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エピローグ ライアン

ライアンは、名を名乗らなくなった。


剣も、普段は布に包んだまま背負っている。

抜くことは、ほとんどない。


必要が、ないからだ。


――――――


最初に訪れたのは、山あいの小さな村だった。


かつて、熊と適合した兵士の故郷。

家は残っていたが、主はいない。


母親は、最初、怯えた目をした。


「……適合兵?」


ライアンは、否定しなかった。


「はい」

「彼と、一緒に戦っていました」


沈黙。


やがて、震える声が返る。


「……あの子は」

「怪物だった?」


ライアンは、首を振った。


「最後まで、人でした」

「……誰よりも、家族を想っていました」


母親は、泣いた。

声を押し殺して。


ライアンは、何も言わず、頭を下げた。


それが、彼にできるすべてだった。


――――――


次は、街。


猫の能力を持っていた斥候の妹。

彼女は、兄を誇りに思っていた。


「英雄だったんでしょう?」


ライアンは、答えに詰まる。


英雄。

その言葉は、重すぎた。


「……弱い人でした」

「だから、強くなろうとした」


妹は、少し考えてから、笑った。


「それなら」

「兄らしい」


その言葉に、

ライアンは、初めて救われた気がした。


――――――


旅の終わりが、近づく。


最後に向かったのは、

誰の墓もない、草原だった。


ここで――

すべてが、終わった。


デイビット。

エリザベス。

そして、自分自身。


ライアンは、剣を地面に突き立てる。


抜かなかった剣。

殺すための剣。


「……俺は、生きている」


風が、草を揺らす。


「怪物としてじゃない」

「人として」


誰も答えない。

それでいい。


彼は、剣を引き抜き、鞘に収めた。


そして――

その場に、置いた。


「……もう、必要ない」


――――――


ライアンは、歩き出す。


行き先は、決めていない。

守る国も、復讐も、もうない。


ただ、

誰かの言葉を伝え、

誰かの記憶を繋ぎ、

誰かの隣で、生きる。


それだけでいい。


背中に、獣の影はない。


あるのは、

傷だらけの、

それでも前を見る一人の人間。


――――――


遠くで、太陽が沈む。


夜は来る。

それでも、朝は来る。


ライアンは、振り返らない。


旅は、終わった。


そして――

彼の人生が、

ようやく、始まった。

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