その網膜に私を映して
数ある作品の中から見つけて頂けて嬉しいです。
このサイトに慣れるための投稿練習を兼ねています。
ぼんやりと意識が浮上する。陽の光が眩しくて、朝を迎える。
頭も痛くてくるしくて、これも全部、貴女のせい。
朝は嫌いだ。わたしにとって、それは澄みすぎている。
世界に「おまえもきれいに在りなさい。」 と言われているような気がして、窮屈に感じて仕方がない。
わたしはずうっと、泥の中で眠っていたいのに。
朝は容赦ない。時計の針に追い立てられて、生きることを強制される。 ぼうっとしていると、世界においていかれてしまいそうだ。
そんなことを考えながら身支度をして、気づけば時刻は八時丁度。
わたしは今、自転車に乗って学校に向かっている。
ペダルを踏んで、踏んで、踏んで、おんなじ動きを繰り返す。道を進むにつれ、だんだん増えていく制服の群れ。
そうして周囲が同じ学校の生徒だらけになったころ、赤信号で全員止まった。
「あっ。」
ぼうっと前を見ていると、ふたつ年上の藤野先輩がふと目に入った。
私にとって、だれよりも気に食わないひと。
彼女は長くてさらさらの髪を風に泳がせて、ああ、なんて綺麗な笑顔。
見たくない。私の視界にあなたはいらない。
青だ。進まなきゃ。気づけば、先輩の姿はもうどこにもなかった。
昼も嫌いだ。わたしにとって、それはハンバーガーのピクルスのようなものだ。
急いで飲み込んでしまうことはできても、ゆっくりと咀嚼して味わうなんてことは能わない。
わたしには友達がいないから、この時間は退屈だし、さみしい。 今日は昼食を用意できなかったから、余計に暇で。
時間を潰すために行った女子便所を出て、濡れた手を拭ったその時———
不意に耳に刺さる、鈴を転がすような声。
あなたの、声。
「ねぇ、それ、半分持とうか?」
とっさに振り向くと、可愛らしい貴女と、貴女の隣で頬を染める男子生徒が目に入る。 そして、その美しい心を象徴するかのような、素敵な台詞。
あーあ、見るんじゃなかった。
痛いなぁ、胸が詰まる。ねえ先輩、やめてよ。
そいつにやさしくしないで。
わたしと先輩の出会いは、三年前。
中高一貫のここで、当時のわたしは中学一年生だった。
偶然出会って、互いに気が合って、話す回数を重ねた。
うまく周りと馴染めず不安だったわたしにとって、あなたは太陽だった。そうして、わたしは恋に落ちた。
楽しい日々はあっという間に過ぎ、あなたは高等部へ。 自然と、話す回数は減ってしまった。
その二年後、現在からみると三ヶ月前、高等部へ進んだわたしの胸は舞い踊る。
やっと、やっと、先輩と同じ高校生!
なのにあなたは裏切った。
知らない男に肩を抱かれて、驚くわたしにあなたは言った。
「紹介するね、私の彼氏!」
そうしてわたしの恋心は、傷んで、朽ちて、地面にべちゃりと落ちたのだ。
知っている。わたしはただの後輩に過ぎなかったのだと。
分かっている。すこし優しくされたくらいで、舞い上がるわたしが悪いのだと。
理解っている。「普通」の恋ができなかったわたしが悪いのだと。
夜が一番嫌いだ。 あなたのことばかり思い出すから。息が、浅くなる。
布団の繊維をすり抜けて耳に入る、父の怒声と、母の悲鳴。
もうとっくに慣れたはずなのに、鼓膜が脈打って気持ちが悪い。
こんな時は、以前のようにあなたと話したいと思う。あなたの声は、怖くないから。
たとえ状況が良くならなくても、相談すらできなくても、あなたとの他愛無い会話は確かな救いだった。
ねぇ先輩、あなたの隣の男なんて、あなたがいなくても生きていけるでしょう。
わたしは違うの。
ねえ、こっちを向いてよ先輩。
朝も、昼も、夜も、わたしの孤独をわかってはくれない。
先生も、同級生も、家族も、あなたも、わたしの苦痛を和らげてはくれない。
わたしは、理解者のいないこの世界で日々を過ごし、ゆっくりと身罷るのでしょうね。
そして、それでもあなたを望むのでしょう。
———おやすみなさい、愛しい人よ。
小説を初めて書いた時のものなので拙いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。




