第42話「凡骨の咆哮、可能性の奈落」
第42話「凡骨の咆哮、可能性の奈落」
アーク・オブ・ソロモン第二層——鉄の墓場。
錆びついたスクラップが巨大な渦を巻くその空間で、片倉克也の《メタルブラックベア》の前に立ちはだかったのは、かつてのプロリーグで敗れ、アンティによって奪われた機体たちの成れの果てだった。
千を超える腕、万を超える歯車が蠢く巨体。一歩踏み出すたびに「……オレタチヲ……スてるナ……」という怨嗟の声となって、片倉のマブイを削り取っていく。
「……こいつら……みんな、負けていった連中の未練かよ!」
ドス黒い磁場が、メタルブラックベアの剛腕を重く沈める。腕を一つ引き裂いても、即座に別のスクラップが吸い付き、再生する。無限の再生。終わりの見えない戦いだった。
迷宮の壁面にソロモンの声が響いた。「片倉克也。君も元は彼らと同じ端数だ。可能性などという不確実な言葉に縋るより、ここで静かにスクラップに戻る方が、彼らへの供養になるのではないかな?」
「……うっせえよ。……俺は、こいつらの気持ちが、誰よりも分かっちまうんだ」
片倉は、歪んだコクピットの中で、かつて自分が拾い集めてきたボロボロのネジ一つ、ボルト一つを思い返していた。自分も、こいつらと同じだった。妹の治療費のために泥を啜り、システムに「ゴミ」だと弾き出されてきた。
黒龍の赤い瞳が、激しく明滅した。狂暴な意志が問いかけてくる——この無念を喰らって、すべてを無に帰すか、と。
「……いいや、違う。……お前ら、本当は『終わりたかった』んじゃねえよな」
倒しても、こいつらはまた別の形で現れる。本当に必要なのは、話を聞いてやることだ。
片倉は、コントロールレバーを逆回転させ、黒龍の全エネルギーを「外部」へと放出した。攻撃ではない。対話だ。
その瞬間、黒龍の赤い瞳が一度だけ静かに輝いた。
「恨みも、悲しみも……全部持ってこい! 俺が、俺とこの《黒龍》が、お前らの届かなかった『明日』へ、無理やり連れてってやるッ!!」
「これが、俺の選んだアンティだ!!」
叫びと共に、メタルブラックベアの装甲が赤熱した。周囲のスクラップが「怨念」から「力」へと反転する。黒龍の呪いが、かつての仲間たちの未練を飲み込み、一本の輝く槍へと精錬されていく。
漆黒の衝撃波が奈落を裂き、巨体の核を直撃する。怨嗟の声が、一瞬だけ安らかな駆動音に変わり、無数のスクラップが光の粒となって霧散していった。
静寂が戻った第二層で、片倉の機体は両足を失い、地に伏していた。
しかしそのモニターには、ハルトが駆け抜けていく最上階への道が、眩いほどに映し出されていた。
「……へっ。……ハルト。……あとは、任せたぜ」
もう動かない右腕で、そっと通信機のマイクを叩く。
「……最高に……面白い『可能性』……見せてくれよ……」




