第26話「黒龍の咆哮」
第26話「黒龍の咆哮」
路地裏に立ち込める、不吉なマブイの霧。
レアハンターの三つのレンズが、赤く明滅した。
「……気づいているぞ、片倉克也。その重機の外装の、真実を」
《サイレント・リーパー》が鎌のような多脚をアスファルトに突き立てる。
「その重装甲は、ただの『封印』だ。かつてエジプト卿が、氏胤の《皇龍》の原型として開発しながら、あまりの狂暴性に廃棄を命じた欠陥機——《黒龍》。マブイを喰らい、破壊を撒き散らす、黒き呪いの機体だ。貴様はキングダムの余波でそれを呼び醒ました」
片倉の背中に、嫌な汗が流れた。
《アイアン・ベア》の装甲の奥底で、何かが——ドクン、と脈打った気がした。
「……何のことだ。こいつと一緒に泥を啜って生きてきたんだよ。龍だの何だの、お呼びじゃねえ」
「ならば、力ずくで引きずり出すまでだ」
レアハンターがダイスを振る。「一」「一」「一」——驚異の制御能力で同じ出目を出し続け、片倉を移動不能の盤面に閉じ込める。一歩動けば地雷、止まれば狙撃。どこにも逃げ場がない詰みの盤面。
「ガハッ……!?」
《アイアン・ベア》の腕が、不可視の狙撃によって吹き飛んだ。モニターに警告が点滅する。
「終わりだ、凡骨。その封印ごといただく」
薄れゆく意識の中、片倉は装甲の奥に感じる「脈動」を見つめた。
これを解放すれば、助かるかもしれない。だが、水前寺の爺さんが言っていた。この機体を初めて見た時に、一度だけ。「これは、まだお前の手に負えるもんじゃない」と。
(……ハルト。お前は、将軍の力を自分の意志でねじ伏せたよな)
ハルトが「一」を積み上げるなら、俺は——「一」さえも捨ててやる。
「……おい、バケモノ。俺の体ごと使え。……美咲の空を汚す奴らを、一匹残らず食い殺せッ!!」
バキィィィィィンッ!!
《アイアン・ベア》の重厚な装甲が、内側から引き裂かれた。封印が解けていく。剥落する鉄の外装の向こうから、深淵のような黒を纏い、漆黒の稲妻を全身から放つ、痩せ細った龍の機体が現れた。
《黒龍》。
その瞳が赤く輝いた瞬間、詰みの盤面を構成していたレアハンターの「一」が、物理的な咆哮によって粉砕された。
「な、なんだ……マブイ値が計測不能!? そんな——!」
レアハンターの悲鳴を、黒い牙が飲み込んでいく。




