第29話「鉄の魔導書」
第29話「鉄の魔導書」
深夜の水前寺模型店。
作業台の上でバラバラに解体されたヴィンテージ機のパーツが、セナの放つ解析光にさらされていた。ハルトと巌は、固唾を呑んで見守る。
「……何度スキャンしても、マブイの回路が物理的に繋がっていない」
セナが拡大モニターを指差した。「見て。真鍮の歯車の奥に、目に見えないほど微細な紋章が刻まれている。……これは機械の設計図じゃない。魂を増幅させるための呪文の羅列よ」
「……じいちゃん、これって」
巌が深く、重い溜息をついた。「……隠し通せるもんじゃねえな。ハルト、その機体はな——ただのヴィンテージじゃねえ。将軍がかつて、冥界の深淵から呼び寄せた唯一無二の忠臣だ。……エジプトに教わったんだ。昔、あいつと一緒にこの機体を調べた時に」
その瞬間。メダルが、かつてないほど澄んだ光を放った。
『……よかろう。隠す必要はあるまい』
将軍の声が、慈しみと誇りに満ちて響いた。
ハルトは、吸い込まれるようにヴィンテージ機のコアに手を触れた。
脳裏に、映像が流れ込んだ。
崩れゆく城壁。最後の一人として盾になった瞬間。魂が、鉄の中に溶け込んでいく感触——そして、「待っている」という意志だけが残った長い長い眠り。
「……思い出した。あんたは、ずっと俺を待ってたんだな」
ハルトがコアを握りしめた瞬間、錆びた装甲が鱗のように剥がれ始めた。
一枚、また一枚。長年の封印が解けていく。
中から現れたのは、深紫の装甲を纏い、細身ながら強靭な四肢を持つ機体だった。右腕にはダイスを弾くための長杖を備え、その瞳には緑の光が宿っている。知性と、長い眠りを経た忠誠の色だ。
「……綺麗だ」
セナが静かに言った。
『我が半身よ。……再び共に、この盤面を支配しようぞ』
将軍の声に応えるように、機体が静かに杖を掲げた。
ハルトはその杖の先を見つめた。第1話から握ってきた機体が、ずっと「これ」だったのだと、ようやく分かった。
「……よろしくな」
それだけ言った。




