第36話「土鬼の地鳴り、氏胤の再臨」
第36話「土鬼の地鳴り、氏胤の再臨」
金鬼が砕け散った後の静寂を、地底から突き上げるような低周波が塗り替えた。
ビルが悲鳴を上げ、街灯がなぎ倒される。現れたのは、もはや機械というよりは「動く山」だった。
「——無意味だ。積み重ねた一も、熱き魂も、すべては土に還る定め」
《土鬼》。その巨躯は都市の残骸を磁力で吸い寄せ、自らの装甲へと変えていく。その肩に座る旭は、無邪気な笑みを浮かべながら零のメダルを弄んでいた。
「ねえ、ハルト。君の『一』って、この地球の重さに耐えられるのかな?」
アサヒが指を鳴らすと、重力盤面が展開された。ブラック・マギの細身の機体が、不可視の圧力によって地面にめり込む。片倉のメタルブラックベアも、剛腕を動かすことさえ叶わない。
「……クソッ、出力が……追いつかねえ……!」
「さようなら。ゴミ溜めの勇者たち」
土鬼が残骸を凝縮した巨大な拳を振り上げる——その刹那。
天から降り注いだのは、白銀の雷光だった。
地響きと共に着地したのは、傷跡を超伝導装甲で覆い、背中に三対の光の翼を携えた白銀の巨龍——《真・皇龍》。操縦席の北条氏胤は、その瞳に機械的な冷徹さと、敗北から這い上がった執念の光を宿していた。
「氏胤……! お前、その体……」
「黙れ、ハルト。……貴様の泥臭い一を認めたわけではない。だが、この都市の秩序を乱す無秩序な重力は、北条の論理が許さないのだ」
(同じだ——神経接続をさらに深めることで、氏胤はまた自分を機械に近づけようとしている。それが正しいのか、俺にはまだ分からない)
氏胤がメダルをセットした。出目は「三〇」——北条の全演算リソースが、一点に収束する。それだけだ。
「これが、北条の計算の到達点だ!」
真・皇龍の三つの砲門から放たれた白銀の奔流が、土鬼の重力場を真っ向から貫いた。不可視の圧力が霧散し、ハルトと片倉の機体が自由を取り戻す。
「ハルト、片倉! ぼうっとするな!」
氏胤の号令が飛ぶ。「この山を崩すには、三方向からの同時攻撃しかない。それ以外に計算上の解はない!」
(かつて将軍の盾だった忠臣が、今は俺と共に戦っている——石版の構図が、現代では逆転している)
ハルトはブラック・マギの杖を構えた。
氏胤の白銀が正面から貫く。片倉の黒が左から砕く。ハルトの紫が右から刻む。
重厚な土の防壁が、三色の光に包まれた。
しかしアサヒは、零のメダルを握りしめた。その表情から、笑みが消えていた。




