第2話「プロ試験・一次会場」
*才能とは、数値である。数値とは、才能である。*
>*この同語反復を疑う者は、すでに敗者の素質を持つ。*
――北条重工・新人研修資料、第一章「マブイの本質」
第2話「プロ試験・一次会場」
国立プロリーグ養成所、一次試験会場。
見上げるほど高い天井、磨き上げられた白磁の床。空気は冷たく管理され、最新鋭の空調が微かな駆動音を立てている。集まった数百人の若者たちの胸には、マブイ値が刻まれた電子バッジが鈍く光っていた。
ハルトは古びたトランクを抱え直した。
胸元のバッジには『五〇〇五』。入場ゲートで警備員に二度、バッジを確認された。何かの手違いを疑うような、無機質な視線だった。
周囲を見渡せば、カーボンフレームや超電導モーターを搭載した現行機ばかりだ。メーカーのロゴが誇らしげに輝くそれらに比べ、布に包まれたハルトのヴィンテージ機は重苦しい鉄の塊にしか見えない。
「ハルト! 本当に来てたんだな」
振り返ると、藤堂リクがいた。隣には北条重工製の最新型。鏡のように磨かれた流線型のボディが、会場の白い光を反射している。
「リク……」
「その機体……本気で使うのか?」
リクの視線がトランクに向いた。困惑と、隠しきれない心配が混じっている。
「じいちゃんの店にあった、一番いい機体だ」
「でも、数十年前の設計だろ。今は数値と効率の時代だ。俺の予備機、貸そうか?」
善意だった。幼馴染が惨めな思いをするのを見たくない、という本音。それがハルトには分かったから、余計に胸の奥がチリリと焼けた。
「……いいよ。こいつがいいんだ」
リクは短く息をついて、自分のブロックへと向かった。その背中が、昨日よりも遠く見えた。
試験の内容はシンプルだった。機体を展開し、マブイを伝導させ、ダイスを三回振る。それだけだ。
「試験開始!」
号令と同時に、会場中で駆動音が響き始める。隣の受験生が、スマートな操作でダイスを軽々と弾いた。
ハルトはトランクからヴィンテージ機を取り出した。錆の浮いた装甲、剥き出しの真鍮の歯車。
「おい見ろよ、博物館から持ってきたのか」という声が聞こえた。
ハルトは機体に触れた。
力を込めた。機体が跳ね返してくるような感触があった。強く込めれば込めるほど、何かが噛み合わない。冷や汗が掌を濡らす。
時間が、削れていく。
ハルトは一度、力を抜いた。
強引にやるのをやめて、ただ触れていた。鉄の冷たさ。歯車の細かな振動。どこかに——何かがある気がした。
探した。
指先に、微かなリズムが伝わってきた。古びた機械が刻む、不器用で重厚な鼓動。
ハルトはその鼓動に合わせて、最小限の力を一点に乗せた。
ギィィィッ——真鍮の歯車が噛み合った。
重い一歩が踏み出される。機体の腕がダイスを捉える。ハルトは「強く」ではなく「正確に」念じた。
ダイスが盤上を転がった。
三回。基準を超えた。
「……合格だ。次へ行け」
試験官が淡々と告げた。ハルトは膝の震えを隠しながら機体を回収した。
「あんなボロで合格かよ」「端数のラッキーだろ」という声が届いた。
ハルトは答えなかった。あの鼓動のことを、まだ上手く言葉にできなかった。
廊下でリクが待っていた。二次試験へのパスを手にしている。
「合格したんだな」
「ああ、なんとか」
リクはしばらくハルトを見た。それから「……二次試験、頑張れよ」と言った。
励ましなのか、哀れみなのか、分からない声だった。
リクが去っていく。足音が廊下に消える。
ハルトはトランクの中のメダルに触れた。
さっき機体から感じたあの鼓動が、メダルの表面からも微かに伝わってくるような気がした。
「……な、ガラクタ」




