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2話 召喚呪文のカード

「ほう、火、風、雷の3属性を扱えるのか。なかなかのポテンシャルだな」

「ええ、今年は特に有望な学生を確保できそうですね。先ほどの彼も、使える属性は水のみのようですが、かなりの出力でしたし」


 統括試験官と思しきお偉いさんが、受験生たちの魔法を見て感心しているが、俺はそいつらとは真逆の意見を持っていた。

 なんだあれは。子供のお遊びレベルの低レベルな魔法しか使ってないじゃないか。

 まあ実際に子供が行使しているのだから当然と言えば当然なのだが、大人であるお前らが感心するのは違うだろう。

 あんなもので将来有望だと? もし本気で言っているのだとしたらとんだお笑い草だ。

 当時11歳だったミネヴィアですら、俺特製のカード頼りとは言えもっとマシな魔法を扱えていたぞ。

 いくら子供たちが使っているものが低品質の粗悪品とはいえ、同じカードでも流石にもう少しまともな使い方が出来るはずだ。

 

「っ! バルトロイ先生、次の彼……」

「む、ああ……アルデベルクの第三皇子か。兄君たちはいずれも優秀な魔法使いだったが、果たして彼はどうなのだ……?」

「それがその……かのアルデベルクの皇帝の血を引くが故に相応の実力を有していると聞きますが、兄君と比べるとどうしても……という噂が」

「……そうか。まあ、魔法の腕が全てではない。そういうこともあるだろう」

「ただ、それを案じた皇帝が、あるカードを彼に授けたということで――あっ、あれです! あのカードです!」

「むっ、あれは……」


 どうやら俺よりも若い試験番号だったフリックが、訓練場の中心で高らかに1枚の呪文(スペル)カードを掲げていた。

 あれはどう見ても試験官が提示していたものとは違う。なんだあのカードは。

 遠目だとよくわからないが、何らかの生き物が刻み込まれているな。刻まれている術式から察するに、召喚系の魔法か?


「フリック様! おやめください! ()()はこのようなところで使うべきものではっ……!」

「うるさい! こんな低劣なカードで僕の実力が図れるわけないだろう! 僕の実力を正しく証明できるのはこの【星光龍(スターライトドラゴン)】の呪文(スペル)カードを置いて他にない!」

「しかし! 陛下はフリック様の身を案じてこちらのカードをお授けになられたのであって――」

「黙れ! 貴様も龍の餌になりたいのか!? それが嫌ならば黙って見ておけ――はぁぁっ!!」


 天高くかざした龍のカードが光に包まれていく。

 ふむ、なるほどな。あれは契約した召喚獣を呼び出すカードというわけか。

 なるほど、仕組みは単純だが、カード1枚で好きな時に呼び出せるのは便利かもしれん。

 俺を慕う生物なんてこの世にほとんど存在しなかったことから召喚魔法には興味がなかったが、今の体なら多少なり絆を結べる生物もいるだろう。

 大したものは見れないと思っていたが、思わぬ収穫だ。あれは今後の参考にしよう。


「さあ、いでよ【星光龍(スターライトドラゴン)】! 我が意を愚民どもに見せつけるがいい!!」


 フリックの高らかな宣言とともに、あたり一帯が眩い光に包まれる。

 そして光が晴れると、黄金に輝く鱗を持つ巨大な細長い龍が顕現していた。

 

「はぁっ、はぁっ、ははっ! どうだ! 凄いだろう! 素晴らしいだろう! これこそが僕の実力――僕がこの中で最も優れた魔法使いである証明となる!」

「ふ、フリック様……」


 ほぉ、面白い。竜種を呼びつけるとは、なかなかの腕前じゃないか。

 竜種は皆例外なく強い。最も弱い個体でも、ただの人間では手足も出ずに喰われるのがオチであると言われるほど強大な種族だ。

 それをあんな紙っ切れ1枚で従えるとは。案外人間も悪くない成長を遂げているのかもしれないな。

 

 しかしあの龍、様子がおかしいな。

 図体はデカいくせに存在感がまるでない。視界に映ってこそいるが、今すぐにその場から消えてしまいそうな儚さを感じる。

 最初はその程度の龍なのかと思ったが、様子を見るにどうやらそうではないらしい。

 どうやら存在を維持し続けるためのエネルギーが足りていないようだ。酷く飢えた様子。今すぐにでも暴れ出しそうだ。

 そんなことを考えていると、案の定すぐに事件が発生した。


「くっくっくっ、あーっはっはっ!」

「ふ、フリック様! もう十分でしょう。さあ、この龍を元の場所にお戻しに――」

「ふん、分かっている。いちいちうるさいぞ。興が覚める。言われなくてもすぐに戻すさ。ほら――って、あれ?」

「――ッ! これはいけません――フリック様!!」

「うあっ!?」

 

 飢えに耐えかねた龍は、召喚主であるフリックに襲い掛かった。

 腰を抜かしたフリックをかばうようにクライヴと呼ばれていた側近の爺さんが慌てて間に割り込んだが、龍の勢いは一切収まらず、爺さんに向けて苛烈な攻撃を仕掛け続ける。

 得物である剣を用いて華麗に捌いているが、後ろに守るべき存在がいるせいかイマイチ実力を出し切れていない様子。

 弱っているとはいえ、腐っても龍だ。そう簡単に打ち倒せる存在ではない。

 会場は大パニックだ。試験官たちも臨戦態勢を取っているが、どう攻めたらよいのか分かっていない様子。


 しかし龍はすぐにエネルギーを補給したいのか、一旦フリックの捕食を諦め、より強い魔力を持つ存在へとターゲットを切り替えた。

 この中で最も高い魔力反応を持つ人間――即ち俺だ。

 どうやらこいつは小生意気にも俺を食らって回復しようとしているらしい。


「君! 危ないぞ! 早く逃げ――」

「ふん、自分のペットの躾くらいしっかりしておけよ」

「え、あ……えっ?」


 馬鹿みたいに大口を開けて襲い掛かってきたので、右手をかざし、魔力霧散(バニッシュ)の魔法で消し飛ばした。

 どうやらあれは本体を呼びつけるカードではなく、その生物の情報を元に魔力で再現したものらしい。

 だからそれを構成する魔力を霧散させることで体を維持できなくさせた。

 

「さて、これでおあいこだ。さっきのことは許してくれるよな?」


 俺はやや意地の悪い笑みを浮かべながら、呆然とするフリックに問いかけた。

 

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