョーイな感じで倒しちゃいます!」
「うん、その意気だ」
カードセンターでデッキの強化をしていたユキヒコとナミは「フフフ……」と笑っていた。
☆☆☆
ところ戻って、再びカードショップ【ジェネラル】。
「まさかの早乙女さんとのバトルか」
「みたいだね」
不安そうな表情で画面を見つめるイクサ。
実はイクサはナミと幼馴染みであるが、カードバトルをするのは初めてなのだ。
以前、神社でカイトとナミがバトルをしていた時には、掃除に集中していたため、ナミがどのような戦術を得意としているのか全く記憶に無い。
「気をつけろよ、イクサ。早乙女さん、普段は結構おちゃらけてるけど、カードバトルでのテクニックは相当凄いぞ」
「ああ、もちろん、甘くは見てないよ」
イクサは、自分のデッキを台の上に置く。
デッキは光に包まれる。
【ダイス・セット!!】
◇◇◇◇◇
「ここか、リニューアルしたばかりの店というのは……ん?」
帽子を被り、長い銀髪をゴムで1つに結んだ少年は、イクサ達を見る。
「なるほど。ワールド・バトル・ボードが実装されたのか」
イクサの戦いを見学するためにイクサ達の背後に移動する。
すると少年は、イクサの使用するデッキのトライブを見て目を剥く。
(なっ?! カオストライブだと!?)
少年は力強く拳を握る。
――貴方は、私達のマスターに相応しくありません――
今も耳に残る、巫女の声。
「お手並み拝見、だな」
少年……『孤高 センリ』は腕を組みながら、イクサを睨み付けていた。




