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第19戦 温もりの行方

ヘレンの矢は、もう残り少なかった。


息が荒い。

腕が、震える。


ロズワルドは、まだ立っている。

三つの首が、ゆっくりと彼女を囲む。


「……よくやる」

「だが、終わりだ」


地面が、軋む。

一歩、また一歩。


逃げ場はない。


――一人じゃ、勝てない。


ヘレンは、それを理解していた。

最初から。


それでも、弓を下ろさなかった。


「……私は」

「逃げない」


ロズワルドの一つの首が、嗤う。


「勇敢だな」

「無意味だが」


――――――


その時。


風が、逆流した。


「……?」


ロズワルドの首が、同時に動く。


次の瞬間、

影が、戦場を横切った。


「――ヘレン!!」


聞き慣れた声。

信じたくて、信じられなかった声。


「……ケビン?」


彼は、立っていた。

呼吸は荒く、足取りは不安定。

それでも、確かに――人の目をしていた。


「来るな!」

ヘレンが叫ぶ。

「もう……戻れないって……!」


ケビンは、笑った。

あの、軽い笑い方で。


「だからさ」

「今しか、来れない」


――――――


ロズワルドが、吠える。


「戻ってきたか、裏切り者」

「いい顔だ」


三つの首が、一斉に襲いかかる。


「二人まとめて、殺してやる」


「……一人じゃ、無理だ」

ケビンが、呟く。


「でも」

ヘレンが、弓を構える。


「二人なら――」


「行ける」


同時だった。


ケビンが突っ込む。

限界を超えた速さ。


ヘレンの矢が、目を射抜く。


ロズワルドの咆哮。

だが、止まらない。


「今だ!」


ケビンは、ロズワルドの懐へ潜り込む。

ワクチンの残りを、すべて打ち込む。


「――これで、終わりだ!」


だが、ロズワルドもまた、怪物だった。


「……道連れだ」


三つの首が、ケビンを噛み砕く。


同時に、

ケビンの一撃が、心核を砕いた。


轟音。


二つの影が、崩れ落ちる。


――――――


静寂。


ロズワルドは、動かない。


ヘレンは、駆け寄った。


「……ケビン!」


彼は、仰向けに倒れていた。

血に染まり、息は浅い。


「……勝った?」

掠れた声。


「……勝ったよ」

ヘレンは、泣きながら笑う。

「あなたが……勝った」


ケビンは、安心したように息を吐く。


「……よかった」


ヘレンは、彼を抱きしめた。


「行かないで……」

「もう……走らなくていい……」


ケビンは、首を振る。


「……もう、走れない」

「だから……ここで、止まる」


彼の手が、ヘレンの腕に触れる。


「……温かいな」


「当たり前でしょ……」

「生きてるんだから……!」


ケビンは、微笑んだ。


「……俺さ」

「最後まで、人だった?」


ヘレンは、涙で顔を濡らしながら、頷いた。


「……誰よりも」


その言葉を聞いて、

ケビンは、目を閉じた。


呼吸が、静かに止まる。


――――――


ヘレンは、しばらく動けなかった。


腕の中の重さ。

消えない温もり。


怪物じゃない。

兵器でもない。


ただの、人の温度。


「……おやすみ」


その声は、誰にも届かない。


空は、静かだった。


神話は、倒れた。


そして――

走り続けた一人の青年は、

ようやく、休むことができた。

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