表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/26

第6戦 ケビンとヘレン

ライアンは剣を置いた。


戦争が終わり、適合兵としての役目を終えたはずなのに、世界は彼を拒んだ。

隔離区域。

監視。

そして、怯えた視線。


「もう、戦わない」


それは誰かに向けた宣言ではなく、自分自身への誓いだった。

怪物として生き延びるくらいなら、人として静かに終わりたい。

そう思った。


ライアンは街を出た。

名もない村を渡り歩き、仕事を請け負い、夜は納屋や空き家で眠る。

ライオンの力は封じ、ただの人間として振る舞った。


――――――


ある村で、彼は異様な速さを目にする。


一瞬で距離を詰め、ならず者の腕を折り、姿を消す影。

追いかけた先で、ライアンは男と対峙した。


「……チーター型、適合兵だな」


男は舌打ちした。

「元、な」


ケビンと名乗った。

かつてデイビットの部下だった男。

復讐に加わらず、放浪を選んだ適合兵。


「俺はもう、誰の命令も聞かねえ」

「俺もだ」


二人は短く言葉を交わし、奇妙な共闘関係になる。


――――――


次に出会ったのは、弓を構えた少女だった。


「それ以上、近づくな」


矢の先は、正確にライアンの心臓を狙っていた。

ヘレン。

適合兵に家族を殺された少女。

能力はない。

だが、その目には迷いがなかった。


「適合兵は、全員敵」

「……そうか」


否定しなかった。

それが、ライアンの答えだった。


三人は、互いを信用しないまま同行する。

適合兵狩りをするヘレン。

逃げるケビン。

戦わないと決めたライアン。


歪な旅だった。

それでも、夜の焚き火の前では、時折、言葉が交わされた。

誰も、戦争の話はしなかった。


――――――


一方その頃。


エリザベスは研究施設に残っていた。

適合兵のワクチン管理と、後処理。

誰も引き受けたがらない仕事を、彼女は続けていた。


「……これ以上、彼らを壊させない」


そう思っていた。


その夜、警報は鳴らなかった。

扉が壊されることもなかった。


炎が、静かに灯っただけだった。


「久しぶりだな、エリザベス」


振り返ると、そこにデイビットが立っていた。

背後で揺れる炎。

トラの力が、以前とは比べものにならないほど荒々しい。


「……来ないで」

「話をしに来ただけだ」


彼は笑う。

だがその目は、決定的に変わっていた。


「俺たちは間違ってた」

「あなたは……人を、兵器にするつもり?」


「違う」


デイビットは首を振る。

「人が、神話になるんだ」


彼は手を伸ばす。

炎が渦を巻き、床を焼く。


「ワクチンが必要だ。新しい適合兵も」

「拒否します」


即答だった。


次の瞬間、エリザベスの視界は闇に沈んだ。


――――――


焚き火の前で、ライアンは胸騒ぎを覚えた。

理由は分からない。

ただ、何かが取り返しのつかない方向へ動いたと、確信した。


「……嫌な予感がする」

「当たる時は、最悪だ」


ケビンが呟く。


遠くの空が、赤く染まっていた。

それは、夜明けではなかった。


炎だった。


そしてライアンは知らない。

その炎が、かつて守ろうとした人を、今まさに奪っていったことを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ