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4話 エルノーツ

「えー、本日より諸君らは、偉大なる始祖ミネヴィアの庇護のもと、これまで人類が長い時をかけて研鑽を重ねた叡智たる魔法を学ぶこととなります。今となっては呪文(スペル)カードの普及により、魔法が身近なものとなっていますが、呪文(スペル)カードとは今より千年以上前に神が始祖ミネヴィアに与えたもうた神器であることを忘れてはなりません。故に諸君らは――」


 なーにが呪文(スペル)カードは神が与えたもうた神器だ。ふざけんな。

 ミネヴィアの野郎、俺が教材としてくれてやった魔法カードをまさかそんな風に扱っていたとは思いもしなかった。

 コイツの話を聞く限りでは、現在の人間界において俺はその始祖ミネヴィアを経由して人類に魔法をもたらした神だってことになってしまうじゃないか。

 こんなもの、同郷の奴らに聞かれようものなら、間違いなく失笑を買うだろう。ああ、寒気がする。


 ちなみに今日は学園の入学式ということで、あまり気は乗らなかったが一応念のために出席している。

 で、今挨拶をしているのは、このミネヴィア魔法学園の学園長を名乗る厳つい顔をした爺さんだ。

 よく見ると爺さんの後ろに飾られている巨大な銅像、だいぶ大人びてはいるがうっすらとミネヴィアの面影があるな。

 くそっ、千年後の世界じゃ直接本人に文句を言うことも出来やしない。

 いっそ過去にタイムスリップする魔法でも開発するか? 

 そんなことが出来たらそれこそ神の所業だが、どうやら奴の中で俺は神に等しい存在らしいからな。度肝を抜いてやるのも面白いかもしれない。


「――以上をもって学園長挨拶を終わりたいと思います。改めて、入学おめでとう」


 無駄に長い学園長挨拶が終わり、入学式も終盤に差し掛かる。

 一応話は聞いていたが、最初の数文以降、特に気に留めるべき内容はなかったな。

 まあ里長の説教と比べたらこんなもの可愛いものだ。あのクソジジイ、話し始めたら最低でも三日三晩は喋りっぱなしだからな。

 しかも悪趣味な魔法で強制的に縛り付けた上に、脳内に直接響く声で聞かせてくるもんだから、今回みたいに思考に耽ってやり過ごすといったことは出来ないんだよな。

 しかしまあ、人間にとってはなかなかの苦痛だったようで、式の序盤と比較して明らかに周囲のテンションが落ちているのが分かる。

 やはりジジイの無駄に長い話が嫌いなのは俺だけじゃないようだ。


 そうこうしているうちに入学式は終了し、振り分けられたクラスの教室に向かうことになった。

 俺が今日から所属するクラスの名前はエルノーツというらしい。通称Eクラスだ。

 分かりやすく言えば落ちこぼれクラス。ギリギリ合格ラインを超えてはいるが、特筆した点のない平凡な魔法使い候補が学ぶクラスだ。

 どうやら俺は、入学試験中に呪文(スペル)カードを破壊したことを理由に「才はあるが、魔力の制御に難のある受験生」と判断されたらしく、基礎から学べという意味も込めてこのクラスに配属されることになったらしい。

 まあ、正直どうでもいい。所属するクラスがどこであろうと、俺のやることは大して変わらないだろう。


「なあ! なぁなぁ! お前、エルノーツクラスか!?」

「ん? ああ、そうだけど」

「良かったー! 俺、クオーレっていうんだ! お前は?」

「アルメス」

「アルメスか! よろしくな!」


 静かに廊下を歩いていたら、後ろから騒がしい奴に声をかけられた。

 オレンジに近い茶髪を持つ快活な少年だ。子供特有の無垢な明るさと人懐っこさを併せ持つ、親しみやすいタイプの人間だな。

 見たところ、そう悪くはないポテンシャルを秘めているようだが、こいつもEクラスなのか。この学園の評価システムはよく分からんな。


「いやあ、良かった! 一番話しかけたかった奴が同じクラスで! あっ、もちろん悪い意味じゃないぞ!」

「どういうこと?」

「いや、さ。俺も試験の時呪文(スペル)カードを破壊しちゃってさ、すっげえ居心地悪かったんだけど、噂で俺と同じことをやらかした奴がいるって聞いて、そいつとなら仲良くやれるか持って期待してたんだ!」

「へぇ……そりゃあ、似た者同士かもね」

「ああ! マジ安心したよ……下手したら学園中の人から避けられるんじゃないかって、正直ビビってたんだ」


 なるほど、こいつも繊細な魔力調整が苦手なタイプか。

 ……否、ここは俺のプライドのためにも、強大な魔力出力に耐えきれない現代の呪文(スペル)カードが悪いということにしておこう。

 これは学園側の――ミネヴィアの落ち度だ。

 当時から奴よりも高い魔力量を保有する人間は多く存在していた。彼らが魔法が使えなかったのは、あまりに未知の存在過ぎて仕組みが理解できなかったからというだけなのだ。

 ならば、あらゆる人類が皆平等に扱えるよう、カードは強固に作るのが当たり前だ。少なくとも俺ならば絶対にクレームが入らないように創る。

 聞けばこの呪文(スペル)カード、町で普通に売り物として置いてあるそうじゃないか。

 ならば、人によっては使えないものを売っている時点で粗悪品と言わざるを得ん。

 

「えっと、なんか怖い顔してるけど……もしかして俺、何か気に障るようなこと言っちまったか!? だとしたらごめん!」

「あぁ、いや、そうじゃなくて。呪文(スペル)カードが脆いのが悪いよなって思ってただけなんだ。こちらこそ悪いな」

「あっ、そういうことかー! だよなだよな! やっぱり脆いよな!」

「まあこの前の試験でなんとなくコツを掴んだから、次からは破壊するようなことはないと思うよ」

「えーっ、そんな簡単に解決しちゃうの!? ちょっ、そのやり方俺にも教えてくれよ!」

「いいけど――高いぞ?」

「んなっ!? 金取るのっ!? クラスメートから!? えっと、正直今手持ちが……」

「冗談だ。大した内容じゃない。出力する魔力量を調整するだけだからな。コツくらいは教えてやる」

「焦ったー! でもタダで教えてくれるなんて、アルメスはいい奴だな!」


 なんとなく、こいつとは仲良くやれそうな気がする。

 ちょっとバカっぽいが、ノリがいい。善性の塊のような人間だ。

 こういう奴は本来俺みたいなひねくれ者とは関わらない方がいいんだが、生憎俺はこういうタイプの人間は好きなんだ。

 お前のその人受けの良さを恨むんだな。

 

「でもなぁ、俺昔っからみんなに脳筋脳筋って言われてきたからなぁ……そんな繊細な調整できる自信がないんだよなー」

「なら、まずは道具の方を合わせてみればいいじゃないか」

「え?」

「お前の魔力出力に耐えられる呪文(スペル)カードを使えばいいってことだ。試験の時に使われていたのは、最低ランクの粗悪品だ。あれよりランクが高いカードならそこまで抑え込まなくても耐えられるんじゃないか?」

「あー……うん、それはそうなんだけど、いい呪文(スペル)カードは高いんだよなぁ……一応俺も自信をもって使えるカードは1枚だけ持っているけど、それだけじゃちょっとね……しかも今回みたいな使えるカードを指定された試験みたいなのが来たとき苦しいんだよな」

「そこは学園側と交渉するしかないな。使えるカードに制限を加えるなら相応のものを用意しろって。少なくとも全学生が魔力供給過多で破壊できないレベルのカードをな。それが嫌なら持参したカードを使わせろと」

「交渉って……新入生がいきなりできることなのか?」

「それはやってみないと分からないさ」


 もし学園のトップがミネヴィア本人なら有無を言わさず了承させていたが、千年も経っているんじゃ流石に奴も生きてはいまい。

 恥を捨ててミネヴィアのかつての師を名乗ってみたところで誰も信じるわけないしなぁ。

 まあ、方法はこれからいくらでも見つかるだろう。規律に縛られて実力を発揮できないなんて馬鹿らしい。元より己の意のままに世界に改編を加えるのが本来の魔法使いのあるべき姿なのだから。


 

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