第19話「老兵の引き際」
第19話「老兵の引き際」
黄金の蒸気が機関区を埋め尽くす。
ジャミングを弾き飛ばしたヴィンテージ機は、もはや機械ではなく、怒りに震える生命体のように見えた。
「……物理的な共振でジャミングを無効化しただと……!」
ウォーレスの《ジョーカーズ・アイ》が、蜘蛛のような脚を激しく動かして距離を取る。彼はプロだ。目の前の端数が、今この瞬間、理論の範疇を超えたことを本能で察知していた。
「逃がさねえッ!」
ハルトはレバーを叩き込んだ。ヴィンテージ機の足が、鋼鉄の床を踏み砕きながら加速する。一歩、また一歩。積み上げられる「一」が、機関区全体を震わせる鼓動となってウォーレスを追い詰める。
「ワイヤー・トラップ、全展開!」
機体から数十本の高圧電流ワイヤーが放たれた。蜘蛛の巣のようにハルトの進路を塞ぐ。
ハルトは止まらない。
「一を、限界まで……ッ!!」
ヴィンテージ機の腕が振動を始めた。放たれた拳はワイヤーを切るのではなく、振動が伝わり、内側から崩れさせていく。火花を散らしながら、真鍮の拳がウォーレスの機体正面へと突き立てられた。
――ドォォォォォンッ!!
衝撃波が走り、《ジョーカーズ・アイ》の多脚が一本、また一本とへし折れていく。
「……ぐっ、ここまでか……!」
ウォーレスはレバーから手を離した。
砂煙が晴れると、片腕を突き出したまま停止したヴィンテージ機と、大破したジョーカーズ・アイがあった。
「……答えろ。じいちゃんは、どこだ」
「負け犬に聞くことじゃねえな」
ウォーレスはサングラスを直し、血の混じった唾を吐いた。「だが、お前には貸しを作っておいて損はなさそうだ。……じいさんは最上階、エジプトの旦那のすぐそばだ」
「……旦那の計画の全容は、旦那本人に聞け。俺の知ることじゃねえ」
ウォーレスは折れ曲がった脚を強引に動かし、機体を後退させた。
「面白い。そのバケモノを使いこなして、地獄の先を見てきな。……生き残れたら、またどこかでな」
《ジョーカーズ・アイ》は煙を吹きながら、機関区の闇の中へと消えていった。
「ハルト! 大丈夫か!」
ワイヤーから解放された片倉の《アイアン・ベア》が駆け寄ってきた。
「ああ。……じいちゃんは一番上にいる」
「行くぜ、相棒。最高の計算違いを、エジプトの野郎に見せてやろうぜ」
ハルトは懐のメダルに触れた。
将軍は、沈黙している。
最上階への階段が、目の前に開かれる。そこには、北条氏胤が待ち構えていた。




