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第1章 第十二話 黒い仮面の男

惑星クロノスの命運をかけた激戦が外で吹き荒れる中、時の使者の本部【クロノス・コア】の最深部には、それらすべてから切り離されたような深い静寂が満ちていた。


最高医療室____


淡いエメラルドグリーンの光を放つ最高医療カプセルの中で、ドクン……と、ルシフェルの心臓が力強く鼓動を打った。


先の戦いで負った深い傷が癒え、彼女の意識がゆっくりと覚醒していく。


「……ん……」


うっすらと目を開けたルシフェルは、カプセルから周囲を見回した。


しかし、全面戦争の真っ只中であるため、部屋には自分を看病する医療局員も、警備兵も、誰もいない。


(何が起きている……?)


そう思考を巡らせた、まさにその瞬間だった。

いつの間にか、カプセルの目の前に「それ」は立っていた。


「……っ!?」


気配は一切なかった。


まるで、最初からそこに存在していた影が人の形を成したかのような、不気味で静かな佇まい。


漆黒の衣を纏い、仮面や首には数字の書かれていない謎の黒い仮面をつけた男。


次の瞬間、男がカプセルの制御パネルに触れると、シューッという排気音と共にガラスが開き、ルシフェルは外へと解放された。


床に足をつけ、未だ完全ではない身体を支えながら、ルシフェルは眼前の男を鋭く睨みつける。


仮面はつけている。


だが、襲撃してきたあのクアトロのような、兵士としての番号がどこにも見当たらない。


「お前は……仮面軍、か?」


ルシフェルは警戒を最大に高めながら、低く問いかけた。


「……お前は何者だ」


沈黙が部屋を満たす。


男から放たれる圧倒的な強者のオーラが、室内の空気をビリビリと重く狂わせていく。


やがて、男は抑揚のない、氷のように冷え切った声で口を開いた。


「……僕はウカビルだよ」


「な……ッ!?」


ルシフェルの瞳が驚愕に見開かれる。ウカビルだと? そんなはずがない。


だが、男の仮面は右目の部分だけが開いた異様な構造になっており、そこから覗く瞳は、ルシフェルがこれまでの人生で一度も見たことがないような、底知れない闇を湛えた恐ろしいものだった。


「今からお前には、絶望を味わってもらう」


男のその異様な目が、仮面の奥で冷酷に笑った。


ゾクッ――と、ルシフェルの全身に今までにない鳥肌が立ち、激しい嫌な予感が脳裏を駆け巡る。


抗おうとしたその瞬間、ルシフェルの意識は、男の放つ異様な目の中に吸い込まれるようにして、急速に深い闇へと堕ちていく。


(ウカビルだと……? 嘘だ、信じられるか……! だが……だが、最近のあいつの急成長ぶりには、確かに不自然さを覚えていた……まさか、本当に……!)


薄れゆく意識の瀬戸際で、ルシフェルはそんな最悪の疑念を抱かざるを得なかった。


完全にルシフェルの意識が途絶え、その身体は黒い仮面の目の中へ吸い込まれた。


静まり返った室内で、黒い仮面の男の身体が、陽炎のようにゆらゆらと歪み始めた。


男は肉体が、衣服が、そしてその顔が、吸い込まれたルシフェルの形へと徐々に変貌していく。


次の瞬間、そこに立っていたのは、時の使者【ルシフェル】だった。


ルシフェルに化けた男は、自らの顔を触り、冷酷な笑みを浮かべる。


「素晴らしい·····」


こうして、時の使者の本部【クロノス・コア】の最深部から、静かに、黒い仮面の男の計画が動き出していた。

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