第12話「城への道と、リクの影」
>*勝利のためなら、何をしてもいいのか。*
>*この問いに答えられない者が、答えを出し続けている。*
>――競技評論家・某氏、プロリーグ観戦記より
第12話「城への道と、リクの影」
密林を抜けた先、視界が突如として開けた。
湿った緑の檻から解放されたハルトの目に飛び込んできたのは、夕闇の中に鎮座する巨大な黄金の城だった。島の中央にそびえ立ち、周囲の木々を見下ろすように冷ややかに輝いている。
「……あれが、じいちゃんのいる場所か」
「ああ。地獄の入り口、黄金の掃き溜めだ」
片倉の《アイアン・ベア》が重厚な音を立てて隣に並ぶ。
城へと続く長い石畳の道。その入り口付近で、複数の機体が爆ぜる音が響いた。
ハルトは息を呑んだ。
白銀機——リクだ。しかし、その戦い方はハルトの知るリクのものではなかった。正面から戦わない。他の受験生が競り合っている隙を突き、背後から消耗させる一撃だけを与え、動けなくなったところを刈り取る。そこにいるのは、効率的に勝利を収穫する冷酷な狩人だった。
「リク! 何をやってるんだ!」
ハルトが叫びながらヴィンテージ機を走らせる。リクはゆっくりと機体を振り向かせた。モニター越しに見えるその瞳は、暗く沈み、細かく震えている。
「ハルトか……。来てたのか。……無駄な戦いはやめろ。消耗するだけだ」
「何が無駄な戦いだ! あんな手を使ってまで勝ちたいのか!?」
「反則じゃない。ルールの範囲内だ。勝てばいい。負ければ更生局に魂を抜かれる——俺は、ああなりたくないだけだ」
「それは更生局のやってることと同じだろ!」
「違うッ!」
リクが初めて声を荒らげた。「俺は誰のマブイも奪っていない! 消耗させて、排除しているだけだ。結果は同じでも、俺の『正しさ』は保たれている!」
排除——また、あいつらの言葉を使っている。
ハルトは黙って、リクの顔を見た。
「……リク。お前の『正しさ』って、そんなに脆いものだったのかよ」
「…………」
リクは答えなかった。ただ一瞬だけ、モニターに映った彼の表情に、泣き出しそうなほどの孤独が滲んだ。
一秒だけ、どちらも動かなかった。
それからリクが加速した。白銀の軌跡が、石畳に静かな亀裂を刻んでいく。
「……友達か?」
片倉が静かに聞いた。
「…………昔はな」
ハルトは短く答えた。追いたい。だが、今のリクを無理やり止めることはできない。リク自身が、自分の一振りを自分の意志で振れるようになるまでは——ハルトはそれを、信じるしかない。
「行こう、片倉。城の扉が待ってる」
黄金の城の巨大な門が、重々しく、ゆっくりと開き始めた。




