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第13戦 灰の檻

目を覚ますたび、同じ天井があった。


白い。

清潔で、無機質で、感情がない。


「……まだ、生きてる」


エリザベスは、自嘲気味に呟いた。


手足は拘束されていない。

だが、出入口は常に施錠され、監視の視線が途切れることはない。


幽閉。

それが、彼女に与えられた役割だった。


――――――


「協力しろ、エリザベス」


デイビットは、何度もそう言った。

穏やかな声で。

昔と変わらない調子で。


「新しい適合兵を作る」

「ワクチンを、安定させる」

「そうすれば、皆が救われる」


「……皆?」

エリザベスは、笑わなかった。


「誰のこと?」

「力に耐えられず死んだ子たち?」

「自我を失って、処分された人たち?」


デイビットは、眉一つ動かさない。


「犠牲は必要だ」

「俺たちは、そうやって生き延びてきた」


その言葉に、彼女は理解した。


彼はもう、“救う側”ではない。

“選ぶ側”に立っている。


「私は、協力しない」

「……そうか」


デイビットは、少しだけ残念そうに言った。


「なら、別の方法を使う」


――――――


実験は、始まった。


拒否権はない。

説明もない。


注入されるのは、未知の因子。

幻獣――フェニックス。


「適合率は……低いな」

研究員の声が、遠くに聞こえる。


激痛。

熱。

内側から、燃やされる感覚。


悲鳴を上げても、誰も止めない。


「……燃える?」

「違う……再生してる……?」


皮膚が焼け、崩れ、次の瞬間には戻る。

血が蒸発し、また流れる。


終わらない。


「やめ……て……」


意識が、途切れそうになる。

その時、ふと浮かんだ。


ライアンの顔。

戦場で、不器用に笑ったあの人。


――まだ、死ねない。


エリザベスは、噛みしめた。


私は、実験体じゃない。

道具でもない。


「……私は、私だ」


――――――


次に目を覚ました時、身体は静かだった。


痛みは、ない。

傷も、ない。


だが、胸の奥に、確かな“熱”がある。


「成功……か?」


研究員の声が、震えている。


エリザベスは、ゆっくりと起き上がった。

その背で、炎が揺らめく。


燃えているのに、苦しくない。

むしろ、温かい。


「フェニックス……」

誰かが、呟いた。


――死なない。

致命傷ですら、意味を失う。


だが、彼女は理解していた。


「……永遠じゃない」


力には、制限がある。

燃え続ければ、いつか灰になる。


「それでも」


エリザベスは、デイビットを見る。


「私は、あなたの神話にはならない」

「人として、生きる」


デイビットは、初めて動揺した。


「……ライアンのためか?」


エリザベスは、答えない。

その必要はなかった。


――――――


独房に戻されても、彼女の目は死んでいなかった。


炎は、彼女を縛る鎖ではない。

帰るための、灯だ。


「待っていて、ライアン」


灰の檻の中で、

フェニックスは、静かに翼を広げていた。

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