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第17戦 分かたれた戦線

本拠地の位置が割れたのは、偶然ではなかった。


「……やっと尻尾を掴んだ」


エリックの遊撃隊は、徹底的だった。

補給路、通信、残存兵の証言。

点だった情報が、一本の線になる。


「デイビット軍本拠地、旧王都地下」

「間違いない」


地図の前で、ライアンは息を吐いた。

長すぎた追撃が、ようやく終わる。


「……大佐」

ヘレンが言う。

「これで、終わるの?」


「終わらせる」

エリックは即答した。


――――――


エリックは、共和国本部に応援を要請した。


それは、必要な判断だった。

同時に、避けられない軋轢でもある。


「正規軍が来る」

「……そうか」


ライアンの声は、硬い。


「俺たちは、同じ行動はできない」

エリックは続ける。

「適合兵は、正規軍にとって“標的”だ」


「……分かってます」

ヘレンが答えた。


信頼していないわけじゃない。

ただ、立場が違う。


「俺は、俺の部隊を率いる」

「お前たちは――」


「別働隊ですね」

ライアンが言った。


エリックは、静かに頷く。


「生きろ」

それだけだった。


――――――


戦いは、同時に始まった。


本拠地へ向かう前線。

その周辺に展開する、デイビット軍残存の適合兵。


「一体ずつ、確実に」

ライアンは、剣を構える。


ヒットアンドアウェイ。

もはや、身体が覚えている。


ヘレンの矢が、喉を射抜く。

ライアンの拳が、急所を砕く。


「……終わりだ」


勝てる。

そう、思った瞬間だった。


――――――


地面が、沈む。


「……来る」


重い足音。

三つの影。


ロズワルド。


「……ようやくだな」


三つの首が、同時に笑う。


「お前たちには、借りがある」

「マイクと、ダンの分だ」


「引くぞ、ヘレン!」

ライアンが叫ぶ。


だが――


咆哮。


衝撃波が、戦場を裂いた。

大地が崩れ、煙が舞う。


「――っ!」


視界が、分断される。


「ライアン!」


ヘレンの声が、遠ざかる。


――――――


煙が晴れた時、

ヘレンの前に立っていたのは、ロズワルドだった。


巨大な影。

三つの首が、彼女を見下ろす。


「……弓か」

「哀れだな」


ヘレンは、震える手で弓を構えた。


逃げ場はない。

背後は、崩れた地形。


「……下がれ」

「それとも――」


一つの首が、嗤う。


「泣きながら死ぬか?」


ヘレンは、唇を噛みしめる。


――私は、戦えない。

――でも、逃げない。


「……私は」

「人を、化物だなんて呼ばせない」


矢を、番える。


――――――


一方。


別の戦線で、エリックは足を止めた。


空気が、湿る。

異様な気配。


「……出てこい」


応えたのは、女の声だった。


「冷たい人ね」

「久しぶりに、人と話せると思ったのに」


闇の中から、ゆっくりと現れる影。


複数の首。

蠢く影。


リリー。

ヒドラの適合兵。


「あなたが、指揮官?」

「……そうだ」


エリックは、銃を構える。


「残念」

リリーは、微笑んだ。


「あなたは、ここで足止めよ」

「神話同士の戦争に、人間は要らないの」


毒の気配が、空気を満たす。


エリックは、息を整えた。


「……上等だ」


――――――


戦線は、完全に分断された。


ライアンは、ヘレンを探し、

ヘレンは、ロズワルドと向き合い、

エリックは、ヒドラの前に立つ。


それぞれが、

自分の“越えられない壁”と対峙する。


ここから先は、

誰も、助けに来ない。


神話の戦争は、

静かに、牙を剥いていた。

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