第25話「凡骨の誇りと、闇の蒐集家」
第25話「凡骨の誇りと、闇の蒐集家」
プロリーグのメインストリートから数ブロック離れた裏路地。錆びたスクラップと廃油の臭いが漂う場所で、片倉克也は端末を叩いていた。
「……チッ、何度測っても同じかよ」
《アイアン・ベア》の簡易鑑定結果が赤字で表示されている。機体性能、規定値未満。駆動効率、劣悪。総合判定——凡骨。
プロリーグの公式規定では、マブイ値六〇〇〇以上の機体が推奨される。五八〇〇という数値で重機を無理やり戦闘用に改造したアイアン・ベアは、システム上「ゴミ」扱いだった。
「笑わせんじゃねえ。美咲の手術代、稼がなきゃならねえんだ。数値がなんだってんだよ」
ハッチを叩き、機体の中へ潜り込もうとしたその時——背後の闇から、無機質な電子音が響いた。
「——その鉄の塊には、チップとしての価値さえない」
振り返ると、漆黒のフードを深く被り、三つのレンズが光るゴーグルで顔を覆った男が立っていた。胸には血のような赤のエンブレム——「レアハンター」の証。
「……俺みたいな凡骨に何の用だ」
「機体に価値はない。……だが、その魂には興味がある」
レアハンターが《サイレント・リーパー》を起動させた。多脚の巨体が、路地裏の狭い空間を埋め尽くす。《アイアン・ベア》の巨体でも、盤面の端から端まで届くほどの狭さだ。有利とも不利とも、まだ判断できなかった。
「貴様はからくりキングダムの生還者。あのペンダントが砕けた際の余波を浴びたはずだ」
片倉の脳裏に、あの瞬間が蘇った。ペンダントが砕けた時、何かを浴びたと感じた。一瞬の錯覚だと思っていたが——。
「貴様の中には将軍の欠片が宿っている。私が勝てば、その変異した魂を丸ごといただく。……エジプト卿の遺志を継ぐために」
「アンティ・ルールを適用する。拒否はさせない。この路地裏は、すでに私のジャミング領域だ」
片倉は、自分の手が震えていることに気づいた。闇のプロ。一方の自分は、システムに見捨てられた凡骨だ。
(クソッ。ハルトなら、どうする)
脳裏に、ボロボロになっても「一」を積み上げ続けたハルトの姿が浮かぶ。そして、病院のベッドで、まだ見ぬ青空を待っている妹の顔。
「……へっ。計算だの変異だの、うるせえんだよ」
片倉は《アイアン・ベア》の操縦席に飛び乗った。モニターには「凡骨」の文字が点滅し続けている。片倉はそれを力任せに殴りつけ、消し飛ばした。
「この凡骨の意地……安く見積もると火傷するぜ、野郎ッ!!」




