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第11戦 絶望の牙

ライアンたちは、生き延びていた。


正面から戦わない。

補給路を叩き、夜に襲い、朝には消える。

デイビット軍の末端にいる適合兵を、ヒットアンドアウェイで討伐していった。


「速いな」

「だから生きてる」


ケビンの速度が敵を切り裂き、ライアンが道を塞ぐ。

ヘレンの矢は、必ず急所か武器を射抜いた。


戦場に残るのは、倒れた適合兵と、散らばった注射器。

ワクチンだった。


「……これで、しばらくは持つ」


皮肉な話だった。

共和国が切り捨てた命を、共和国製のワクチンで繋いでいる。


だが、順調すぎた。


――――――


地面が、震えた。


重く、低い咆哮が、空気を裂く。

三つの影が、煙の向こうに現れる。


「……嘘だろ」


ケビンの声が、掠れた。


ロズワルド。

デイビット軍ナンバー2。

ケルベロスの力を宿す男。


三つの首が、同時にこちらを見た。


「見つけたぞ」


一歩踏み出すだけで、大地が砕ける。

ライアンは、即座に判断した。


「撤退――」


間に合わなかった。


ロズワルドの突進。

ライアンの身体が弾き飛ばされ、木々をなぎ倒す。


「ぐっ……!」


ケビンが背後に回り込む。

だが一つの首がそれを察知し、牙を剥く。


「速いだけだ」


爪が空を裂き、ケビンが地面を転がる。


ヘレンの矢が、目を狙う。

だが皮膚に弾かれ、意味を成さない。


「効かない……!」


絶望が、現実になる。


ライアンは立ち上がる。

ライオンの力を全開にし、正面からぶつかる。


拳と牙が激突し、衝撃波が走る。

だが――


「軽い」


ロズワルドの一言。

次の瞬間、ライアンは地面に叩き伏せられていた。


骨が悲鳴を上げる。

呼吸が、できない。


「終わりだ」


三つの首が、同時に吠えた。


――――――


その瞬間。


異臭が、戦場を覆った。


「――何だ!?」


鼻を焼くような激臭。

ロズワルドの動きが、止まる。


続けて、煙が炸裂した。

視界を奪う濃煙。


「今だ、離脱しろ!」


怒号が響く。


現れたのは、共和国軍の遊撃隊だった。

先頭に立つ男が、指示を飛ばす。


「臭気矢、第二射! 煙弾、重ねろ!」


ヘレンが目を見開く。

「……共和国軍?」


ロズワルドが咆哮する。

だが、視覚も嗅覚も撹乱され、追撃できない。


「チッ……」


三つの影が、煙の向こうに消えた。


――――――


ライアンたちは、担架で運ばれた。


目を覚ました時、そこは簡易野戦病院だった。

消毒の匂い。

聞き慣れた、だが今は不安になる音。


「目が覚めたか」


声の主は、壮年の軍人だった。

階級章は、大佐。


「エリックだ」

「共和国軍……?」


ライアンが身構える。


エリック大佐は、手を上げた。

「安心しろ。俺は、適合兵を狩るためにここにいるわけじゃない」


ケビンが苦笑する。

「珍しいな」


「そうだろうな」


エリックは、真っ直ぐライアンを見る。

「君たちは、兵器じゃない。兵士だ」

「……そんなこと、国は言わない」


「だから、俺が言う」


その言葉は、嘘には聞こえなかった。


――――――


治療を受けながら、彼らは状況を共有した。


幻獣化。

幹部。

ロズワルドの力。


「正面からでは、勝てない」

エリックは断言する。


「だが、勝つ方法はある」

「……何ですか」


「戦争を、戦争としてやらないことだ」


エリックは地図を広げる。

補給線、研究拠点、ワクチン製造ルート。


「神話も、腹は減る」

「……なるほど」


ライアンは、初めて思った。

まだ、終わっていない。

考える余地は、残っている。


「デイビットを止める」

ライアンは言う。


「そのために、俺たちは戦う」

「人としてな」


エリックは、静かに頷いた。


絶望の中で、ようやく見えた光だった。

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