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からくりすごろく-将軍の覚醒-  作者: 水前寺鯉太郎
からくりキングダム

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第22話「黄金の終局(チェックメイト)」

第22話「黄金の終局チェックメイト


 玉座の間の床が、エジプトの指を鳴らす音一つで巨大なホログラム・ボードへと変貌した。

 ハルトのヴィンテージ機と、エジプトの背後に浮かぶ黄金の機体プロト・オリジン。二体の間に、八十マスの盤面が浮かび上がる。

 「すごろくは、人生の縮図だ。ハルトくん。君がどれだけ意志を叫ぼうと、この盤上のルールには勝てない」

 エジプトが特製ダイスを振る。出目は——『三〇』。

 盤上の《プロト・オリジン》が、光の速さで二十九マスを飛び越え、ハルトの鼻先の三十マス目にチェックメイトを突きつけた。

 「このマスは『断罪』。止まった者のマブイを強制的に全量徴収する。……君に次のターンはない」

 片倉の《アイアン・ベア》も、ワイヤーで固定され動けない。

 ハルトは、コックピットの隅に転がっていた木製のダイスを拾い上げた。手垢まみれの、変哲もない木製のダイス。祖父が模型屋の引き出しに入れていたものだ。

 「……じいちゃんが言ってた。すごろくは、上がらなきゃ終わりじゃない」

 「ほう?」

 「あんたが飛ばした二十九マス。その一つ一つに、俺は足跡を刻んでやる」

 「ハルト!? そんな普通のダイスじゃ、最大でも『六』だぞ!」

 「一回じゃ届かない。……だから、八回振る」

 金将ダイスではない。将軍の力でもない。ただの木製のダイスを、ヴィンテージ機の「物理的な重心制御」だけで——超高速振動で重心を固定し、同じ出目を出し続ける。それは将軍の魔力ではなく、祖父から受け継いだ「機械との対話」の極致だった。

 「……何を。そんな小刻みに進んで、何の意味がある!」

 一マス目。エジプトが「無価値」として飛ばした場所に、ハルトが踏み込んだ。そこに漂うのは、かつてここで敗れた者のマブイの残滓だった。ヴィンテージ機がそのマスを踏むと、黄金色の足跡が刻まれた。

 二マス目。三マス目。一歩ずつ、エジプトの「計算」が構築した盤面に、ハルトの「意志」が上書きされていく。エジプトの顔から、余裕が消えていく。

 四マス目。五マス目。ハルトが通った道は、もはやエジプトの支配下にない。六マス目。七マス目。

 「止まれ——!」

 「一を、八回積み上げた!」

 八マス目。エジプトの《プロト・オリジン》が立脚する、計算の起点だった。

 基盤を塗り替えられた黄金の機体がバランスを崩す。

 「——馬鹿なッ! 私の『三〇』が、たかだか——」

 「数字の大きさじゃない。……どれだけ重い一歩だったかだ!」

 ハルトの渾身の一撃が、エジプトのペンダントを真っ二つに砕いた。

 城全体が鳴動した。

 砕けたペンダントから、無数の光の粒が解き放たれる。城に囚われていた数千人の、そして祖父・巌の奪われたマブイだった。

 「…………あ」

 虚空を見つめていた巌の瞳に、温かな色が戻る。彼はゆっくりとハルトを見つめ、一度だけ頷いた。

 「じいちゃん……!!」

 敗れたエジプトの傍らに、セナが跪いていた。

 「……止めに来ました、師匠。遅かったですが」

 「……セナか。……将軍よ」

 エジプトは、ハルトではなく、そのメダルに語りかけた。「お前の器は、私が思っていたより、ずっと上等だったよ」

 それだけ言って、エジプトは光の中に消えた。

 朝日が昇る水平線を、ハルトたちは見つめていた。

 セナが一通の封筒を手渡した。「あなたが自分の手でダイスを振った——その瞬間から、渡せると思っていた」

 祖父の不器用だが力強い文字が書かれていた。

 『セナを信じろ。あの子だけが、将軍に勝つ方法を知っている』

 「将軍に……勝つ?」

 ハルトは懐のメダルに触れた。

 将軍は、何も言わなかった。この戦い全体を通じて、一言も発しなかった。なぜかは、分からなかった。

 じいちゃんを救った。エジプトを倒した。

 だが、ハルトの胸には、解けない謎と、さらなる嵐の予感が渦巻いていた。

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