AS MARINE
なぜだろう。
私、東 凛は今、知らない街中にいる。
果物屋らしき露店では、見たことがないような青色の果実が売られ、
私の横では、大きなトカゲのような生き物が馬車をひいている。
この現象は、いわゆるアレだろう。
そう──
「異世界転移してしまった、、、」
とりあえず状況を整理しよう。
私は数分前まで、いつも通り友達と教室で話していたはずだ。
帰宅部なので放課後は暇なのだ。
そして急に視界が真っ白になって、気付けば異世界。
ふざけんじゃねぇぞ。
まぁ起こったことはしょうがない。
キレればストレスが溜まるだけだ。
まわりの露店からは「買ってけ!買ってけ!」などの声が聞こえてくる。
幸い、ちゃんと言葉は通じそうだ。
知らない言語だったら多分詰んでいただろう。
英語でさえ厳しいのに他の言語も覚えられるはずがない。
──「こんにちは。」
声をかけられ振り返ると、
そこには私と同い年ぐらいの茶髪の女の子が立っていた。
とりあえず挨拶を返そう。
「ど、ども。」
「他の国から来られた方ですか?珍しい格好をなされていますけれど。」
確かに今は制服だった。
まぁ見知らぬ人に「異世界から転移してきたんです」なんて言えるわけがなく、
「ま、まぁそんなとこです。」
「あぁ、自己紹介がまだでしたね!私はメアリーと申します!
よければお名前をお伺いしても?」
「え、あ、ぁず ま りんです。」
やばい。一気に距離を詰められてビビってしまった。
「マリンさんですね!マリンさんはどちらから来られたんですか?」
名前も禄に伝えられなかった。
まぁ名前は間違えられたままでいいだろう。今だけの付き合いになるだろうし。
「黄金の国ジパングから」
「へぇ!初めて聞く国です!だいぶ遠い国なんでしょうか?」
「ま、まぁ」
間違ってはないだろう。うん。
「あ、もしよかったら、私がこの街をご案内しましょうか?」
これから生きていくなら、
まずはこの世界を知る必要があるだろう。
現地のガイドがついてくれるのはありがたい。
「じゃあ、お願いします。」
二時間ほどメアリーのガイドをうけながら歩いてみた感じ、
この異世界は案外、普通の世界である。
気候や動植物の生態が違うだけで、
特に魔法のようなものはない。
この時点で異世界転移無双はないわけだ。
いやうん、別にいいけどさ。
ガイドが終わる頃には、辺りは少し暗くなってきていた。
「どうでしたか?この街は。」
「綺麗な街ですね。住んでいる人達もみんな優しそうです。」
「良かったです!ところで、今日はこの街に泊まるんですか?」
「あ、、、」
今急に重大な問題を思い出した。
そう、私はお金を持っていない。
前の世界のお金でさえ教室のバックの中にある。
どうしたものか。
「あ、遠い国から来たなら、この国のお金を持ってないかもですよね」
そうなんです!
「は、はい、今気付きました、、、」
メアリーはしばらく考えてこう言った。
「よかったら、うちに住みます?」
「え?」
結局メアリーの家に住まわせてもらうことになった。
本当にありがたい。
「親御さんは大丈夫そう?」
「あ、私一人暮らしなんです。17歳はもう成人ですので。」
「同い年ですね。」
「そうなんですか?ますますこれからが楽しみです!」
「お世話になります。」
「はい!あ、着きましたよ。ここです。」
メアリーが指した先には、二階建ての一軒家があった。
温かい黄色の壁と三角の屋根が特徴だ。
それから一緒に食事をとってお風呂に入った。
お風呂の文化があるのは嬉しい。
というか、
本当にここまでよくしてもらって何も返さないのはまずい。
「メアリーさん、なにかお礼をしたいのですが、してほしい事とかありますか?
ここでの仕事が見つかるまでは、お金を払えませんし。」
「じゃあ体で払いますか?」
「え!?」
え!!??
「冗談ですよ。家事を手伝うぐらいで大丈夫です。そこまで求めません。」
びっくりした。めちゃびっくりした。
「は、はい。じゃあ私は床で寝ますので。」
「え?一緒に寝ましょうよ。」
「え、えぇ?ま、まぁメアリーさんが良いなら。」
メアリーのいるベットに一緒に入る。
一人用のベットなので、当然ながら近い。
わぁ目きれい。
髪さらさらしてる。
おっと。
シェアハウスで下心が沸いたらだめだろう。本当に。
「マリンさん、やっぱり少し求めても大丈夫でしょうか。」
「え──
何を─と聞く前に口づけをされてしまった。
心拍数が上がり、自分の顔が熱くなっているのがわかる。
「ふふ、これでしばらくお礼はいりませんよ。」
やばい。好きになる。
結局私はほとんど眠れなかった。
「おはようございます。マリンさん。」
「お、おはようございます。」
昨日の夜の出来事を思いだして、赤面する。
「今日はなにかご予定はありますか?」
「は、はい。仕事を探しに街の中心の方へ行こうかと。」
なんで何もなかったように振る舞えるのだろうか。
「了解です!頑張ってくださいね!」
あぁ好きだ。
こう思うと本当に異世界転移して良かったと思う。
だから──
私、東 凛はこれから、マリンとして生きていく。




