第20話「虚構の完成」
第20話「虚構の完成」
黄金の城、最上階。
重厚な扉の先には、「玉座の間」という言葉では表せない光景があった。無数の光の筋が空中に回路を描き、中央には高くそびえる黄金の玉座。その傍らに、硝子細工のように虚空を見つめる祖父・巌が、静かに佇んでいた。
「……じいちゃんッ!!」
ハルトが叫び、駆け寄ろうとした瞬間、白銀の閃光が床を切り裂いた。
「止まれ。それ以上は、私の計算を乱す不純物だ」
玉座の前。北条氏胤が立っていた。
かつての傲慢なまでの美しさは消え、瞳には赤黒いマブイの光が混じっている。《皇龍》と神経系を直接ワイヤーで繋いでいた。
「氏胤……お前、そんな体で……」
「黙れ。……私は負けた。あの試験会場で、貴様の数値によって、私の完璧は汚された」
氏胤の声は、呪詛のように低い。
「エジプト卿が教えてくれた。私の計算が負けたのは、魂に『ゆらぎ』があったからだと。……だから私は、自分を機械のパーツとして再構築した。感情を、迷いを、すべて計算式へ変換するために」
《皇龍》が咆哮を上げる。氏胤の攻撃はすでに始まっていた。
速い。流麗な動きではない。最短、最速、最も残酷に破壊するための最適解の暴力だった。ヴィンテージ機の装甲が、一瞬で引き裂かれる。
「無駄だ。貴様の一の積み重ねも、変数として組み込み済みだ。十回積むなら、十一回目で殺す。百回積むなら、百一回目で消し去る。それが、私の導き出した真理だッ!!」
防戦一方だった。氏胤の完璧な支配が、ハルトの意志を踏みにじっていく。
(クソッ……計算を……超えられないのか……!?)
ハルトの耳に、真鍮の歯車が悲鳴を上げながらも刻んでいるリズムが聞こえた。
(……違う。あいつが計算しているのは「結果」だけだ)
ハルトはレバーを逆方向へ叩き込んだ。回避ではない。ハルバードが振り下ろされる一点へ、自ら突っ込んでいく。
「狂ったか、端数ッ!」
「狂ってねえよ。お前が積み上げてるのは数字だ。……俺が積み上げてるのは、この一瞬の意志なんだよ!!」
氏胤が導き出した十一回目の先。計算が「もう動けない」と判断したはずの、十二回目、十三回目——ハルトの一が、論理の壁を突破した。
「な、なぜだ……。私の計算は……完璧だったはず……ッ!?」
ヴィンテージ機の拳が、《皇龍》の胸部装甲を粉砕した。マブイの逆流が氏胤を襲い、彼は玉座の階段を転がり落ちた。ワイヤーが千切れ、瞳から赤黒い光が消えていく。
床に伏した氏胤の顔に浮かんだのは、敗北の悔しさではなかった。計算できない何かを初めて見た、底なしの困惑だった。
そして——氏胤の瞳から、再び色彩が消え始めていた。
「氏胤……!」
ハルトが駆け寄ろうとした瞬間、闇の中から拍手が響いた。
「美しい引き際だ。……数値の奴隷に相応しい終わりだよ」
白銀の髪を揺らし、子供を見るような優しさで、しかし蒐集品を値踏みするような目で、エジプトが現れた。




