第五話 王、倒れる──三軍進発と王宮暗殺未遂
王国暦842年 七日目──
議会で侯爵が暗殺されてから一晩。
王都は、まるで何かに憑かれたように動き始めた。
三勢力すべてが、軍を動かしたのである。
◆◆王妃派(旧侯爵家・公爵家)
王妃の兄を殺されたことで、
侯爵家内部は激怒と悲嘆に包まれていた。
当主の座を継いだ若き侯爵(侯爵の嫡男)は
父の血に濡れた軍旗を掲げた。
若侯爵
「父を殺したのは国王派だ!
この恥辱、必ず晴らす!!」
公爵家も即座に行動。
王都の北門・西門を制圧し、
王宮に向けて包囲網を敷き始めた。
王妃は震える声で命を下す。
王妃
「……王宮を守りなさい。
誰も……誰も、陛下に近づけてはなりません」
しかし、王妃自身も気づいていた。
“真犯人が誰なのか、まだ誰も分かっていない”
という恐怖を。
◆◆辺境伯派(第一王子派)
北方の軍閥を率いる辺境伯は、
議会の混乱こそ好機と見た。
辺境伯
「王妃派は侯爵を失い弱体化している。
いま王宮を押さえれば、レオンハルト殿下の王位は確実だ!」
若き将軍
「北方騎士団、王都へ進発!
敵は王妃派と国王派、双方だ!」
第一王子レオンハルトは
まだ事態の重大さを理解していなかった。
レオンハルト
「おお!我を王と仰ぐ者がこんなに!
リリア、ついに我が時代だ!」
リリアは青ざめていた。
リリア
「で、殿下……これ、本当に……戦では……?」
レオンハルト
「愛のための戦だ!!」
……やはり、理解していない。
◆◆国王派
国王派は寵姫を中心に団結し、
“王妃派のクーデター”を主張して兵を集めていた。
寵姫
「侯爵の暗殺など知りません!
きっと王妃様が仕組んだに決まっています!」
側近
「寵姫様……証拠は?」
寵姫
「そんなもの要りません!
私がそう思ったのです!!」
(……こんな人が国王を動かしていたのか)
侍従たちは皆、胸の奥で同じことを考えた。
国王直属軍も王宮の半分を抑え、
アレクを王太子とする発表の準備を始めていた。
――だが、この直後、
王国の運命を決める“最悪の事件”が起きた。
◆◆王宮──暗殺未遂
夜の王宮。
見張りが交代するわずかな隙が生まれた瞬間だった。
王の寝室から、破られた扉の音が響く。
侍従
「な、何者だ!!」
刃が閃き、
侍従二名が倒れた。
寵姫の悲鳴が王宮に響く。
寵姫
「だ、誰か!!
陛下が!!
陛下が殺される!!」
寝室の奥で、
王が胸を切り裂かれ、血に染まって倒れていた。
医師
「まだ息はある!
だが……深い……!」
侍女
「こ、これは王妃派の仕業……!?」
別の侍女
「いいえ!国王派の狂信者よ!
自作自演だわ!!」
兵
「辺境伯派の刺客だ!!
王を殺して第一王子を王にする気か!!」
その場の誰も、真相など知らなかった。
ただ一つだけ確かなのは、
王が致命的な“空白”になったという事実。
医師
「い、意識が戻りません……
陛下は……昏睡状態です……!」
王宮中にどよめきが走った。
◆◆王、不在の玉座へ
王の意識が戻らない。
その事実は、
三勢力すべての判断を狂わせた。
王妃派:
「陛下が倒れた今、王妃こそ実権を握るべきだ!」
国王派:
「寵姫様が王の意思を継ぐのだ!」
辺境伯派:
「王が昏睡なら、第一王子が摂政だ!」
三者三様に“自分が正義”を主張し始めた。
その結果──
全軍、総進発。
王都へ向けて三方向から進軍が始まった。
王宮は、王の不在を中心に
巨大な渦へと飲み込まれていく。
私は王妃の側で震える声を聞いた。
王妃
「エレオノーラ……
もう、止められないところまで来てしまったのね……」
私は答えられなかった。
なぜなら、王宮の窓から見える松明の光は──
すでに“三つの軍勢”が王都へ迫っていることを示していたからだ。
戦乱は、もう始まってしまった。




