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第3戦 エリザベスとの出会い

白い壁に囲まれた部屋は、戦場よりも息苦しかった。


消毒薬の匂いが鼻を刺す。

床も天井も、無機質な白で塗り固められている。

ライアンは簡易ベッドに腰を下ろし、左腕に巻かれた包帯を見つめていた。


「動かないでください」


背後から、落ち着いた女性の声がした。

振り返ると、白衣を着た一人の女性が立っていた。

金色がかった髪を後ろで束ね、疲れたような目をしている。


「……あなたが、適合兵の担当者か?」


問いかけると、彼女は一瞬だけ言葉に詰まった。

そして小さく頷く。


「エリザベスです。適合兵の生体管理と、ワクチン調整を担当しています」


彼女の視線は、ライアンの身体に走る無数の傷へと向けられた。

戦場で受けたもの。

治療が間に合わなかったもの。

そして、癒えても消えないもの。


「……痛みは?」

「慣れた」


それは嘘ではなかった。

適合兵になってから、痛みを感じない日など一日もなかった。


エリザベスは、彼の腕に注射器を当てる。

抑制ワクチン。

これがなければ、彼は理性を失い、怪物になる。


「あなたたちは……怖くないんですか」


不意に、彼女が口にした。

注射器を持つ手が、わずかに震えている。


「毎日、こんな身体にされて。

戦場では怪物として扱われて。

それでも……戦うのが」


ライアンはしばらく黙っていた。

答えを探しているというより、言葉にする価値があるのか考えていた。


「怖いさ」

「……」

「でも、怖いって言っても、何も変わらない」


エリザベスは唇を噛みしめた。

彼女の目には、怒りでも嫌悪でもない、別の感情が浮かんでいた。

罪悪感だ。


「私は……あなたたちを作った」


その言葉は、告白のようだった。


「命令だったとはいえ、私の研究が、あなたたちを戦場に送っている。

……それでも、止められなかった」


ライアンは彼女を見つめる。

白衣の下に隠された細い肩。

戦場に立たない代わりに、別の地獄に立たされている人間。


「だったら」

ライアンは静かに言った。

「せめて、生きて帰らせてくれ」


エリザベスは顔を上げた。

その目が、初めて彼を“兵器”ではなく“人”として見たように、ライアンには思えた。


「……約束します」

「守れるのか?」

「守ります。できる限り」


その日から、彼女は必ずライアンの容態を自分で確認するようになった。

ワクチンの量も、投与の間隔も、他の適合兵より細かく調整された。


戦場に戻る前夜、ライアンは施設の廊下でエリザベスとすれ違った。


「また、戻ってきます」

「……ええ」


それだけの会話だった。

だがその短い言葉が、彼にとって“帰る場所”になりつつあることを、ライアン自身も気づいていなかった。


戦場では適合兵として。

それ以外では、ただの人間として。


彼女と話す時間だけが、その境界を曖昧にしてくれた。

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