第13話「黄金の城・黄兄弟」
第13話「黄金の城・黄兄弟」
密林の湿り気を帯びた闇を抜けると、黄金の静寂が広がっていた。
黄金の城。入り口となる大広間は天井が見えないほど高く、壁面には幾何学的な装飾が施されている。その煌びやかさは、死者の埋葬品のような冷たさを湛えていた。
「……趣味の悪い場所だな」
片倉が《アイアン・ベア》の装甲を軋ませ、周囲を警戒する。ハルトはヴィンテージ機を走らせながら、ふと足を止めた。
広間の白磁の壁に、鋭い爪で引き裂いたような紋様の傷跡が刻まれていた。新しい傷だ。懐のメダルが、わずかに震えた。なぜこの傷にメダルが反応するのか——思考を深める時間は、与えられなかった。
「止まれ。これより先は『王』の領域だ」
前方から、二体の機体が影から滑り出すように現れた。双発機《比翼》。一方に燃えるような赤、もう一方に氷のような青のラインが走っている。操縦席に、兄・志遠と弟・志来が座っている。
「ここを通るには、貴様らの命を置いていってもらう」
兄の志遠が告げる。その声は深い諦念に満ちていた。
ハルトはモニターを拡大した。二人の瞳が、半分だけ色が抜け、灰色の澱みが混じっている。
「更生局に……マブイを抜かれたのか?」
「半分だけな」
弟の志来が、感情を削ぎ落としたような声で答えた。「エジプト卿に半分を預け、残りの半分で命を繋ぐ。負ければ、残りも没収される。我らにとって敗北は『死』だ」
懐のメダルが冷えた。
『……退け、小僧。この程度の「半端者」に歩みを止めさせるな』
将軍の短い一言。
(黙れ——まだ、戦い方が見えていない)
ハルトは将軍を内心で遮った。目の前の二人が「何と戦っているか」を、まだ分かっていなかった。
「……ふざけるな。そんな戦い、間違ってる!」
「正しいか否かは、盤上の出目が決める。……行くぞ、ジーライ!」
「了解、兄さん!」
赤と青の二機が完璧なシンクロで突進してくる。兄が前線を張り、弟がその死角からダイスを滑り込ませる。波状攻撃に翻弄され、ハルトは一歩ずつ後退する。
その時、弟・志来の機体が一瞬だけ動いた。兄をかばうように、自分の機体を前へ滑り込ませた——ほんの一瞬、コンマ二秒だけ。その分、志来のカバーが遅れた。
「ハルト! わかったか! 右の赤が動いてから、左の青が反応するまでに空白がある。そこを叩け!」
片倉の声が後方から来た。
(そうか——弟が兄をかばおうとするから、連携に隙ができる)
ハルトはヴィンテージ機の歯車を低速で噛み合わせた。
兄・志遠の突きを、最小限の回避で流す。その瞬間——コンマ二秒の空白。
「今だッ!」
ヴィンテージ機の腕を、その隙間へと差し込んだ。直接、相手の乱れを突く一撃。
ガガッ! と重厚な音が響き、赤の機体がバランスを崩す。連鎖して青の連携も崩れ、二体が重なり合った。
「……な、ぜだ。計算上の隙はなかったはずだ」
「計算じゃない」
ハルトはレバーを握る手に力を込めた。「半分しかないマブイで、それでもお互いを守ろうとしてる。……その必死さが、動きに出てるんだよ」
「…………」
志遠が黙った。
「……兄さん。この少年、もしかして……」
「…………ああ。わかっている」
志遠が、折れかけた姿勢から機体を立ち上がらせた。
「……まだ、終わらせない」
ハルトは静かに言った。「あんたたちが、自分の意志で動けるまで」
ヴィンテージ機の歯車が、再び重く鳴り始めた。




