第33話「火鬼の猛炎」
第33話「火鬼の猛炎」
《月鬼》を退けたのも束の間、都市の気温が異常な速度で上昇し始めた。
アスファルトが陽炎に揺れ、公園の樹木が自然発火する。通信機からは、避難を急ぐ人々の悲鳴と、「機体が溶けて動けない」という報告が次々と届いていた。
「……来るぞ。この熱量、ただの火災じゃねえ!」
片倉が叫ぶと同時に、地表から巨大な火柱が噴き上がった。炎の中から姿を現したのは、溶岩のような装甲に覆われ、四本の腕に燃え盛る大剣を握った機体——《火鬼》。
《火鬼》が四本の剣を地面に突き立てると、ハルトたちの周囲に巨大な火の檻が形成された。機体内部の温度が限界値を突破しようとしている。
ハルトはブラック・マギの杖を素早く掲げ、温度分布を読んだ。「片倉——熱が集中している点が四箇所ある。四本の剣の根元だ」
「分かった。じゃあその根元を喰らえばいい」
「ハルト、下がってろ! 真鍮の歯車じゃ一瞬で焼き付く!」
片倉の《メタルブラックベア》が前に出た。漆黒の装甲が赤く変色し始めている。
「お前の機体だって——」
「へっ、ガタガタぬかすな。工場で溶接してきた体だ。熱いのは慣れっこなんだよ!」
片倉はオーバーヒートを起こし始めたレバーを素手で握りしめた。《メタルブラックベア》の蒸気スラスターが、異音を立てて逆噴射を始める——熱エネルギーを排熱するのではなく、あえて内部に閉じ込める操作だ。
「セナさん! 黒龍のマブイ吸収回路を解放しろ! 龍の飢えを——この火を喰わせて紛らわせるッ!!」
「無茶よ、装甲が溶けるわ!」
「溶けたら溶けたで、もっと硬いもんを叩き込んでやるだけだ!!」
《メタルブラックベア》の黒い装甲が、熱を帯びて赤熱して輝きを変えた。《黒龍》の呪われたマブイが周囲の炎を吸収し、機体を凄まじい熱量の塊へと変えていく。
「ハルトの一じゃねえ——片倉の、千だッ!!」
赤熱化した巨大な爪が、ただ「重さ」だけで空間を切り裂いた。《火鬼》の四本の剣が飴細工のように溶け、その胸部装甲に片倉の渾身の重みが叩き込まれる。
大爆発。
黒煙の中から、片腕を失ったボロボロの《メタルブラックベア》が、それでも仁王立ちで現れた。
「……熱い。最高にいい湯だったぜ……」
ハルトの懐のメダルが、静かで深い脈動を刻んだ。
都市のどこか、ビルの屋上で、その様子を観察する影があった。手に握られているのは、エジプトのペンダントが「砕けた器」なら——これは「満ちた器」と呼ぶべき、太陽の紋様が刻まれた「零のメダル」だった。
「……これが、エジプトの見落としか。数値ではなく、重さで戦う者がいた」




