第38話「零のメダルの真実、ハルトの選択」
第38話「零のメダルの真実、ハルトの選択」
白熱する正午の光が、都市のすべてを白く塗り潰していく。《真・皇龍》の超伝導装甲が悲鳴を上げ、《メタルブラックベア》の黒い塗装が灼かれている。
「……ハルト。……メダルが、泣いている」
片倉が呻く。ハルトは懐のメダルを取り出した。黄金の表面の亀裂から漏れ出しているのは、将軍の強大なマブイではなく、数千年の時を経て蓄積された「恐怖」の冷気だった。
『……小僧。……引け。……この光は、我ら「古き魂」を根絶やしにする……「零」の裁きだ』
傲慢だった将軍の声が震えている。ハルトはアサヒを睨みつけた。
「零のメダル……。アサヒ、あんたは何をしようとしてるんだ」
「簡単なことだよ、ハルトくん。この世界のマブイは、数値化されすぎて淀んでしまった。エジプト卿が目指した秩序さえも、結局は数字の奴隷を生んだだけだった。……ボクも、一度零になったから分かるんだ」
アサヒが「零のメダル」を掲げた。「だから、一度すべてを零に戻すんだ。将軍も、黒龍も、皇龍も……すべては新しい世界の種として消えてもらうよ」
「……そんなこと、させるかよッ!」
機体は重圧で動けない。その時、セナの声が届いた。
「ハルト、聞いて! 石版の最後の一行——ハワードさんが解読したわ!」
『王の器、壊るる時、真なる道は「一」の欠片に宿らん』
「メダルという『檻』が壊れたとき、将軍の力とあなたの意志が、初めて一つに溶け合うって意味なのよ!」
『……ハルトよ。最後の取引だ』
亀裂から溢れ出す黄金の光が、ハルトを包み込む。
『我にすべてを預けよ。我が魂を貴様の神経に直接刻めば、あの日鬼を討つ力を授けてやろう。……だが、貴様の自我は消え、二度と水城ハルトには戻れぬがな』
「ハルト、そいつに乗るな!!」
片倉が叫ぶ。氏胤が唇を噛んでいた。
脳裏に、いくつもの景色が浮かんだ。じいちゃんの、普通の味噌汁。セナと泥だらけで直した歯車。片倉と笑い合った路地裏。
「……悪いな、将軍」
ハルトは右手でメダルを握った。じいちゃんから受け取った時と同じ手で。
将軍が、初めて、抵抗しなかった。
メダルが——最後に一度だけ、熱を持った。それはこれまでのどの熱とも違う——恐怖でも怒りでも傲慢さでもなく、ただ静かな何かだった。
「あんたも、俺の『一』の一部になれ。……二人で一緒に、一歩ずつ進むんだッ!!」
パキリ、と音がして、破片が光になった。
将軍の魂がハルトの意志という炎に溶け込み、純粋なエネルギーへと精錬されていく。
ブラック・マギの姿が、光の中で変わっていく。
軋んでいた歯車の音が——変わった。満ちた音になった。
魔導師の優雅さと将軍の武骨さが溶け合い、真紅と黄金の戦衣を纏う新たな姿へ。
「……ボクの零を、拒むなんて」
アサヒの笑顔が消えた。「なら、その一ごと、塵にしてあげる!」
《日鬼》の巨大な掌が、太陽そのものを叩きつけるように振り下ろされた。




