第32話「七曜の震壊」
第32話「七曜の震壊」
都市の空を覆っていたプロリーグのホログラムが、突如としてノイズに呑み込まれた。
代わりに映し出されたのは、燃え盛る梵字。声が、都市全体に響いた。
「——数値を捨てよ。論理を捨てよ。我ら、曜日の因果を司る『鬼』なり」
地響きと共に、都市の主要交差点から異形の機体群が這い出した。北条重工の洗練とは対極にある——骨と錆、黒いマブイの炎で作られた、呪いのからくり人形だった。
「なんだ、あいつらは……!? 鑑定不能だ!」
セナの端末が、強烈な磁場によって再起動を繰り返す。
最初に暴れ始めたのは、巨躯を誇る《土鬼》だった。一歩踏み出すごとに局所的な地震を引き起こし、逃げ惑うプロ候補生たちの機体を、その巨大な鉄槌で盤面ごと叩き潰していく。各地でも被害が出ているという報告が続々と届いている——港湾、森林公園、旧市街。七曜の名を持つ鬼たちが、都市の盤面を食い荒らしていた。
「ハルト! 街がめちゃくちゃだ。アンティ・ルールなんて言ってる場合じゃねえ!」
片倉の《メタルブラックベア》がハルトの隣に着地する。
「ああ……。あいつら、勝負をしに来たんじゃない。……『狩り』をしに来てるんだ」
更生局の解体で生まれた権力の空白を突いて現れた存在——エジプトの遺産を巡る、古い盟約の何かだ。
その時、頭上の月が不自然なほど赤く輝いた。
ビルの壁面を垂直に滑り降りてくる影。細身で鎌を持ち、月の光を反射して姿を消す隠密機体——《月鬼》。
「……見つけたぞ。将軍の器と、黒き龍の守護者」
月鬼のバイザーが、三日月形に光った。「お前たちのマブイは、我が主への供物となるのだ」
「ふざけるなッ!」
ハルトがブラック・マギの杖を構えた瞬間——腕の感覚が消えた。
ダイスを振ろうとした手が、止まっている。盤面の時間が止められたのではなく、ハルトの感覚そのものが封じられていた。
(——違う。時間が止まってるんじゃない。俺の感覚が止められてるだけだ)
「月は満ち、欠けるもの。……お前の一の積み重ねなど、この幻影の中で霧散せよ」
その冷徹な空間を、白銀の雷撃が貫いた。
「——この都市の全盤面データは、北条重工のサーバーに繋がっている。異常を察知してから、三分だった」
上空から飛び降りたのは、北条氏胤の《皇龍》だった。
「勘違いするな、ハルト。……貴様を潰すのは私だ。この無秩序なバグではない!」
ハルト、片倉、そして氏胤。互いに反目し合う三者が、共通の敵を前に、初めて同じ盤面に並び立った。




