第14戦 神話の殺し方
地図の上に、無数の印が打たれていた。
赤は、デイビット軍の進行ルート。
青は、共和国軍の壊滅地点。
黒は――生存者が確認できなかった場所。
「……綺麗に、喰われているな」
エリック大佐が低く呟く。
「正面衝突は、全滅」
「奇襲も、幻獣幹部には通じない」
簡易司令室。
ライアン、エリック、ケビン、ヘレン。
四人だけの作戦会議だった。
「俺たちは、勝てない」
ライアンが言う。
誰も反論しない。
「でも、殺せないわけじゃない」
エリックは、静かに頷いた。
「そこだ」
――――――
「幻獣は、万能じゃない」
エリックは、過去の戦闘記録を示す。
「力が強い」
「再生する」
「速い」
「だが、共通点がある」
ライアンが、続きを言う。
「ワクチンだ」
エリックは、わずかに目を細めた。
「その通りだ」
「幻獣化しても、適合兵であることに変わりはない」
つまり――
・ワクチン切れ=暴走
・過剰投与=身体崩壊
「神話は、薬で生きてる」
ケビンが口笛を吹く。
「案外、脆いな」
「問題は、近づけないことだ」
ヘレンが言う。
「矢も、銃も、効かない」
「だから、近づかせる」
エリックは言い切った。
――――――
作戦名は、まだない。
「囮を使う」
エリックは言う。
「幻獣幹部は、強者に反応する」
「……俺か」
ライアンが即座に理解する。
「やめろ」
ヘレンが即座に言った。
「それは――」
「適任だ」
エリックは遮る。
「ライオン型。正面で耐えられるのは、お前だけだ」
ライアンは、静かに息を吐いた。
「俺が引きつける」
「ケビンが攪乱」
「ヘレンが、ワクチン運搬役」
三人の役割が、自然に決まる。
「俺は?」
ケビンが問う。
「逃げるな」
ライアンは言った。
「止まるな。考えるな」
ケビンは、苦笑した。
「……優しいな」
――――――
「最後は、俺がやる」
エリックは、箱を開けた。
中には、特殊弾頭の注射弾。
「過剰投与用だ」
「近距離で打ち込む」
「大佐が?」
ヘレンが驚く。
「俺は軍人だ」
エリックは言う。
「だが、処刑人にはならん」
「選択は、お前たちがしろ」
「俺は、引き金を引くだけだ」
沈黙が落ちる。
ライアンは、拳を握る。
「……ありがとう」
エリックは、地図を畳んだ。
「勘違いするな」
「これは、国のためじゃない」
彼は、ライアンを見る。
「未来のためだ」
「人が、神話に跪かない未来のな」
――――――
会議が終わり、外に出る。
夜明け前。
空は、まだ暗い。
「怖い?」
ヘレンが、ライアンに聞く。
「怖い」
正直に答える。
「でも……」
ライアンは、遠くを見る。
「俺たちは、怪物を殺す」
「そのやり方を、選べる」
それが、誇りだった。
剣を握る手は、震えていない。
神話に勝つ方法は、
神になることじゃない。
人であることを、捨てないことだった。




