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エピローグ エリック

エリックは、生き残った。


それは奇跡でも、祝福でもなかった。


ただ――

運が、少しだけ残っていただけだ。


――――――


戦後、彼は昇進を打診された。


「英雄です」

「共和国を救った男だ」


エリックは、断った。


理由は、ひとつ。


「……俺は、多くを死なせた」


書類の向こうで、沈黙が落ちる。


「それが、戦争だ」


「違う」

エリックは、静かに言った。

「それは、言い訳だ」


――――――


彼は、前線を離れた。


だが、軍を去らなかった。


適合兵対策部局。

名ばかりの、小さな部署。


仕事は地味だった。

報告書、検証、記録。


誰も読みたがらない書類に、

彼は、すべてを書いた。


失敗も、

誤算も、

犠牲も。


英雄譚は、一行もない。


――――――


ある日、若い士官が尋ねた。


「大佐」

「幻獣は、本当に倒せるんですか?」


エリックは、少し考える。


「……倒せる」

「だが、条件がある」


「何です?」


「倒す側が、人間であることだ」


士官は、理解できない顔をした。

それでいい。


理解できない者は、

まだ、守られている。


――――――


彼は、時折、戦場を訪れた。


リリーが倒れた場所。

名前のない土。


花は、植えない。

碑も、立てない。


代わりに、

帽子を取り、

数秒、黙る。


それだけで、十分だった。


――――――


夜。


エリックは、古い無線機を手に取る。


もう、繋がらない周波数。


「……こちら、エリック」


返事は、ない。


「今日も、何も起きなかった」

「だから……よし」


彼は、無線を置く。


眠れない夜は、まだある。

だが、酒には頼らない。


覚えているために。


――――――


引き出しの奥に、一枚の紙がある。


殴り書きの作戦メモ。

血で汚れた端。


それを見て、

彼は、小さく息を吐く。


「……神話は、倒せる」


それは、誇りではない。

戒めだ。


――――――


エリックは、今日も机に向かう。


銃は、持たない。

命令もしない。


ただ、

次の戦争が、

少しでも起きにくくなるように。


人間のままで。


それが、

彼の選んだ、最後の戦いだった。

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