第21話「拒絶の一音」
第21話「拒絶の一音」
エジプトは倒れた氏胤を一瞥もしなかった。ハルトへと視線を向ける。
「水前寺くん」
その呼びかけは、祖父への言葉だった。エジプトが虚ろな目の巌を一度だけ見て、それからハルトへと笑いかける。「君の孫は、実に素晴らしい器だ。……さあ、ハルトくん。そのボロボロのガラクタを捨てて、この黄金の機体を受け取るといい。私の隣で、世界を統べる王になるんだ」
背後の空間が歪み、神々しい黄金の機体が姿を現した。
「そうすれば、君のお祖父様のマブイを、今すぐこの場で返してあげよう。……どうだい? 君の望みは、たったそれだけで叶うんだよ」
ハルトの足が、一瞬だけ止まった。
すぐそばに、虚ろな目の祖父がいる。
懐のメダルが、激しい拒絶の振動を始めた。
『——小僧。その椅子に座るな』
将軍の声だった。命令ではない。
『王の座は、孤独だ。……我という存在が、それを証明している。その男の差し出す偽りの王座に、貴様の魂を売るな』
将軍が、初めて「自分の孤独」を語った。その言葉の重みが、ハルトの止まった足を、動かした。
「……エジプト。あんたの提案は魅力的だよ」
ハルトは顔を上げ、エジプトを真っ直ぐに見据えた。
「でも、じいちゃんが教えてくれたのは、黄金の椅子への座り方じゃない。……このガラクタと一緒に、泥を跳ね飛ばして走る方法なんだッ!!」
ハルトはヴィンテージ機の歯車を鳴らした。
玉座の間の隅、城に先回りして影に紛れていたセナが、その光景を見て微かに口角を上げた。
「……やっと、始まりの一音を鳴らしたか」
エジプトの笑みは変わらなかった。ただ、胸元のペンダントが——怪しく、静かに——輝き始めた。




