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婚約破棄されたんだけど、その後とんでもないことになった  作者: はるかに及ばない


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第九話 寵姫の暴走──“慈愛の軍”誕生と、大戦の火蓋

王国暦842年 十一日目──

王都は三軍が撤退し、

瓦礫と血の匂いだけが残る“空城”となっていた。


その中心に残ったのは──

国王派である寵姫の勢力だけだった。


◆◆ 王宮──寵姫、ついに暴走する


王は昏睡状態。

王宮の財政は崩壊寸前。

食糧は王妃派の妨害で流通が止まり、

兵士たちの士気は落ちていた。


そんな中、

寵姫はひとつの“策”を思いつく。


寵姫

「……そうよ。

 民を使えばいいのよ!」


側近

「た、民を……?」


寵姫は王宮の階段に立ち、

王都の避難民に向けて叫んだ。


寵姫

「聞きなさい!

 王妃派と北方軍が王都を焼き、

 あなた方の家族を奪ったのです!!

 罪を償わせるべきではありませんか!?」


民衆

「……っ!!」

「王妃派のせいだったのか……!」

「北方軍も許せん!」


寵姫はさらに叫ぶ。


寵姫

「王が倒れた今、

 アレク様こそ唯一の希望!

 アレク様を王に──

 この国を救えるのは彼だけです!!」


アレク

「は、母上……僕は……そんな……」

寵姫

「あなたは黙って立っていればよろしいのです!」


(……末王子、完全に人形扱いである)


こうして、

王都の民衆が宗教的な熱狂で結びつけられ、

一夜にして“義勇軍”が誕生した。


寵姫はそれをこう名付けた。


寵姫

「『慈愛の軍』よ!

 アレク様の慈悲を民へ届ける軍なのだから!」


……後世の歴史家はこの軍を

“狂気の軍” と呼ぶ。


◆◆ 慈愛の軍、王都を出発


義勇軍は装備不足で、

正規兵のような訓練も受けていない。


しかし──


数だけは異様に多かった。


王都周辺の難民、商人、失業者。

数千規模が寵姫の号令だけで動き始めた。


側近

「寵姫様……軍としての形は……」

寵姫

「関係ありません!

 大事なのは“心”です!」


アレク

「ぼ、僕……こんな軍を率いるの……?」


寵姫

「もちろんですわ!

 あなたは王太子なのですから!!」


(なお本人は王太子になった覚えも覚悟もない)


◆◆ 最初の敵は“王妃派”


慈愛の軍が最初に向かった先は──

王妃派の勢力圏、西方の白塔城。


寵姫

「私たちが先に動けば、

 王妃派も西も叩き潰せます!」


側近

「い、いや……それは……無謀では……」


寵姫

「無謀?

 違います。

 これは正義です!!」


アレク

「(もう帰りたい……)」


義勇軍は大型の隊列を組んで西へ進撃した。

農具を武器にした者、

家族の仇を討つと叫ぶ者、

寵姫の教えを唱えながら歩く者。


王都は狂気の色に染まり始めた。


◆◆ 一方その頃──第二王子セドリック


白塔城の会議室。


王妃派重臣

「殿下、報告が入りました。

 国王派……いえ、寵姫派の“民兵軍”がこちらへ進軍中です」


セドリック

「……民兵軍?

 本気で……?」


重臣

「はい。

 王都の避難民を束ねて軍にしています。

 おそらく寵姫様の独断です」


セドリックは深く息を吐いた。


セドリック

「……母上も、あの婦人も……

 誰も止める者がいないというのか」


重臣

「むしろ誰も止められない状況で……」


セドリック

「……ならば迎撃するしかない。

 だが、民衆に剣を向けるのは……」


そこで重臣が言った。


重臣

「殿下。

 “彼らはもはや民ではありません”。

 寵姫の狂信に染まっています」


セドリック

「…………そうか」


その眼は、

優しさを削ぎ落とした“覚悟の眼”になっていた。


◆◆ さらに北方では──第一王子レオンハルト


氷壁砦。

北方の風が吠え、戦の気配が濃い。


レオンハルトは今日も友の墓前にいた。


レオンハルト

「イルヴァン……

 私の愚かさの代償は……

 お前たちの命だった……

 せめて、これ以上……

 誰も死なせたくない……」


そこに辺境伯が歩み寄る。


辺境伯

「殿下。

 寵姫派の“狂信軍”が西へ向かっている。

 西は危険だ。

 王妃派と衝突する」


レオンハルト

「な……!?

 もう戦が……始まるのか……?」


辺境伯

「始まったのは、殿下の婚約破棄の日からです」


殿下は拳を握りしめた。


レオンハルト

「……私は……この戦を終わらせられるのか……?」


辺境伯

「殿下が立てば、できる。

 殿下が逃げれば……滅びる。」


その言葉に、

レオンハルトはゆっくり頷いた。


レオンハルト

「……逃げない。

 もう逃げない……!」


この瞬間、

最も頼りなかった王子が、

最も強い決意を抱いた。


◆◆ 三王子大戦の幕開け


こうして、


寵姫が率いる“狂信的慈愛軍”


西で構える“王妃派精鋭軍”


北の“辺境伯・第一王子連合軍”


三者が互いに睨み合い、

ついに最初の衝突が西方に迫る。


後世の歴史家は言う。


「この日、王国は完全に“狂気の戦場”へ変貌した」


そしてこれはまだ、

地獄の入り口にすぎなかった。

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