1話 試験会場
「ところであなたはどうしてこんなところにいたの? 学生、じゃないわよね? 学生は制服なしじゃ学園の敷地内には入れないもの」
「あー、えっと……そういえば今、時間は?」
「あら、時計を持っていないの? 貸してあげるわ。ほら」
「――っ!」
ミストリアが取り出した懐中時計を受け取って現在時刻を確認すると、あと5分ほどで試験開始時刻になることが発覚した。
まずい、遊びに時間を使いすぎたか。正直魔法カードが常識の世界と知って一気に魔法学園の価値が落ちたが、一応両親の支援を受けて試験を受けに来ている以上サボるのはまずいだろう。
最低限試験会場に足を運んでおかなければ。
「ごめん、ちょっと用事あるからお先に失礼するね」
「ええっ、どうしたのよ急に!」
「試験、始まっちゃうから」
「試験? 試験って、まさか入学試験のことじゃ――」
「それじゃ」
当然ながらこのままでは走っても絶対に間に合わないので、空を飛んでいくことにした。
俺を中心に風の流れを発生させ、試験会場まで最速で到達する。
こんなことなら先に会場に行っておけばよかった。そうすれば転移魔法の座標を記憶できたのに。
まあ、間に合うなら何でもいいだろう。
「……行っちゃった」
一人残されたミストリアは、その光景をぽかんとした表情で見上げていた。
♢♢♢
「よぉし到着っと。ギリギリセーフか」
爆速で空をかけ、会場である魔法訓練場に勢いよく着地したのはいいものの、少し足が痛いな。
どうやらこの体、あまり頑丈ではないようだ。これからは着地の際に勢いを少し緩める必要がありそうだ。
ん、なんか周りの奴らが騒がしいな。何かを恐れるような目線も感じる。
「き、貴様ァ……この僕を突き飛ばすとは何たる無礼! 許せん!」
「あ?」
よく見たら足元に一人の少年が転がっているではないか。
身なりからしてそれなりに位の高い人間の子供か。どうやら俺が着地した衝撃で吹っ飛ばされてしまったらしい。
「ああ、悪いね。ちょっと着地場所を間違えたみたいだ。怪我はないか?」
「ふざけるな! 僕を誰だと思っている!?」
「さあ? 初めて会ったから分からないけど」
事実を言っただけなのだが、どうやらこの少年にとっては気にくわなかったらしく、奴のこめかみに青筋が浮かんできた。
「なら教えてやる! 僕の名はフリック・フォン・アルデベルク! 偉大なるアルデベルク帝国の皇子だ!」
「へぇ、王族か」
「さあひれ伏せ! 床を舐めて僕に許しを乞え! そうすればほんの少しだけ処分を軽くしてやる!」
「は? なんでそこまでしなきゃいけないんだ? 怪我させたなら責任をもって治療するからそう言ってくれよ」
「き、キサマ……もう許せん! ここで粉々になってから後悔しろ!!」
「ま、まあまあ、フリック様。この者もおそらく悪気があってやったわけではないと思いますので、どうか寛大なご対応を……」
「邪魔をするなクライヴ! こいつは僕に恥をかかせたんだ! 許せるわけがないだろう!」
「し、しかし、入学試験を目前にして揉め事を起こしたとなれば、我らが祖国アルデベルクの悪評に繋がります。どうかここは怒りを治めていただきますよう……」
「……チッ、命拾いしたな。だが今日のこと、覚えておけよ。僕に楯突いたこと、あとでたっぷりと後悔させてやるからな!!」
おそらく護衛役と思しき老人に諫められ、フリックは引き下がった。
喧嘩を吹っ掛けられたのならそれを買ってやるのも一興と思っていたが、どうやら今回はお預けのようだ。
この時代の人間がどのような戦い方をするのか興味があったんだが、残念だ。
周囲を見てみると、安堵した様子の奴らと憐みの視線を向けてくる奴と好奇心を向けてくる奴らがいた。
一応は面倒な奴に目をつけられたという自覚はあるが、大した問題じゃない。
あの爺さんだけはなかなかの手練れに見えたが、まあ大丈夫だろう。
「では定刻になったので試験を始める!」
そうこうしているうちに試験開始の号令がかかった。
俺はほかの受験生に紛れて、試験官と思しき男の近くへと向かった。
「試験内容は事前に通達した通り、この6つの属性の呪文カードを用いる。これは諸君らの適正属性を見るものであって、単に複数属性のカードを扱えることがそのまま高得点とは限らない。器用貧乏よりも一点特化の方が高評価の場合もあるだろう。もっとも、多くの属性を扱えるということはそれだけのポテンシャルを秘めているということになるわけで、その辺りは評価にも影響することだけは伝えておこう」
そう言って試験官の男は6枚の色が異なる呪文カードを皆に見せた。
なんだあれは。粗悪品というのも烏滸がましい最低の魔道具じゃないか。
あれを起動したところで貧弱極まりない低劣な魔法が出るだけ。しかも魔力変換効率もカスだ。
まあ、たかが入学試験で高等なブツを使う訳にはいかないというだけなのかもしれないが、そもそもあんなものがこの世に存在しているだけで正直今の人間たちに失望する。
おい、ミネヴィアよ。お前が目指したのは本当にこんな世界なのか?
「それでは順番にやってもらおう。試験番号1番から10番までの受験生は前へ」
その言葉を聞いて母親に持たされた受験票を懐から取り出して確認する。
俺の番号は43。だいぶ先だな。
まあ、とりあえず見せてもらおうか。今の人間の子供らが扱う魔法の質を。
ほとんど期待はできないだろうがな……




