第40話「創世の塔、人類最後のアンティ」
第40話「創世の塔、人類最後のアンティ」
海を割り、空を貫くように浮上したのは、かつての黄金の城さえも小さく見えるほど巨大な白亜の塔だった。
都市中の電光掲示板、人々のスマートフォン、プロリーグの全ホログラムが、ソロモンの冷徹な微笑みにジャックされる。
「親愛なる観客諸君。そして、盤上に残された三人の駒よ」
ソロモンの声は、物理的な音を超えて、人々のマブイに直接響き渡った。
「ルールは単純だ。この塔の頂上で私が零を振れば、この世界のマブイはすべてリセットされ、新たな人類へと植え替えられる。世界が零に戻ることを、私はずっと待っていた——始まりがあれば、必ず終わりが来る。それが理だ。……止めたくば、来い」
ソロモンの姿が消え、塔の門がゆっくりと開かれた。
「……行くしかない。あいつを止めなきゃ、俺たちの『昨日まで』も『明日』も、全部消えちまう」
ハルトの言葉に、氏胤が静かに頷いた。
「北条の演算によれば、勝率は限りなく零に近い。だが、ハルト……貴様の『一』という不確定要素を、私の計算式に組み込むことにした」
「へっ、あいつを殴れるんなら、計算なんていらねえよ。行こうぜ、相棒!」
三人は塔の内部へと突入した。
第一層——論理の迷宮。
そこに待ち受けていたのは、より洗練された計算機を内蔵する無人機体群と、氏胤の過去を具現化した「偽りの皇龍」だった。かつて自分が心酔した完璧な計算式が、今や敵として立ちはだかっている。
「……ここは私が引き受ける」
氏胤が《真・皇龍》の翼を広げた。「自分の過去を、自分の論理で超えてみせる。それが、私がこの盤面に残るための『アンティ』だ」
第二層——可能性の奈落。
さらに上へと急ぐハルトと片倉を、漆黒の霧が襲った。霧の中から現れたのは、かつて奪われた無数の機体たちの残骸を継ぎ接ぎにした、亡霊のような巨大機。
「……ハルト、ここは俺の番だ」
片倉が《メタルブラックベア》の爪を構えた。「《黒龍》の呪いも、この盤面で消えていったマブイも、全部背負って叩き潰してやる。……お前は、あいつのところへ行け!」
ハルトは《魔導将軍・マギ・プロフェット》の加速を最大にした。
最上階への道を駆けながら、機体の歯車の音を聞いた。将軍の気配は——まだ、ここにある。あの漆黒のダイスの中に。
天上の盤面で、ソロモンは一人、盤上を読むかのように小さなダイスを弄んでいた。
「……来たね、ハルトくん。……いや、『将軍と一を積む少年』よ」
「ソロモン……。アンタのゲームは、ここで終わりだ」
「いいや、まだ私のターンは終わっていない。……さあ、始めようか。君の『一』が勝つか、私の『零』がすべてを飲み込むか。……人類最後のすごろくを」
ソロモンが掲げた漆黒のダイスから、微かな将軍の気配がした。ハルトは杖の先を握りしめた。




