最終章 人として
夜空が、裂けた。
黄金の炎が、天から降り注ぐ。
「――終わりだ、デイビット!」
ライアンの翼が、世界を照らす。
フェニックスの炎は、すべてを癒し、すべてを壊す。
拳が、爪が、炎が。
圧倒的だった。
ドラゴンの鱗が砕け、
翼が焼かれ、
大地に、叩き落とされる。
「……ぐ……っ」
それでも――
デイビットは、立ち上がった。
血を流しながら。
翼を引きずりながら。
「……はは……」
不敵な笑み。
「さすがだ、ライアン」
「神話に、なっただけはある」
「……違う」
ライアンの声は、静かだった。
「俺は――」
「託されたんだ」
――――――
デイビットが、吠える。
炎が、爆ぜる。
二つの神話が、衝突する。
世界が、燃えた。
――――――
だが。
ライアンの炎が、揺らいだ。
翼が、薄れる。
呼吸が、重くなる。
「……時間切れか」
デイビットが、嗤う。
「フェニックスは、燃え尽きる」
「俺は……耐えるだけでいい」
黄金の炎が、消える。
翼が、崩れ落ちる。
ライアンは、膝をついた。
「……これで終わりだ、ライアン」
「神話は――」
――銃声。
乾いた音が、戦場に響く。
デイビットの肩が、弾けた。
「……なっ……!?」
振り向いた先に――
エリックが、立っていた。
血まみれで。
それでも、銃を構えて。
「……人間を」
「なめるなよ」
もう一発。
鱗の隙間に、正確に叩き込まれる。
「……く……そ……」
ドラゴンが、よろめく。
――――――
その瞬間。
ライアンが、立ち上がった。
炎は、ない。
翼も、ない。
あるのは――
獣の鼓動。
「……俺は」
拳を、握る。
「神話じゃない」
咆哮。
ライオンの姿へと、完全に変わる。
黄金でも、不死でもない。
ただ、強く、しなやかな獣。
「……人だ」
――――――
最後の突進。
ライオンが、跳ぶ。
ドラゴンの炎が、掠める。
鱗が、爪を裂く。
それでも、止まらない。
「――デイビット!!」
爪が、喉を捉える。
牙が、心臓を貫く。
ドラゴンの炎が、消える。
翼が、崩れ落ちる。
「……は……はは……」
デイビットは、倒れながら笑った。
「……最後まで……」
「お前は……人だな……」
ライアンは、答えない。
ただ、見送る。
ドラゴンは、動かなくなった。
――――――
夜が、戻る。
ライアンは、人の姿に戻り、剣を地面に突き立てる。
「……終わった」
エリックが、ゆっくりと歩み寄る。
「……ああ」
二人は、空を見る。
神話は、消えた。
残ったのは――
生き残った人間だけだった。
――――――
後日。
ライアンは、旅に出た。
かつての仲間たちの家族を訪ね、
語られなかった言葉を、渡すために。
英雄ではなく。
怪物でもなく。
ただ――
戦友だった者として。
剣は、もう、抜かない。
それでも、歩く。
それが、
神話を殺し、
人として終わった男の――
最後の選択だった。




