第六話 王都包囲──最初の激突と、王宮の血の現実
王国暦842年 八日目──
王都は三つの軍勢に囲まれていた。
王妃派(旧侯爵家・公爵家)
辺境伯派(第一王子派)
国王派(寵姫・国王軍)
三軍は互いに疑心暗鬼となり、
それぞれが“敵を先に叩くべきだ”と考え始めていた。
そんな中──
最初に刃を交えたのは、
王妃派と辺境伯軍 だった。
◆◆ 夜明け前、王都西門──最初の開戦
王妃派は、侯爵暗殺の怒りが収まらず、
公爵家主導で軍の隊列を進めていた。
先陣を務めるのは、侯爵家騎兵隊。
指揮官は若侯爵──父を議会で殺された青年である。
若侯爵
「父を殺したのは誰だ……?
答えは出ている……
寵姫派か、辺境伯派か──どちらかだ!」
怒りに燃える軍勢は、王都西門へ向かうが──
そこに立ち塞がったのは、黒い軍旗。
辺境伯軍・北方重装歩兵団である。
将軍
「王妃派の諸卿よ。
これ以上王都に近づけば、こちらも容赦はせぬ!」
若侯爵
「黙れ! お前たちこそ、父を殺した刺客の主だろうが!」
将軍
「根拠なき決めつけは戦を呼ぶぞ……!」
若侯爵
「分かっているとも……
だから斬る!!」
鬨の声が上がる。
両軍が同時に前進した。
──王国大戦の最初の衝突が、始まった。
◆◆ 王都西門の死闘
王妃派の騎兵が突撃し、
辺境伯軍の重装歩兵が盾を重ねて受け止める。
矛の先に、骨が砕ける音。
鉄と鉄がぶつかり合い、火花が散る。
叫び。
血。
砂塵。
“王都で戦が起きるなど、誰も想像していなかった”。
だがいま、
王都の石畳は赤く染まり、
朝日が昇る前に百を超える死体が転がっていた。
将軍
「後退は許さん!
第一王子レオンハルト殿下の御名のもとに戦え!!」
若侯爵
「愚かな第一王子の名など聞きたくもないわッ!!
父を返せ!!」
怒号は空へ消え、
戦は激しさを増す。
◆◆ 一方その頃──王城内
王宮は、王妃派の騎士団により半包囲され、
国王派の兵が城門を守っている。
そこへ──
第一王子レオンハルトが駆け込んだ。
レオンハルト
「リリア!見るのだ!
我がために二つの軍が戦っている!!
これは……皆が我を王と認めてのことだ!」
リリアは蒼白になっていた。
リリア
「で、殿下……これは……大変な争いになって……」
レオンハルト
「争いではない!
“王位継承のための儀式”だ!!
これは王家の宿命だ!!」
侍従たちは誰も目を合わせなかった。
…そのとき。
王宮の廊下で
血のついた担架が運ばれてきた。
侍従
「道を開けろ!
重傷者だ!!」
レオンハルトは目を丸くした。
担架に乗っているのは──
王妃派の騎士。胸を深々と切られ、息も絶え絶え。
騎士
「……で、殿下……
辺境伯軍と……殺し合いになりました……
もう……止まりませ……」
レオンハルト
「殺し合い……?
いや……あれは“私のための示威”であろう?」
騎士
「……殿下の……ため……?
違います……
皆、殿下のために……
死んでいる……のではなく……
殿下の……“せいで”……」
そこで騎士は言葉を途切れさせ、
息絶えた。
廊下に重い沈黙が落ちた。
レオンハルト
「…………え?」
その時、王宮の外から
怒号と悲鳴が押し寄せて聞こえてくる。
「退けッ!!」
「押し返せ!!!」
「王妃派が王門を突破するぞ!!」
レオンハルトの顔が、初めて歪んだ。
レオンハルト
「……これは……
“私が”始めたのか……?」
リリアが震える声で呟いた。
リリア
「殿下……やっと……気づいたんですか……」
◆◆ 王宮、血の匂い
レオンハルトの前に、
王宮の侍従長が歩み寄った。
侍従長
「殿下……これが“現実”です。
婚約破棄──ただそれだけの出来事が、
すべてを分断し、王国を戦へと導いたのです」
レオンハルト
「わ、私は……
私は……ただ……
真実の愛を……」
侍従長は静かに告げた。
侍従長
「殿下の“真実の愛”の代償は……
この王宮に満ちる血です」
その言葉は、
初めて第一王子の心臓に突き刺さった。
レオンハルト
「…………私が……
私は……この惨劇を…招いた?……もう私は王に……なれぬのか……?」
“ようやく気づいた”
というより、
“ようやく逃げ場がなくなった”
というべきだろう。
◆◆ 王都、完全な戦場へ
王妃派と辺境伯派の戦線は膠着し、
そこへ国王派の軍が合流し始める。
三者の怒号が交錯し、
街路は死体と火の手で埋まり始めた。
侍女
「……もうダメです……
王都は……戦場になってしまいました……」
私は王妃の側で震えるしかなかった。
王妃
「エレオノーラ……
これは“まだ序章”よ……
これから、もっと……酷くなる」
王宮の窓から見えたのは──
赤く染まった空。
王国は、
もはや“戦乱の国”となっていた。




