第28話「運命の双翼」
第28話「運命の双翼」
路地裏に静寂が戻る。
レアハンターの残骸を前に、漆黒の機体の装甲が熱を帯びて陽炎を作っていた。ハッチが開き、片倉が這い出してきて、地べたに座り込んだ。
「……生きてるか、相棒」
声は、自分の喉を焼いたマブイの余熱で掠れていた。
機体は一瞬だけ瞳の赤を明滅させ、行儀の悪い獣が「ご馳走様」と言うかのように、静かに駆動を止めた。
「片倉ッ!!」
路地裏に駆け込んできたのは、ハルトとセナだった。変わり果てた機体を見て、二人は言葉を失った。
「……アイアン・ベアと《黒龍》を融合させたのか」
セナが、震える指先で漆黒の装甲に触れた。
「ああ。……バケモノを飼いならすには、これが俺の答えだった」
「……ええ」セナは装甲から指を離さないまま言った。「これは、失われたはずの『もう一方の翼』よ。あなたのヴィンテージ機と、この黒龍——設計図では、二つで一対だった」
詳しくは語らなかった。しかしその一言が、ハルトの胸に重く落ちた。
その時、路地裏の空中に巨大なホログラム・ディスプレイが強制展開された。
映し出されたのは、北条重工の最上階、白銀の実験室。そこに立つ北条氏胤は、人形化の痕跡を微塵も感じさせない冷徹な顔をしていた。
「あの屈辱が、私の計算式を完成させた」
氏胤は静かに言った。背後の試験槽が開放され、蒸気の中から白銀の巨龍——三つの頭部を模した大口径マブイ砲を肩に備えた《皇龍》が姿を現した。これまでの敵とは質の違う圧力が、画面越しに伝わってくる。
「片倉克也。貴様が黒龍を呼び覚ましたことで、私の皇龍は真の目覚めを迎えた。……貴様の黒龍は泥臭い足掻きに過ぎん。だが、我が皇龍がもたらすのは、すべてを平伏させる絶対的な力だ」
手には、白銀色に輝く最高位のメダルが握られていた。
「ハルト。そして片倉。アンティ・リーグの決勝で待っている。貴様らのガラクタごと、その希望とやらを粉砕してやろう」
通信が切れた。
「……面白くなってきやがった」
片倉が、不敵に笑う。「完璧な皇龍か。凡骨の意地で、その白銀の鱗、一枚残らず剥いでやるぜ」
ハルトは片倉の肩に手を置きながら、自分のヴィンテージ機の歯車の音を聞いた。かすかに、低く、いつものリズムで刻んでいる。
懐のメダルに触れた。
将軍の魂が——珍しく、沈黙していた。




