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TCG バトル・ガーディアンズ  作者: あんころもちDX
第1章・学園編
13/66

BATTLE:002【レアカードハンター強襲!!】

第2話です。

「な、なんだこれ……」


 イクサの右腕を掴む黒き手。

 デッキから伸びているその手は、イクサの腕を決して放そうとしない。


――我の眠りを破りし者よ。お前が我らの主となり得る存在か、試させてもらうぞ――


「えっ………」


 頭の中に響く、不気味な声。

 すると、


「うっ……ぐあっ!?」


 黒い手が、どんどん腕に絡み付いてくる。


――何かが、入ってくる!?


 そう思った次の瞬間、腕に焼けるような激痛が走る。


「うっ……ぐあぁ!!」


 激痛は数分ほど続く。

 やがてそれが収まり腕を確認してみると、イクサは自分の目を疑った。


 まるでタトゥーのような黒い禍々しい手が、腕に刻まれていたのだ。


「な、なんだよ……これ」


――今宵より、24の刻が過ぎるまでに、我らの主たる存在であることを示せ。さもなければ、貴様の魂を永久の混沌の彼方に葬ってやろうぞ――


 再び頭の中に響く、不気味な声。

 声の主は、まるでイクサを嘲笑うかのように、そんなことを言った。

 イクサは基本的にオカルトのような非科学的なモノは信じない。

 だが、腕には確かに黒い手が刻まれている。

 この存在が、イクサに今起きた出来事が現実であることを物語っている。

 イクサはわけが分からないと言わんばかりに、デッキに目を向けて手に取る。

 こうして触れてみても、デッキ自体に何かあるわけでもない。

 そこでふと、携帯電話からナミの声が部屋に響く。


〈ねえ、イクサ?! 聞こえてる?!〉


 ナミと通話中であること思い出し、イクサは震える声で尋ねる。


「な、なあナミ。これ、一体なんなんだよ……」


〈えっ、ど、どうしたの!?〉


「分からない……けど、デッキから黒い手が……」


〈黒い……手?〉


「俺、一体どうしたら……」


〈ちょ、ちょっと待ってて。今、爺ちゃんに聞いてくるから!〉


 そう言うと、ナミは慌ただしく電話を切った。


「お、おいナミ!?」


 ナミの名前を呼ぶが、既に『ツーツー』という音だけが部屋に虚しく残る。

 今からもう一度電話してもすぐには出ないだろう。

 イクサはとりあえず、手にしているデッキに再び目をやり、デッキ内のカードを見てみた。

 カードを1枚1枚めくる度に、なぜか愛着にも似た感覚に囚われる。

 まるで、このデッキを使うことが運命であると言わんばかりに。

 一体、どんな戦術を得意としたデッキなのだろうか。

 先ほど自分の身に起きた出来事など無かったかのように、気づけばデッキの考察ばかりしているイクサがいた。

 例えば、カイトが使っていたディヴァイントライブは手札をコストに能力を起動していた。つまり、いかに手札枚数を増やせるかが鍵となる。

 様々な戦術・戦法があるように、このデッキはどんな特徴を持っているのか。

 1枚1枚のカードの効果を読みながら、そんなことを思う。



――貴方は、面白い人ですね――


「え……?」


 突如、イクサの脳内で声が聞こえた。

 先程の禍々しい声ではなく、綺麗で可愛らしい声だった。

 そう思った瞬間、


「っ?!」


 イクサは、光の中に呑み込まれた。




「痛てて……ん? ここは、一体……?」


 辺りを見渡してみると、どこかの城の内部のようだった。


――これは、一体……


 夢でも見ているのだろうか、そう思って頬をつねってみるが、痛みを感じる。イクサはもう一度辺りを見渡す。

 景色は一向に変わらない。

 とりあえず人を探そうと思い、立ち上がる。


 このままジッとしていては埒が明かない。


 壁に手を着いて道なりに進んでいく。石とレンガでできた頑丈そうな城壁だ。

 灯りが無いようで、少し薄暗い。

 自分の足音が反響して、まるで誰かが後ろを歩いているかのように感じられる。試しに後ろを振り向いても、当然誰もいない。

 理屈は分かっていても、やはり気味が悪いと、イクサは思う。一人でいる孤独と不安感が、イクサの心を少しずつ蝕む。


 そうして暫く歩いていくと、庭に出た。

 庭と言っても、日本人の一般家庭の一軒家のような小さなものではなく、まるで花畑である。だが、そこに咲いている花は全て黒く染まっていた。


「……ここは一体、どこなんだ?」


「ここは、我々カオストライブが所有する城【カオス・キャッスル】の内部ですよ」


「え……っ?!」


 途方に暮れていたイクサの背後から、先程の可愛らしい声が聞こえた。

 振り返ると、そこには美少女が立っていた。

 艶やかな黒いショート、きめの細かい肌、愛らしい笑顔、大きくも小さくもない適度な胸、華奢な身体。

 しかしただ1つ、気になる点を1つ挙げるとすれば、彼女の格好だった。

 黒い袴の巫女服の上に金属製のようなプレートアーマーを着けている。巫女のような、それでいて騎士のような風貌だ。


「あ、あの…君は……?」


「私はこの城の警備をしている者です」


「け、警備……?」


「はい。そして、貴方をここに呼んだのも、私です」


「え……? ど、どうして……」


「貴方と話してみたかったから、ですかね。貴方は、今までの方々とは違った雰囲気でしたので」


「今までの方々、って……」


 少女は、少し悲しそうな表情を浮かべる。


「私達は呪われたトライブですから、所有者は何回か定期的に変わるんです。いずれも、呪いの力に耐えきれなくて何度か処分されました」


「呪い……」


 イクサの右腕を、少女は指差した。正確には、右腕に刻まれた黒い手のタトゥーを。


「それを消さない限り、貴方もやがて死に至るでしょう。……助かる方法は2つあります。1つは、再びデッキを封印すること。もう1つは、私達を使いこなすに値することを証明すること、です」


 イクサとの距離を詰め、右腕のタトゥーに触れる。


「悪いことは言いません。私達を封印して下さい……それが、お互いのためです」


「キミは、それでいいの?」


「はい、仕方のないことですから」


「でも、キミ達を使いこなせるって証明できればって……」


 少女は首を横に振る。


「それでも、確実性は無いです。私達の呪いは、それだけ強く深いですから」


「……」


 何も言えなくなり、イクサと少女の間で沈黙が流れる。


「……それだけを言うためだけに、俺をここに呼んだの?」


「……最初にも言いましたが、貴方は今までの方々とは違った雰囲気を持っています。だから、これはただの私の我が儘に過ぎません」


「我が儘って……」


「私達だって、ガーディアンです。できることなら、カードマスターと共に戦場で戦いたい。でも、私達を使いこなせる人は誰もいなかった。私はただ、使いこなせずに倒れていく人達をたくさん見てきました」


 強すぎる呪いの力に負け、一人また一人と使用者がいなくなり、やがて封印された種族。


「貴方が今までの方々と違く感じるのは、貴方なら私達を使いこなせるのではないかという、強い信頼感。どうしてこんな感情が沸き上がるのか、私自身不思議に思いますが」


 フフと小さく笑う少女に、イクサは思わず口が開く。


「だったら、その感情を信じればいいじゃないか」


「へ?」


「俺だって、デッキのカードを見てる時に、なぜか知らないけど、『俺はこのデッキを使うべきなんだ』って思った。運命なんて言うつもりは無いけど、結果はどう転ぶか分からないんだ。俺は少なくとも、デッキを手放す気はないよ」


 自分はその感情を信じる。イクサの思いが少女にも伝わる。

 もしかしたら、この人なら本当に……

 少女は涙を一筋流し、儚気な笑みを浮かべる。



「………後悔しても、知りませんよ?」



☆☆☆



――ジリジリジリ!!――


 目覚まし時計の音が鳴り響く。


「……あれ?」


 辺りを見渡すと、そこは何の変哲もないイクサの部屋だった。

 目を擦りながら、机の上に広がるカードをまとめる。

 その時、1枚のカードを手に取った。


「これは……」


 そのカードは、夢に出てきた少女に似ている。

名前は【カオス・巫女・ナイト】と書かれている。


――私も、信じますね――


「え……?」


 今、イラストの少女がイクサの方に向かってウインクした気がした。

 何度も目を擦ってカードを凝視するが、特に変化は無い。

 まだ寝惚けてるのだろうか。そう思って首を傾げる。

 だが時間も時間なので、あまり深く考えずにデッキをまとめる。

 デッキケースがないため、昔使っていた古い筆箱の中にデッキを収納し、通学鞄の中に入れた。


「ふあ〜ぁ、眠ぃ……」


 身支度を整え、二階の自室から出て一階のリビングに降りる。

 キッチンで母親が料理を作っていた。


「母さん、おはよう」


「あら、おはようイクサ。もう少しで朝ご飯できるわよ」


「うん、分かった」


 テーブルに座り、朝ご飯を待ちながらテレビを点けてニュースを見る。


「そういえばイクサ、昨日は何か騒いでたけどどうしたの?」


「……いや、なんでも。ナミとちょっと電話してただけ」


「ああ、ナミちゃんね。元気にしてる?」


「ナミはいつでも元気だよ」


「そう、ならいいんだけど」


 イクサの母は朝食を運び、テーブルに並べる。

 イクサは母親と共に「いただきます」と言って朝食を食べる。



「ごちそうさま」


 十数分後、朝食を食べ終わったイクサは食器を台所に運び、歯磨きをして登校のための準備を整える。


「じゃあ、母さん。行ってきます」


「はい、いってらっしゃい」


 イクサが家を出た後、イクサの母親は一息いれるためにリビングに座り、テレビを眺める。

 すると、ちょうどテレビでバトル・ガーディアンズを宣伝するCMが流れた。


「……っ」


 イクサの母親は眉間に皺を寄せてすぐにチャンネルを変えた。



「あの人が作ったカードゲームなんて、認めない……」



☆☆☆




 30分ほどかかり、特に問題無く学校に到着したイクサはそのまま教室に着いて着席する。


「よぉ、イクサ!」


 すると、カイトがイクサの背中を叩いてきた。朝からあまりのテンションの高さに、イクサは辟易する。


「……なに、カイト?」


「いや、今日の放課後さ、暇?」


「放課後は早乙女神社に行こうと思ってたんだけど」


 デッキは早乙女神社によって封印されていた。つまり、デッキの呪いについて知るためには、早乙女神社に向かうのが一番であるし、呪いを解くための手がかりを得られるかもしれない。イクサはそう結論づけていた。


「早乙女神社? ……ああ、早乙女さんの実家か。そういえば、お二人さん方は幼馴染みなんだっけか?」


「まあ、一応は」


「そうか……じゃあ、無理には誘えないな。ご近所付き合いとかありそうだし」


 ちょっと意外だ。イクサはそう思った。

 カイトなら無理矢理にでも誘ってきそうなものだと思っていたのだ。

 イクサはなんとなく、カイトが何に自分を誘おうとしていたのか気になった。


「……カイトは何に誘おうとしてたんだ?」


「ん? それはだな、我が校が誇る部活『カードバトル部』にご招待しようと思ったのさ!」


「そんな部活あったんだ……」


「でも、部員はまだ俺を含めて3人しかいないんだぁ。だーかーらー!」


 カイトに肩を掴まれた。

 目がキラキラしてて、なんだかとっても嫌な予感がする。

 そもそも、イクサの学校では部員3人の組織は部活じゃなくて同好会という扱いである。


「入部してくれよ、イクサ!!」


「えっ…いや、急に言われても……」


「頼むよ!!」


「え、その……」


 自分から話題を振った手前、ざっくり断るのも後味が悪い。そう思い、イクサは妥協の声をあげる。


「じゃあ、その……今日行ってみてから決めるよ、うん」


「え? 今日は早乙女神社に行くんじゃなかったのか?」


「もちろん、そこまで長居をするつもりはないよ」


「お、そっか。んじゃ、絶対だからな!? 絶対見部しに来いよ!」


「う、うん……」


 イクサが頷くと、カイトは「イヤッホゥ!」と叫びながら自分の席に戻っていった。

 相変わらず忙しい奴だ。イクサはそう思いながらも、少しだけ放課後が楽しみになった。

 一息つこうとしていると、



「イクサァァァァ!!」


 今度はナミがやってきた。

 次から次へとやってくる人物に、思わず溜め息が漏れてしまう。

 ナミはスライディングするかの如く、教室に侵入すると、こっちに真っ直ぐ駆け出してきた。


「なんだよ、ナミ」


「身体大丈夫?! どこかおかしくない?!」


「お前の頭がおかしい」


「そういうことを聞いてるんじゃないって分かってるくせに〜!!」


「あーもう、分かった分かった!」


 イクサは長袖を捲って、ナミに右腕を見せる。

 禍々しい黒い腕のような痣が刻まれている。


「ほら」


「……イクサ、中二病でも患った?」


「ブン殴るぞ」


「冗談だって! うわー、おもいっきり憑かれてるし〜!!」


「だから今日、早乙女神社に行こうと思ってる」


「う、うん! それがいいと思うよ!」


「まあ、今んところは特に体調に変化は無いから大丈夫だよ。だからそんな心配すんな。いつも通りに、笑っててくれ……な?」


 夢の中の彼女にも、本当ならこう言えたら良かったのかな。

 イクサはなんとなく、夢の中の少女とナミの姿を重ねた。雰囲気が全く異なる二人だが、それでもなぜか、通ずるものがあるような気がした。

 イクサの言葉を聞いて安心したのか、ナミはいつも通りの笑顔を浮かべる。


「イクサが無事で良かった〜。じゃ、私はこれで自分のクラスに戻るけど、またお昼に来るね!」


「別に来なくていいよ」


「んもう、意地悪! あと、今日も一緒に帰ろ♪」


「ごめん無理」


「うえぇ……。うちに来るなら一緒に帰ろうよぉ……」


 尽く誘いを断られたせいか、ナミはその場にうずくまってしまった。


「イクサがグレたぁ! うわぁぁぁん!!」


「いい歳して泣くなよ。……ウルトラグレートなんたら美少女」


「スーパーウルトラグレートアルティメット美少女!!」


 ナミの即座の訂正に、イクサは再び溜め息を漏らした。


「……。放課後は、カイトに誘われてカードバトル部に見部しに行くんだ。だから一緒には帰れない」


「あ、そうなの? じゃあ、私も見部しに行く! 私だってバトル・ガーディアンズやってるし!」


「いや、勝手に言うなって。カイトに聞かなきゃ」


 イクサがカイトの席の方に顔を向けると、


「大歓迎だぞ」


 すぐ目の前に、カイトが笑顔で立っていた。


「うわっ?!」


「なに驚いてんの、イクサ?」


「いきなり目の前に立つな! 心臓に悪いよ!!」


「あはは、すまんすまん」


 睨んでいるイクサから顔を逸らし、カイトはナミに話しかけた。


「じゃあ、早乙女さん。帰りのHRが終わったらここに来て。案内するよ」


「うん、分かった!」


 ナミは最後にイクサに手を振った。


「じゃあ、放課後に会おうね、イクサ!!」


「あ、ああ……」


 イクサの返事を聞くと、ナミは満足そうな顔で教室を去った。


「よーし……これで2人確保。やっと5人……正式な部として認められる……クククッ」


 一方のカイトはニヤニヤが止まらないのか、小声で怪しい笑い方をしていた。


(俺、まだ入部するとは言ってないんだけどなぁ)


 そんなカイトを見ながら、イクサは本日三度目ぐらいの溜め息を漏らした。




☆☆☆



 とりあえず、あっという間の放課後。

 授業風景なんて面白くないだろうから、全てカットである。


「んじゃあ、早速行くか」


 カイトの言葉に、イクサとナミは頷く。

 どうやら、カードバトル部の部室は現在使われていない旧校舎の一室にあるらしい。

 一応カードは違反物品なので、旧校舎なら心置きなくバトルできるということなのだろう。

 旧校舎へは、一度外に出て、学校の裏山を経由しなければならない。


「よーし、着いたぞ」


 大きく【カードバトルぶ】と書かれた画用紙が、扉に貼ってあった。

 カイトは勢いよく扉を開けた。

 すると、


「あぁん? まだ部員がいたのか?」


 荒らされた部屋、傍らには傷だらけの生徒2名が倒れている。

 そして、中央に置かれたソファにふんぞり返っている男が1人。


「え……」


 カイトは突然の光景に一瞬固まると、すぐに倒れている2名の生徒に駆け寄った。


「東條部長、リンナ副部長!」


 カイトの声で意識を取り戻したのか、2人は軽く目を開けてカイトを見た。


「や、やあ…戦宮くん。相変わらず、元気そうだね……」


「不甲斐ない先輩で、ごめんなのだー」


「ふ、二人とも……一体何があったんですか?!」


 東條部長と呼ばれた男子生徒、リンナ副部長と呼ばれた女子生徒は互いに顔を見合わせ、男子生徒の方が息絶え絶えで言う。


「そこの奴が、いきなり部室に押し入ってきて、バトルを仕掛けてきたんだ。2人がかりでバトルしたんだけど……この有り様さ」


 そんな男子生徒を嘲笑うかのように、ソファでふんぞり返っている男は言う。


「お前達のレアカードは、ありがたくもらっとくぜ。クククッ」


 その手には、2枚のカードが握られていた。


「なっ! 返せよてめえ!!」


「止すんだ!」


 殴りかかろうとするカイトを、男子生徒が止めた。


「カードバトルで奪われたカードはカードバトルで奪い返さなければ意味がない。暴力で取り返しても、カードは喜ばない……」


「っ…だったら…だったら……!!」


 カイトはデッキケースを懐から取り出すと、男に突き付けた。


「お前、俺とバトルしろ!」


「ほぅ……」


「俺が勝ったら、部長と副部長のカードを返してもらうからな!」


「いいだろう。なら、俺が勝ったら、お前をもらう。いいな?」


「ああ。望むところだ!」


 カイトの言葉に、男子生徒と女子生徒は目を見開いた。


「そんな…ダメだ!」


「ソイツを相手にしちゃダメなのだ!」


 2人は必死にカイトを説得するが、カイトはそれを一蹴し、



「「ダイス・セット!!」」


 そのまま、バトル・ガーディアンズを始めてしまった。

 イクサは、とりあえず教師を呼ぼうと部室から出ようとするが、男子生徒に腕を掴まれた。

 男子生徒は首を横に振る。


「真剣勝負に、水を差してはダメだ」


「でも……」


「お願いだ。彼の覚悟を、見届けてほしい……」


「…………」


 イクサは、カイトの方へ顔を向ける。




「俺の先攻、ドロー! フォースチャージして更に追加1枚ドロー!」


 カイトは手札を確認する。


「フォースを1つ消費して、アタックガーディアン【ディヴァイン・ソルジャー】を召喚(サモン)!!」


【ディヴァイン・ソルジャー】

SF【1】

GT【ノーマル/アタック】

Tr【ディヴァイン】

DG【0】

LP【1000】


「ターンエンドだ!」


「なら、俺様のターンだな。メインドロー!」


 男は豪快にドローした。

 その様子に、男子生徒は表情を曇らせた。


「気を付けてね、戦宮くん……」



 男は、手札をじっくり眺めている。


「ふむ……どれも捨てるにはもったいないカードばかりだが……これだ!」


 男はカードを掲げるように挙げ、チャージゾーンに置いた。


「フォースチャージして、追加ドローだ!!」


 ドローしたカードを手札に加えた。


「このカードを出すぜ! アタックガーディアン【ワームベイビー】を召喚(サモン)だ!!」


【ワームベイビー】

SF【0】

GT【ノーマル/アタック】

Tr【インセクト】

DG【0】

LP【500】


「さらにフォースを1つ支払って、アシストガーディアン【補給部隊】を召喚(サモン)!」


【補給部隊】

SF【1】

GT【ノーマル/アシスト】

Tr【メタル】

DG【0】

LP【600】


 男がアシストガーディアンを召喚した事に、イクサは目を見開いた。


「えっ、なんで召喚してるの!? フォースを使い切ったら攻撃できないんじゃ!?」


 その疑問に、ナミが答えてくれる。


「【補給部隊】のアシストアビリティは戦闘に必要なフォースを0にしてくれるんだよ! それと、驚くべきところはそこじゃないよ!」



 ナミの解説を聞いて気分を良くしたのか、男は高らかに笑う。


「そこのお嬢ちゃんの言う通りだ! 【補給部隊】のアシストアビリティ発動!!」


【補給部隊】

【アシストアビリティ】

【永】

 ┗あなたのターンのバトルフェイズ開始時に発生するフォースの消費は0になる。



「サイコロを振るぜ!」


 男が出した目は【4】。


【ワームベイビー】


【1】【3】【5】【6】……相手のアタックガーディアンに200のダメージを与える。

【2】【4】………相手のフォースを1つ選択する。選択したフォースは、次の相手ターンのエンドフェイズ時まで回復できない。


「【ワームベイビー】のアタックアビリティ発動! てめえのフォースを封じさせてもらうぜ!」


「くっ……」


 この状況に、ナミは顔を歪めた。


「先攻のアドバンテージを潰された!」


「アドバン…テージ?」


「うん。バトル・ガーディアンズの先攻と後攻にはそれぞれアドバンテージってものがあって、先攻はフォース1つ分のアドバンテージ、後攻は相手に与えるダメージ量のアドバンテージがあるの。でも、【ワームベイビー】のアタックアビリティでそれを潰されてしまったってこと!」


 ナミの解説に、カイトは横目で意識を向ける。



(それだけじゃないぜ、早乙女さん。奴の場には【補給部隊】がある。あれのアシストアビリティを考えると……正直、かなりマズイ状況なんだよな。明らかに俺の劣勢だ)


 カイトは手札を見つめる。


(ディヴァイントライブにフォースを回復させる効果のカードは無い……なんとか持ちこたえるしかないか…)


「んじゃ、ターンエンドだぜ」


 男の言葉に頷き、カイトはドローした。


「俺のターン、メインドロー!」


 手札にカードを加えた後、チャージゾーンにカードを置いた。


「フォースチャージして、追加ドロー!」


 本来ならフォースを1つ消費してアシストガーディアンを出すところを、フォースが1つ封じられているために、召喚のタイミングを1ターン逃してしまった。


「フォースを1つ消費して、サイコロを振る!」


 サイコロの目は【3】。


【ディヴァイン・ソルジャー】

【1】【4】………相手のデッキからカードを3枚、ジャンクゾーンに送る。

【3】【5】………相手のアタックガーディアンに300のダメージを与える。

【2】【6】………相手の手札からランダムに1枚、ジャンクゾーンに送る。



「【ディヴァイン・ソルジャー】のアタックアビリティ発動! 【ワームベイビー】に300のダメージを与える!」


【ワームベイビー】

DG【0→300】

LP【500→200】


「これでターンを終了する。そして【ワームベイビー】のアビリティの効力が無くなり、エンドフェイズ時に封じられていたフォースが回復する」


「フンッ、俺様のターンだ! ドロー!!」


 ドローしたカードが余程良かったのか、男はニヤリと笑った。


「カードを1枚フォースチャージし、追加1枚ドロー。そして、フォースを2つ消費してアタックガーディアン【デスドラザウルス】を召喚(サモン)!!」


【デスドラザウルス】

SF【2】

GT【ノーマル/アタック】

Tr【ジュラシック】

DG【300】

LP【1500→1200】



 【デスドラザウルス】を見て、カイトの顔が驚愕に染まる。


「なっ…ジュラシックトライブ?! インセクトトライブの【ワームベイビー】にメタルトライブの【補給部隊】、さらにはジュラシックトライブの【デスドラザウルス】だと?! トライブがバラバラだ……それに、いずれもレアリティの高いカードばかり……まさか…」


 カイトの言葉に、男子生徒が頷いた。


「うん……そいつは、レアカードハンター『諸星 シンヤ』。奴のデッキは、今まで奴が他人から巻き上げたレアカードのみで構築されたもの……当然、トライブに統一性は無い。だが、それ故に奴の戦い方は変幻自在。そう簡単には攻略できない……」


 男子生徒の言葉に、レアハンター『諸星 シンヤ』は「その通り!」と言った。


「レアカードこそ最強カード。故に俺様のデッキは最強!! 誰にも負けんのだ! 【デスドラザウルス】のトライブアビリティを発動する!!」


「くっ!?」


【デスドラザウルス】

【トライブアビリティ】

【起】(COST:自分のフォースを任意の枚数選び、ジャンクゾーンに送る)

 ┗あなたのターン、コストを支払うことで発動できる。そうしたら、このカードはジャンクゾーンに送ったコストのフォースの枚数だけ、このターンのバトルフェイズ中にアタックアビリティを複数回発動できる。



「これこそが【デスドラザウルス】のトライブアビリティ、【自然の摂理ルール・オブ・ネイチャー】だ!! サイコロを振るぜ!」


 諸星のサイコロの目は【6】


【デスドラザウルス】

【2】【4】【6】………相手のアタックガーディアンに500のダメージを与える。

【1】【3】【5】………相手のアタックガーディアンに250のダメージを与える。



「【デスドラザウルス】のアタックアビリティ発動! 2枚フォースをジャンクゾーンに送ったから、500のダメージを2回与える!!」


 カイトの【ディヴァイン・ソルジャー】のライフは1000、このままじゃカイトの負けだ。

 イクサは思わずカイトの名を叫びそうになった。しかし、カイトの顔に恐怖の二文字は無かった。


「フォースを1つ消費し、手札からカウンターカード【ハーフダメージ】を発動!!」


【ハーフダメージ】

FORCE【1】

【カウンター】

【自】(カウンターステップ時)

 ┗あなたは自分のガーディアンを1体まで選び、そのカードが受けるダメージ効果1つの数値を半分にする。



「カウンターカード?!」


 聞き覚えの無いカードに、イクサは大いに戸惑ったが、ナミが説明する。


「カウンターカードっていうのは、相手がカードの効果を発動させた時に発生するカウンターステップ時に発動できるカードのこと。今みたいに相手からのダメージを軽減してくれたりするの!」


 ナミの説明に納得し、イクサは思わずガッツポーズを取る。これでデスドラザウルスの攻撃に耐えることができるからだ。



【ディヴァイン・ソルジャー】

DG【0→250】

LP【1000→750】


【ディヴァイン・ソルジャー】

DG【250→750】

LP【750→250】



「チッ……ターンエンドだ」


「よし、俺のターン。メインドロー! フォースチャージして更に追加ドロー!!」


 カードを手札に加え、


「フォースを2つ消費して、手札からアタックガーディアン【ディヴァイン・アローズ】を召喚(サモン)!」


【ディヴァイン・アローズ】

SF【2】

GT【ノーマル/アタック】

Tr【ディヴァイン】

DG【750】

LP【2000→1250】


 僅かであるが、カイトのアタックガーディアンの方がライフが高い。

 しかも男――諸星シンヤは【デスドラザウルス】のトライブアビリティを発動させる時にフォースを全てジャンクゾーンに送ったので、次のターンが回ってきてもSF【3】以上のカードは出せない。

 これで戦況は振り出しに戻った。


「フォースを1つ消費して、サイコロを振る!」


 出た目は【2】!


【ディヴァイン・アローズ】

【2】【3】【5】………相手のデッキからカードを5枚、ジャンクゾーンに送る。

【1】【4】【6】………相手のアタックガーディアンに500のダメージを与える。



「【ディヴァイン・アローズ】のアタックアビリティ発動! デッキからカードを5枚、ジャンクゾーンに送る!」


 アタックガーディアンにダメージは与えられなかったが、デッキを削ることに成功した。

 デッキを削ればその分だけ相手のデッキの回転率を上げてしまうが、キーカードが捨て札となれば、儲けものだろう。


「クククッ……」


 だが、シンヤは不敵に笑う。


「デッキからカードをジャンクゾーンに送ったな? なら、カウンターカード【自己犠牲自己修復】を発動!」


【自己犠牲自己修復】

FORCE【0】

【カウンター】

【自】(カウンターステップ時)

 ┗相手が発動したアタックアビリティがデッキからカードをジャンクゾーンに送る効果であり、尚且つ自分のアタックガーディアンのLPが相手のアタックガーディアンより下回っている場合にのみ発動できる。自分のアタックガーディアンのLPを半分にダウンすることで、ジャンクゾーンのカードを5枚まで選択し、チャージゾーンに置く。LPがダウンした分だけ、あなたのアタックガーディアンのDGを増加させる。(この効果でDGの値が増加しても、さらにLPが減少することはない)



【デスドラザウルス】

DG【300→900】

LP【1200→600】


 一瞬にして、諸星のチャージゾーンにカードが5枚置かれた。


「そんな……」



 カイトの足は、力なく崩れた。

 そんなカイトを、シンヤは嘲笑うかのように見つめる。


「さあ、最後のターンだせ、ガキ。俺様のターン、ドロー!」


 シンヤはカードを見ながらニヤニヤ笑う。


「フォースチャージしてもいいんだが、もう意味ないな。チャージフェイズとサモンフェイズを飛ばして、セットフェイズ。【デスドラザウルス】のトライブアビリティを発動する!」


【デスドラザウルス】

【トライブアビリティ】

【起】(COST:自分のフォースを任意の枚数選び、ジャンクゾーンに送る)

 ┗あなたのターン、コストを支払うことで発動できる。そうしたら、このカードはジャンクゾーンに送ったフォースの枚数だけ、このターン中のバトルフェイズ中にアタックアビリティを複数回発動できる。



「さあ、サイコロを振るぜ!」


 シンヤはサイコロを振り、サイコロはシンヤの手から離れ、そのままテーブルとぶつかった音を出した。

 そるはまるで、試合終了を告げるゴングのようだった。


 サイコロの目は【1】


【デスドラザウルス】


【2】【4】【6】………相手のアタックガーディアンに500のダメージを与える。

【1】【3】【5】………相手のアタックガーディアンに250のダメージを与える。



「【デスドラザウルス】のアタックアビリティ発動! 250のダメージを5回、ジワジワと与えてやる!! まずは1回目!!」


【ディヴァイン・アローズ】

DG【750→1000】

LP【1250→1000】


「続いて2回目!!」


【ディヴァイン・アローズ】

DG【1000→1250】

LP【1000→750】


「3回目!!」


【ディヴァイン・アローズ】

DG【1250→1500】

LP【750→500】


「4回目!!」


【ディヴァイン・アローズ】

DG【1500→1750】

LP【500→250】


「これでラストの5回目だ!!」


【ディヴァイン・アローズ】

DG【1750→2000】

LP【250→0】



 カイトが、負けた。



「俺の勝ちだ!! さーて、じゃあお前のデッキからレアカードだけをいただくとするか!」


 諸星は、カイトのデッキを漁って、レアカードだけを巻き上げようとしていた。

 その光景は、まるで押し入り強盗のようだ。

 イクサはただただ、許せないと思った。

 シンヤの今の行動は、カードゲームの全てのプレイヤーにとって、冒涜とも呼べる行為だからだ。


――奴を倒せ……――


 あの不気味な声がイクサの頭に響いた。


――奴を倒し、我らの主たる存在であることを示せ――


 存在を示す……それはつまり、証明しろということ。

 何を証明する? 決まっているではないか。

 イクサはシンヤの腕を掴んだ。



「あぁ? なんだこの手は?」


「それ以上、カイトのデッキに触るな」


 そして、思いっきりシンヤを睨み上げた。


「次は、俺が相手だ」



 証明すべきは、この畜生に劣らないこと。

 カードゲームは楽しい時間を相手と共有するものであり、誰かを傷つけるための凶器ではないのだ。

 その信念を、このカードバトルを勝利することで、示す。

【号外! フィニッシュカード特集!!】


カイト「手酷く負けました(泣)」


イクサ「調子に乗るからそうなるんだよ」


カイト「たとえ負けても挫けません! 主人公の戦宮カイトです!!」


イクサ「まだ言うか……。本当の主人公の、聖野イクサです」


カイト「今回紹介するフィニッシュカードは【デスドラザウルス】!!」


イクサ「カイトをフルボッコにしたカードだね」


カイト「ああ、憎いかぎりだぜ!」


イクサ「コイツはSF【2】のアタックガーディアンだよ。SF【2】に負けるとか(笑)」


カイト「うっせぇ! このカードのトライブアビリティはジャンクゾーンに送ったフォースの枚数だけ攻撃できる。中々凶悪なカードだ」


イクサ「でも、連続攻撃するためには最低でもフォースは2枚、ジャンクゾーンに送らなければ旨みが無いね。発動するなら、確実に勝てる状況に限られるから返しのターンで痛い目に遭うよ」


カイト「くっそー、俺のレアカードが……」


イクサ「大丈夫だよ、カイト。仇はとるから」


カイト「次回はいよいよイクサのカオストライブの登場、一体どんな能力を秘めているのか……」


イクサ「1つだけ言っておくけど……俺はまだ始めたばかりの初心者だからね」


カイト「うわーん、不安になってきた!!」


 次回もお楽しみに

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