第9戦 幻獣化計画
その拠点は、かつて共和国軍の地下研究施設だった。
「ようこそ、新しい世界へ」
デイビットはそう言って、集められた適合兵たちを見渡した。
顔ぶれは様々だ。
追われ、居場所を失い、ここに辿り着いた者たち。
「ここでは、俺たちは“半獣”じゃない」
「選ばれた存在だ」
炎が、彼の背後で静かに揺れる。
以前よりも、明らかに大きく、制御されていた。
「次の段階へ進む」
彼が示したのは、研究区画の奥。
そこには、歪な装置と培養槽が並んでいた。
「幻獣との適合だ」
ざわめきが起こる。
ドラゴン。
フェニックス。
ケルベロス。
神話にのみ存在するとされてきた存在の名が、淡々と告げられる。
「幻獣化に成功した者は、幹部になる」
「失敗すれば――」
デイビットは言葉を切った。
代わりに、隣の区画の扉が開く。
そこには、抑制の効かなくなった適合兵がいた。
身体は歪み、皮膚は裂け、理性は失われている。
次の瞬間、爆発音。
扉の向こうが、炎に包まれた。
「――死ぬ」
沈黙が落ちる。
「だが、恐れるな」
デイビットは続けた。
「選ばれるのは、強い意志を持つ者だけだ」
彼は知っていた。
幻獣化に耐えられるのは、すでに一般動物と融合した適合兵のみ。
一般人が幻獣と融合すれば、即座に肉体が崩壊する。
「一般人には、まず“器”が必要だ」
そう言って、別の部屋を示す。
そこには、一般動物との適合手術を受ける民間人が並んでいた。
恐怖に震えながらも、希望を失った目。
「半獣になることを選ぶか、狩られて死ぬか」
「選択肢は、それだけだ」
それを、デイビットは“救済”と呼んだ。
――――――
最初の実験が始まる。
志願した適合兵が、培養槽へ入れられる。
幻獣因子が注入され、肉体が変質していく。
叫び声。
骨の軋む音。
炎と血。
一人は耐えきれず、暴走した。
施設の壁を破壊し、叫びながら崩れ落ちる。
「抑えろ!」
「……駄目だ!」
炎が放たれ、命は終わった。
二人目。
三人目。
成功したのは、一人だけだった。
ケルベロスの力を得た男。
三つの咆哮が、重なって響く。
デイビットは頷いた。
「これが、次の時代だ」
成功者は幹部として迎え入れられる。
失敗者の名は、記録から消された。
――――――
デイビット自身は、さらに先を見ていた。
彼はドラゴンの力を選ぶ。
理由は単純だった。
「人の上に立つ存在」
「神話の象徴」
炎を操り、空を翔ける力。
誰にも支配されない存在。
「もう、選ばれない側には戻らない」
彼の身体は、ゆっくりと、だが確実に変わっていく。
トラの力の上に、ドラゴンの因子が重なり始めていた。
――――――
その頃、別の区画。
エリザベスは、拘束されたまま装置の前に立たされていた。
「協力しろ」
「……しません」
「なら、見届けろ」
彼女の前で、また一人が幻獣化に挑む。
成功と失敗、その両方を。
デイビットは言った。
「君の知識があれば、成功率は上がる」
エリザベスは唇を噛む。
拒否すれば、死者は増える。
協力すれば、地獄は完成する。
彼女はまだ知らない。
この選択の先に、自分自身がフェニックスになる未来が待っていることを。
――神話になる代償は、あまりにも大きかった。




