第5戦 そして終戦へ
その戦いが、最後になると誰もが感じていた。
ミデア帝国軍は、王都奪還を阻止するため全戦力を投入してきた。
平原一帯は炎と煙に包まれ、空は昼でも暗かった。
「全適合兵、前へ出ろ」
命令が下った瞬間、ライアンは息を吸い込んだ。
胸の奥で、ライオンが吠える。
デイビットは隣で笑った。
「終わらせようぜ、ライアン」
二人は同時に地を蹴った。
獣の力を解放し、敵陣へと突き進む。
銃弾を弾き、戦車を引き裂き、兵をなぎ倒す。
人間ではあり得ない力。
戦場は、適合兵を中心に崩壊していった。
エリザベスは後方の臨時施設で、モニター越しに彼らを見ていた。
手は震え、唇は白くなっている。
自分が生み出した力が、命を奪っていく光景を、目を逸らさず見続けていた。
「ライアン、左だ!」
「分かってる!」
二人は背中を預け、戦った。
何度も。
何度も。
その時、敵の砲撃が直撃する。
ライアンの視界が白く弾け、身体が宙を舞った。
「ライアン!!」
デイビットの叫び。
だが次の瞬間、ライアンは立ち上がった。
骨が軋み、血が流れても、前へ出る。
「……終わらせる」
咆哮と共に、ライオンが吠えた。
その日、ミデア帝国軍は完全に撤退した。
戦争は、サイコーム共和国の勝利で終わった。
――――――
凱旋は、思ったより静かだった。
街に戻った適合兵たちを迎えたのは、歓声ではなく、戸惑いの視線だった。
人々は距離を取り、囁き合う。
「……あれが、半獣か」
「近づくなよ」
誰かが石を投げた。
次は、罵声だった。
「化物」
「国を汚すな」
ライアンは立ち止まる。
胸の奥が、冷えていく。
「俺たちが、勝ったんだろ……?」
デイビットは周囲を睨みつけた。
その目に、怒りが宿る。
エリザベスは、その光景を遠くから見ていた。
政府関係者に囲まれ、感謝の言葉を浴びながら。
だが彼女の視線は、適合兵たちから離れなかった。
数日後、通達が出る。
適合兵の外出制限。
居住区の隔離。
武装解除。
「……ふざけるな」
デイビットの声は、低く震えていた。
「俺たちは道具だったってことか」
「デイビット、落ち着け」
ライアンが言う。
だが、その言葉は弱かった。
エリザベスは必死に抗議した。
適合兵の権利。
継続的なワクチン供給。
人としての保障。
だが返ってきたのは、冷たい言葉だった。
「役目は終わった」
「危険すぎる存在だ」
その夜、デイビットは一人、施設の屋上に立っていた。
街の灯りを見下ろしながら。
ライアンが近づく。
「……どうするつもりだ」
デイビットは振り返らない。
「なあ、ライアン」
しばらくして、静かに言った。
「人間でいるから、こうなるんだ」
ライアンは息を呑む。
「力を持っても、人のままだから、また捨てられる」
「……何が言いたい」
デイビットは、初めて振り返った。
その目には、かつての陽気さはなかった。
「人より上にならなきゃいけない」
「神話みたいな存在に」
炎が、彼の背後で揺らめいた。
それはまだ、トラの力に過ぎない。
だが確かに、変化の兆しだった。
「俺は、もう二度と選ばれない側には戻らない」
ライアンは何も言えなかった。
止める言葉を、持っていなかった。
その夜を境に、三人は同じ場所にいながら、
少しずつ、別々の方向を向き始めていた。
英雄が生まれた日。
同時に、怪物が作られた日でもあった。




