第十五話 暴走する寵姫──沈黙の王、最後の威光
玉座の間は、
セドリックこそが“器を備えた王子”であると
王が認めた瞬間から静まり返っていた。
しかし、
その静寂は――長く続かなかった。
◆◆ 寵姫、絶叫の暴走
寵姫
「――あり得ませんッ!!」
玉座の間が破裂するかと思うほどの叫び声。
寵姫は玉座へ向かって、
ヒールの音を引きずりながら前に出た。
寵姫
「アレクが王になるのです!
あの子は! あの子こそが陛下の寵愛の証!
“私たちの未来”なのです!!」
アレク
「母上、やめてっ……!」
セドリック
「寵姫殿……落ち着いてください」
寵姫
「黙りなさいッ!!
あなたになにができるの!?」
兵たちは腰に手を掛けかけ、
王妃派と寵姫派の間で怒号が飛び交った。
あと一歩で、また戦が始まる。
王妃
「この狂女……!!
再び戦を呼ぶつもりか!」
寵姫
「戦でも何でもいいわ!
アレクの道を、誰にも邪魔させない!!」
今にもセドリックへ斬りかかりそうなほど、
寵姫は正気を失っていた。
◆◆ 王、立ち上がる
王は痛む身体を押し、
玉座から立ち上がった。
侍従
「陛下! 動いてはいけません!」
王
「――黙れ」
その声は、
王都中の兵を震わせたであろうほど重く静か。
寵姫はその声に、一瞬だけ動きを止めた。
王
「寵姫よ。
それ以上、玉座へ近づくな」
寵姫
「ど、どうして……!?
陛下は……ずっと私とアレクを……!」
王
「だからこそだ」
王は、傷口が裂け血が滲むのも構わず
寵姫の前に降りて来た。
今にも倒れそうな足。
しかし、その背筋はまっすぐだった。
◆◆ 王の言葉
王
「わたしは……確かにお前を愛した。
アレクを愛した。
そのことに嘘はない」
寵姫は揺れる瞳で王を見る。
王
「だが――
それと“王国の未来”は別だ」
寵姫
「そ……そんな……」
王
「アレクはまだ幼い。
お前が望むほど強くはない。
今、玉座に座らせれば……
彼は必ず潰れる。」
王の声は優しく、しかし断固としていた。
アレクは震えながら
「父上……」と呟いた。
王
「アレク。
父は……お前に生きてほしい」
寵姫は後ずさり、
壁にもたれかかって崩れ落ちた。
寵姫
「……いや……
いやよ……そんなの……
アレク……アレク……」
母としての涙だった。
◆◆ 玉座の間、沈黙
王は深く息を吐き、
セドリックに向き直る。
王
「セドリック。
お前に託す。
この国を……」
セドリック
「父上……」
北方軍も王妃派も、
そして国王派さえも、
この瞬間だけは言葉を失った。
絶望の縁にいた王が、
己の血を流しながら
最後の力で三勢力を止めた――
その姿は、
誰の目にも“王”そのものだった。
◆◆ 歴史家の注釈
後世の史書はこう記す。
「玉座の間の奇跡」
王妃派と寵姫派が武を構え、
内戦が再燃する直前――
瀕死の王が立ち上がり、
寵姫の暴走を止めた。
もしあの時、王が動けなかったなら、
王国はその場で崩壊していただろう。
そして――
この出来事により、
三王子大戦は新たな方向へと動き始めたかに見えた。




