第22戦 炎を託す者
最初に崩れたのは、理性だった。
ライアンの身体が、炎に包まれる。
骨格が軋み、筋肉が異形へと変わる。
「……ぐ、ああああ――ッ!!」
咆哮は、もはや人の声ではない。
ライオンの輪郭に、
フェニックスの炎が絡みつく。
翼が、無理やり生え、
黄金の火が、地面を焼き尽くす。
――怪物だった。
「……ライアン……」
エリザベスは、逃げなかった。
足は、震えている。
立っているだけで、限界だった。
それでも、前を見る。
「……お願い」
「戻って」
怪物は、彼女を見た。
――敵として。
炎が、渦を巻く。
一歩、踏み出す。
「……だめ……」
エリザベスは、膝をつく。
「私……」
「もう、時間がないの……」
炎が、迫る。
――――――
「……ライアン」
名を呼ぶ。
それだけだった。
だが、その一言が――
炎の流れを、止めた。
怪物の瞳が、揺れる。
「……ラ……イ……」
爪が、地面を抉る。
「……ライアン……」
「覚えてる……?」
声は、弱い。
それでも、確かだった。
「最初に会った日のこと」
「あなた、研究室の前で……」
「“怖いな”って、笑った」
――――――
怪物の咆哮が、歪む。
「……あ……」
炎が、乱れる。
「戦場で……」
「私が、震えてた時……」
「あなた……」
「剣、置いたよね……」
「……大丈夫だって……」
瞳が、人の色を取り戻す。
「……エリ……ザ……」
巨大な身体が、崩れ落ちる。
「……俺……は……」
「戻ってきた」
エリザベスは、微笑んだ。
涙を流しながら。
「……おかえり」
――――――
静寂。
炎が、小さく揺れる。
ライアンは、膝をついていた。
半獣の姿のまま。
「……もう……限界だ」
エリザベスは、静かに言う。
「私の命は……」
「もう、燃え尽きる」
「……やめろ」
ライアンは、首を振る。
「それ以上、言うな……」
エリザベスは、近づく。
彼の額に、手を当てる。
熱い。
それでも、離さない。
「……聞いて」
「これは、選択」
「私は……」
「生きた」
「あなたと……」
「それで、十分」
彼女の身体が、光り始める。
「……エリザベス!!」
「ライアン」
彼女は、微笑んだ。
「あなたは……」
「人として、戦って」
「そして……」
「神話を、終わらせて」
――――――
炎が、収束する。
フェニックスの翼が、
エリザベスの背から剥がれ、
光の粒となる。
「……あ……」
彼女の身体が、崩れ落ちる。
同時に――
ライアンの身体が、燃え上がった。
だが、先ほどとは違う。
暴走ではない。
苦痛でもない。
「……ッ!!」
炎が、彼を包み、
形を、整えていく。
黄金の翼。
燃える瞳。
ライオンの力と、
フェニックスの命。
――幻獣種・フェニックス。
「……エリザベス……」
彼女は、もう、動かない。
だが――
温もりは、残っていた。
「……託された」
ライアンは、立ち上がる。
涙は、流さない。
燃える命を、背負って。
「必ず……」
「終わらせる」
夜空へ、炎が舞い上がる。
それは、破壊の炎ではない。
誰かが、生きた証。
誰かが、愛した証だった。




