第16話「凡骨の意地」
第16話「凡骨の意地」
「……まだだ。まだ止まってねえぞ!」
片倉の叫びが響く。膝をついたはずのアヌビス・ゴリアテが、背中の紋様を赤黒く発光させ、無理やり機体を駆動させていた。氏胤の論理データが、損傷を無視して攻撃継続を命じている。
ハルバードが頭上から振り下ろされる。
ハルトのヴィンテージ機は、先ほどの十回連続攻撃の負荷で関節がオーバーヒートし、一歩も動けない。
「ハルトォォッ!!」
突進してきたのは、片倉の《アイアン・ベア》だった。
ハルトとハルバードの間に、その巨体を強引に割り込ませる。激しい金属音が審判の間に轟き、肩装甲が砕け散った。火花がハルトの視界を埋め尽くす。
「片倉! やめろ、そんな機体で受けたら——」
「うるせえ! 凡骨には凡骨の戦い方があるんだよ!」
マブイ値五八〇〇。氏胤から見れば、存在を許されない誤差の数値。それでも今の片倉のマブイは、数値の外で燃えていた。
「俺には計算なんて高度なもんはわからねえ。……けどな、隣で戦ってるダチを見捨てる『計算』だけは、絶対に認めねえんだよッ!!」
《アイアン・ベア》が、ハルバードをその身で受け止めたまま、ゴリアテを押し返す。
「今だ、ハルト! お前の一振りを——本物の一撃を叩き込んでやれ!!」
ハルトの右手に、熱が宿った。
(胸部のマブイ核まで届くには——十回では足りない。百回の共振が要る)
「一を、百回積み上げるッ!!」
一点集中。ゴリアテの胸部、露出したマブイ核の一瞬の隙。残された全エネルギーを、同じ一点へ叩き込む。
ガガガガガッ!! と連続する衝撃が音の壁を突き抜けた。
ドォォォォォンッ!!
アヌビス・ゴリアテの胴体が、内側から弾け飛んだ。白銀の紋様が砕け散り、黒い破片が砂のように崩れ落ちる。
煙が晴れた。
ボロボロになった《アイアン・ベア》が、膝をつきながらも片倉が親指を立てた。
「……生きてるか」
「ああ。死ぬかと思ったが——今、生きてるって感じがするぜ」
モニター越しに、片倉が不器用に笑った。
五〇〇五と五八〇〇。二人の端数が、神の代行者を撃破した。
次の階層への扉が、重々しく開き始める。
「行くぞ。……じいちゃんを連れて帰るまで、俺たちは止まれない」
「ああ。地獄の果てまで付き合ってやるよ、相棒」
二人は扉の先へと歩み出した。
懐のメダルが、かすかに熱を持った。




