表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
からくりすごろく-将軍の覚醒-  作者: 水前寺鯉太郎
からくりキングダム

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/43

第18話「『箱』の意志」

第18話「『箱』の意志」


 蒸気とオイルの匂いが立ち込める機関区。巨大な歯車の隙間で、ハルトのヴィンテージ機は膝をついていた。

 四方から浴びせられるジャミング・パルスが、マブイ伝導系を引き裂く。レバーを叩いても、返ってくるのは空回りの音だけだ。

 「……諦めな。低マブイのガキがどれだけ気張っても、物理法則は捻じ曲げられねえ」

 頭上からウォーレスの《ジョーカーズ・アイ》が見下ろしている。傍らでは片倉の《アイアン・ベア》が、ワイヤーで縛られたまま沈黙していた。

 「……『箱』って、どういう意味だ」

 ハルトは、掠れた声を絞り出した。

 「そのままの意味さ。エジプトの旦那にとって、お前もその機体も、中身を運ぶための梱包材に過ぎない。中にいる将軍が本物なら、外側のガワなんて誰だっていいんだ」

 ウォーレスが一歩踏み出し、蜘蛛のような脚でヴィンテージ機の装甲をなぞった。

 「そのバケモノはな、器を喰らい、マブイを燃料に変え、乗り手の存在そのものを消し去る。……お前のじいさんは、それを知っていたからこそ、自分が箱になることを拒んだ。エジプトの依頼資料にそう書いてあった。俺の読みでもある」

 ハルトの脳裏に、空虚な微笑みを浮かべる祖父の顔が過った。

 じいちゃんは、自分を守るために黙っていたのか。それとも——。

 『……他人の言葉に揺らぐか、小僧。貴様は、我を納めるにはあまりに脆弱な「箱」よ』

 懐のメダルが、氷の冷たさを放つ。将軍の力が、ハルトの意識を塗り潰そうと溢れ出してきた。

 ハルトの視界が一瞬だけ、黄金に染まった。

 「…………断る」

 噛み締めた唇から、血が滲んだ。

 「箱だって、なんだっていい。……でも、中身を決めるのは、俺だ」

 ——待て。ジャミングでマブイの同期が断たれているなら、同期させる必要はない。

 ハルトはデジタルな制御を全て捨てた。目を閉じ、指先に伝わる物理的な感触だけに全神経を集中させる。鼓動を遅くした。機体の振動に合わせるように。

 じいちゃんが何千回と繰り返してきた、歯車の噛み合わせ。オイルの粘り。金属が擦れ合う微かな熱。

 (一、二、三……)

 ノイズの中に、規則正しい「一」のリズムを見つけ出す。ヴィンテージ機が本来持っている機械としての共振を、自分の鼓動に重ね合わせた。

 「一を積み上げる。デジタルじゃねえ、この鉄の塊が刻むリズムで……ッ!!」

 ガッ、と重厚な音が機関区に響いた。

 ジャミングの影響を受けない物理的な共鳴。積み上げた「一」の振動が、ヴィンテージ機の深部で増幅され、外側に張り巡らされていた電子の網を弾き飛ばした。

 「……何だと!?」

 ウォーレスが驚愕に声を上げる。

 動かないはずの機体が、白い蒸気を噴き出しながら立ち上がった。

 「俺は、ただの箱じゃない。……この箱を動かすのは、俺の手だ!!」

 ヴィンテージ機の真鍮の腕が、積み上げられた一の振動を纏って解き放たれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ