第18戦 人間の戦い
最初に倒れたのは、若い兵士だった。
悲鳴を上げる間もなく、
ヒドラの首が伸び、噛み砕く。
「……毒だ! 吸い込むな!」
エリックの怒号が飛ぶ。
だが、遅い。
リリーは、笑っていた。
「無駄よ」
「ここは、私の庭」
七つの首が、それぞれ違う動きを見せる。
噛みつく首。
締め上げる首。
毒を吐く首。
倒しても、再生する。
「……くそっ」
遊撃隊は、訓練されていた。
それでも――
神話は、想定外だった。
一人、また一人と倒れていく。
毒に侵され、動けなくなり、喰われる。
「下がれ! 無理に攻めるな!」
エリックは、銃を撃ちながら、後退する。
弾は当たる。
だが、意味がない。
「……人間って、こんなもの?」
リリーは、首を傾げる。
「幻獣になれなかった弱者」
エリックは、答えない。
――――――
彼は、観察していた。
首の再生速度。
毒の拡散範囲。
攻撃の優先順位。
「……偏りがある」
七つの首は、同時に動いていない。
三つが前。
二つが側面。
二つが、後方。
「核があるな……」
エリックは、遊撃隊に合図を送る。
「囮を出せ」
「毒首を引きつけろ」
「正気ですか、大佐!」
「やれ!」
命令は、冷酷だった。
だが、戦争だった。
二人が前に出る。
即座に、毒が放たれる。
「今だ!」
その隙に、爆薬が投げ込まれる。
首が、二つ、吹き飛ぶ。
だが――
再生する。
「……まだだ」
――――――
リリーの攻撃が、エリックを捉えた。
締め上げられ、地面に叩きつけられる。
「……っ!」
肋骨が、悲鳴を上げる。
視界が、揺れる。
「終わりね」
リリーが、囁く。
エリックは、笑った。
血を吐きながら。
「……そう思うか?」
彼は、震える手で、起爆装置を握る。
「お前は、再生する」
「だが――」
「全部同時に、壊されたことはないだろう」
――――――
地下が、揺れた。
あらかじめ仕掛けられていた爆薬が、連鎖起爆する。
床が崩れ、リリーの足場が崩壊する。
「……なっ」
七つの首が、同時にバランスを失う。
その瞬間。
エリックは、最後の切り札を撃った。
ワクチン過剰投与弾。
核と思しき部位へ、至近距離で。
「――人間を、舐めるな」
リリーの身体が、痙攣する。
再生が、追いつかない。
「……あ、ああ……」
首が、崩れ落ちる。
一つ、また一つ。
「……私……選ばれたはず……」
「違う」
エリックは、静かに言った。
「お前は、使われた」
最後に残った首が、崩れ落ちる。
ヒドラは、動かなくなった。
――――――
戦場には、沈黙が残った。
立っているのは、エリックと、数人の兵士だけだった。
「……生存者、確認」
数が、合わない。
半分以下だ。
エリックは、帽子を取る。
泥と血に塗れた顔で、敬礼する。
「……よく、やった」
誰に向けた言葉かは、分からない。
――――――
通信が、入る。
「……大佐」
「ロズワルドが、動いた」
エリックは、目を閉じる。
「……そうか」
立ち上がろうとして、膝が崩れる。
それでも、無線を握る。
「……ライアン」
「ヘレンを、頼む」
神話は、殺せる。
それを、彼は証明した。
だが――
人間の戦いは、あまりにも、代償が大きかった。




