第4戦 デイビットとエリザベス
デイビットが研究施設を訪れたのは、前線での負傷が原因だった。
ライアンよりも派手に戦い、より深く傷を負い、それでも笑って戻ってくる。
それが彼という男だった。
「お、ここか。化物の整備工場は」
軽口と共に入ってきたデイビットを見て、エリザベスは一瞬だけ眉をひそめた。
だが何も言わず、淡々と記録端末を操作する。
「トラ型適合兵、バイタル安定。外傷は……相当ですね」
「このくらい、かすり傷だ」
デイビットは椅子に腰掛け、笑った。
その笑顔には、恐怖も迷いもない。
「なあ、あんたが俺たちを作った人か?」
「……ええ」
エリザベスは視線を合わせない。
デイビットは気にする様子もなく続けた。
「すげえよな。俺たち。人間やめて、こんな力手に入れたんだぜ?」
「そういう言い方は、やめてください」
エリザベスの声は、思ったより強かった。
デイビットは少しだけ目を丸くする。
「あなたたちは兵器じゃない。実験結果でもない」
「でも、戦場じゃ役に立つだろ?」
即答だった。
「勝たなきゃ意味がない。勝てば正義だ」
「……その正義のために、どれだけの人が壊れると思っているんですか」
デイビットは肩をすくめた。
「壊れない戦争なんてない」
そのやり取りを、ライアンは黙って聞いていた。
二人の間に流れる空気は、どこか噛み合っていなかった。
ライアンは知っていた。
デイビットは“力”を疑わない。
力こそが自分たちを守ると、心から信じている。
一方でエリザベスは、力の先にある“犠牲”から目を逸らせなかった。
価値観の違いは、静かに、しかし確実に存在していた。
――――――
次の出撃まで、わずかな休養期間が与えられた。
三人は施設の外れにある、簡素な食堂で顔を合わせることが増えた。
軍用の硬いパンと薄いスープ。
それでも、誰かと同じ卓を囲むだけで、戦争が少し遠のく気がした。
「なあライアン、戦争終わったらどうする?」
デイビットがいつもの調子で聞く。
「……まだ考えてない」
「俺はな、もっと強くなりたい」
エリザベスはスプーンを止めた。
「……それ以上、何を?」
デイビットは笑う。
「この力じゃ、まだ足りない気がするんだ」
ライアンは言葉を挟んだ。
「十分すぎるだろ」
「いや」
デイビットは珍しく、真剣な目をしていた。
「人間のままじゃ、また使われる。捨てられる」
エリザベスは視線を伏せる。
その言葉が、未来を言い当てているようで。
沈黙を破ったのは、些細な笑いだった。
デイビットがパンを落とし、ライアンがそれを拾い、三人で思わず笑う。
ほんの一瞬。
戦争も、適合兵も、忘れられる時間。
その平穏が、永遠ではないことを、三人とも分かっていた。
それでも、その時間は確かに存在した。
そしてそれが、後に三人を最も深く傷つける記憶になる。




