BATTLE:EXT【カウンセリング記録1】
こんにちは、○○○さん。
「こんにちは」
今回、貴女から色々と話を伺いますがよろしいですか?
「はい。……ところで、貴方は?」
あぁ、そういえばまだ名乗っていませんでしたね。私のことは……ドクターとでも呼んで下さい。今の私の立ち位置は、貴女の主治医ですから。
「なるほど。……ではドクター、あの子は、私の子はどこにいますか?」
精密検査を受けさせて、別室で寝ていますよ。お話を伺った後、会えますよ。
「今すぐ会わせて下さい」
それはできません。お話を伺うのが先です。
「どうしてですか」
貴女は少々錯乱しています。そんな状態では、きっと彼を傷つけてしまうと判断したからです。
「私は錯乱していません」
いいえ、錯乱しています。現に貴方は、ずっと暴れています。
「私は暴れていません」
本気でそう言っているのならはっきり申し上げます。貴女には視界に映る“男”という存在が全て敵に見えているのですよ。今も、私を噛み殺そうと貴女は暴れています。少々窮屈でしょうが、暫くそのままで我慢していて下さい。
安心して下さい。簡単な話だけを聞いたら、すぐに貴女は自由の身です。それまでの辛抱ですよ。
「……」
理解してもらえたようで助かります。
では、質問を少し。
今日は何曜日ですか?
「火曜日、です」
好きな食べ物は何ですか?
「ドライフルーツ、でしょうか」
初めて恋をしたのはいつ頃ですか?
「……忘れました」
休日はどのように過ごしますか?
「基本的には家事をして、好きな海外ドラマを見ます」
なるほど、それは中々に有意義ですね。では、最後の質問です。
最後にお子さんと会ったのは、いつですか?
「……」
どうしました?
「子供に会わせて下さい」
それはできません。質問に答えて下さい。
「お願いします、子供に会わせて下さい」
最後の質問と言ったはずです。この質問に答えていただければ、すぐに会えますよ。
「あの子は私の子です。会わせて下さい」
質問に答えるのが先です。
「会わせて下さい」
まだできません。
「……なんで」
○○○さん? どうかしましたか?
「返して…返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返してっっっ!!!!!!!!!!!!!!」
○○○さん、暴れていてもお子さんには会えませんよ。さあ、質問に答えて下さい。
貴女が最後にお子さんに会ったのは、いつですか?
「返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して―――」
質問には正確に答えて下さい。そのような状態では、お子さんに会わせるわけにはいきません。
「……………………………」
○○○さん?
「分から、ない、です」
分からない、とは?
「分からないです」
どういうことですか?
「質問には答えました。あの子に会わせて下さい」
いえ、まだ会わせることはできません。『分からない』という言葉の説明をお願いします。
「質問に答えたのなら会わせてくれる約束でしょう? あの子に会わせて下さい」
私は正確に答えて下さいとも言いました。貴女の回答には正確性が皆無です。
「……嘘つき」
はい?
「あなたも嘘つきなのね。嘘つきは、皆等しく死ねばいい」
※患者番号139が自殺行為を行おうとしたため、ドクターによる診断は一時中断。患者の抱える精神的傷害の深さを垣間見る結果となった。これ以降、患者はこちらからの一切のコンタクトに応じることは無く、その要求は「子供に会わせてほしい」の一言のみである。しかし、患者に彼女の子供の写真を見せても、患者はただただ首を傾げた後に憎悪に満ちた表情で写真を破り捨てたのだった※
これは本作に登場する誰かのカウンセリング記録、その一部です。




