第34話「木鬼の呪縛、セナの決意」
第34話「木鬼の呪縛、セナの決意」
《火鬼》との死闘から数時間。都市の喧騒は消え、不気味な静寂が覆っていた。ハルトたちは旧市街の廃工場に身を隠し、《メタルブラックベア》の修復を急いでいた。
「……ひどい損傷。マブイの回路が焼き付いて、物理的な装甲も歪んでる」
セナは泥だらけになりながら、機体の内部へ潜り込んでいた。
「セナさん、少し休んだほうがいい。……手が震えてるよ」
「休めないわ。鬼たちがいつ次の曜日を回してくるか分からないもの」
その時、工場のコンクリートの床から、音もなく緑の蔦が這い出した。微細な回路が編み込まれた、機械の寄生植物だ。
「——見つけた。哀れな子羊たち」
工場の窓を突き破り、巨大な影が降り立つ。黒ずんだ古木のような装甲に覆われ、無数の触手状の蔦をなびかせた機体——《木鬼》。胸部には、他者のマブイを貯蔵するエメラルド色の核が光っていた。
「セナさん、下がれッ!」
ハルトが叫んだ直後、蔦がセナの四肢を縛り上げた。その瞬間——セナの手が、修理中の部品の上をかすめた。ハルトはその動作の意味を、後になって理解する。
「職人のマブイは、良質な肥料になる……」
「——っ! 体が……力が抜けていく……!」
「セナさん!!」
蔦を通じて、セナのマブイが《木鬼》へと流れ込む。このまま時間が経てば——。
『小僧。我に命じよ。その森の出来損ないごと、工場を消し飛ばしてやろう』
懐のメダルから将軍の声が届く。
(将軍に命じれば一瞬で終わる——でもそれは、俺の答えじゃない)
ハルトはブラック・マギのレバーを握った。将軍は何も言わなかった。ただメダルの熱が、少しだけ変わった気がした。
「一の積み重ねは、一点を突破するための力。……だったら、一点だけに——極限まで、圧縮する」
杖の先端にマブイを集中させた。広範囲攻撃ではない。針の先ほどに圧縮された、細い魔導の光。セナを縛る蔦の「節」だけを狙う。
「……外すなよ、相棒」
ブラック・マギの杖が、静かに動いた。
放たれたのは、目に見えないほど細い光の針。それは正確にセナを縛る蔦の節だけを貫き、マブイの供給経路を瞬時に切断した。
「な、に……!? 貴様の数値で、我が結合を見抜いたというのか!」
拘束から解かれたセナを、ハルトは機体の腕で受け止めた。
荒い息を吐きながら、セナは微かに笑った。「……甘い、ハルト。反撃の準備は、私がもう終わらせてる」
セナの手には、修理中だった《メタルブラックベア》の予備コンデンサが握られていた。縛られた瞬間に、蔦の内部に過負荷のプログラムを流し込んでいたのだ。
「——今よ、ハルトッ!!」
内側から火花を吹く《木鬼》。ハルトは躊躇なく、ブラック・マギの力を解放した。
緑の鬼は絶叫と共に、自らのマブイを暴走させ、光の中に消えた。
ハルトは機体から降り、セナの手を取った。
「……無茶しすぎだよ、セナさん」
「お互い様でしょ。……ハルト、確信したわ。あなたとこの機体なら——将軍に飲まれず、あいつらに勝てる」
工場の外では、金色の光を纏った《金鬼》が、静かにその時を待っていた。




